第16話 古武術『流水』
俺とマユは訓練場にいた。この訓練場は某漫画にヒントを得て、時間の流れを変えている。訓練場での1時間は、外の場所では10分である。つまり、外の1時間で訓練場の中では6時間になる。しかし、体内時計は外の時間に合わせて動くので、12時間訓練しても体は2時間と認識する筈・・・だ。何しろ俺自身も初の試みなので、取り敢えずやってみようとマユと中に入った。
「タモツさん、足型が書かれているのは?」
「おっ、気付いたか。あの足型が流水の歩方だ。足幅はマユに合わせてある。先ずはあの足型通りに普通に歩いて動きを覚えてくれ。覚えたら、次は俺が見本を見せる」
「はっ、はい。先ずは普通に足型通りに歩いて覚えるんですね。やってみます」
「ああ、慌てる事はないからな。時間はたっぷりあるから」
「はい……」
……結果、マユは1時間で覚えた。
そして、俺は流水の歩方の本当の動きを見せた。流れが途切れない様に滑らかに動く。それを見て、
「まるで、踊りを見ているようです!」
とマユが言ったが、あながち間違いでもない。師匠の話では大昔に免許皆伝に至らなかった者の中に踊りの世界の祖になった人がいると言っていた。しかし、師匠は眉唾だとも言っていたが……
「マユ、流水の歩方は名前の様に流れる水が如く止まってはならないとされている。俺も横で動くから、真似をして先ずは動いてくれ」
「はい。頑張ります!」
それから5時間が経過した。若干のぎこちなさは残るが及第点と言える動きにマユはなっていた。
覚えるのが早すぎる…… 俺はコレばかり1年はかかっていたぞ……
「凄いな、マユ! 初めて武術に触れたとは思えない成長だ!」
俺がそう言うと、
「タモツさん、想像して動いてみると体が滑らかに動いてくれたので、自分でもビックリしてます!」
と答えが返ってきた。
う~ん、さすが
「想像して動いたのが良かったんだろうな。一応、これから毎日この歩方を始めにやるようにしよう。少し休んだら無手術の基本にしようか。体調は大丈夫か?」
「はい、問題ないです。こんなに気持ち良いのは久しぶりです」
とニッコリとマユは笑った。
それから、30分程の休憩を挟み無手術の基本型をマユに教えながら3時間経過した時に2人同時に感じた!
「んっ?」「あっ?」
「これは、位階が上がったか。」
「タモツさんもですか? 私も感じました」
「「能力値表示(位階)」」
タモツ 位階:九段
マユ 位階:4級
「やった! 上がったな!」
「はい! 私も上がりました!」
「良し! 今日の訓練はここまでにしよう。出て昼飯の準備をしよう」
「はい。分かりました。午後からはどうしますか?」
「午後からは自由時間だな。俺は少し外に出てこの辺の魔獣を調べてみる」
「私はついて行かなくてもいいんですか?」
「まあ、先ずは俺だけで様子を見てくるよ。それによってマユにも出て貰うかも知れないけど・・・俺的にはマユの位階が段位になるまでは待つつもりだけどな」
実際、この辺りの魔獣は王国の兵士では相手にならないようだし、マユにはまだ少し早いだろうと思う。せめて、3級だな。そんな事を考えながらマユに、
「取り敢えず、魔獣の素材で良さそうなのを見繕って訓練用の武器も作成したいから、様子見してくるよ。マユは出来たら想像の幅を広げて見てくれ。さっきまでの訓練のイメージトレーニングでも良いし」
「はい。タモツさん、気をつけて下さいね」
少し心配そうな顔をされたが、
「大丈夫! 流水には対人だけじゃなく、対獣、対妖怪の技もあるから」
と返すと、
「対妖怪っ! ですかっ!?」
とビックリされた。
「ハハハッ!眉唾だけどな。けど、師匠からはそう聞いてるから。訓練が進んで位階が二段になったらマユにも教えるよ」
「はっ、はい! 楽しみですっ!!」
食いついてきたが…… 大丈夫だよな、マユ……
因みに俺が思った通りに体内時計は外の時間経過に合わさっていたので、空腹を我慢する事は無かった。
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