第21話 潜入、ハイレッカ王国

 出立しようと思ったがその前に、エルダートレントへの土産代わりにハイレッカの現状を調べる事にした。しかし、問題が1つ……


「タモツさん、私も行きますからね!」

 

 マユが絶対に行くという決意を顔と声にのせて言う。


「う~ん、でもなぁ…… もしも奴らに見つかるとなぁ……」


 と俺は渋るが、


「見つからない様に慎重に行動しますし、見つかっても技能を駆使して逃げます。タモツさんの指示には絶対に従いますから。お願いします」


 と頭を下げられると俺としても無下には出来ない訳で……


「分かった。一緒に行くか。一応、【隠蔽】と【隠密】の両方を使用して3馬鹿トリオの今の状況やハイレッカの腹黒姫の動向を確認しよう。但し、無理はしない。バレそうになったら即時撤退な」


「はい!」


「それと見つからずに必要な事を調べ終わったらそのままランゲインに向かうから、この拠点にある物で必要だと思う物は【生活箱】に入れておくように」


「あっ、はい。タモツさん、この拠点はどうするんですか? 消してしまうんでしょうか?」


 マユは心配そうに聞いてくるが、


「ああ、拠点はそのままにして【時間操作】で時を止めておくよ。俺とマユは好きな時に入れる様にしておくし、入ったら時は動く様にしておくから。折角の居心地が良い空間だからもしもの時の為に残しておこうと思う」


 と俺は考えていた事をマユに伝えた。まあ、実際には俺とマユが使用する事はそんなにないかなぁ…… 実は行く場所ごとに他人には内緒の拠点を作るつもりなので、ここはあまり利用しないだろうと考えていた。そしてこのまま封印されたままだろうなぁとこの時の俺は考えていた。


[数十年後には再びこの拠点がある人物によって使用される事をタモツもマユも今は知らない。]


「良し、忘れ物はないか?」


「はい。大丈夫です」


 マユの返事を聞いて、俺は【転移】を使用。レイン領の街外の人がいない場所へと移った。

 因みに、俺もマユも追放された時とは見た目がかなり変わっている。俺は当時78kgあった体重が59~62kgのスッキリさんに変わった上に、伸び放題だった髪も短髪にカットした。マユは逆で25~27kgしか無かった体重も43~45kgに増えて健康的になり、髪もショートヘアにカット。

 2人とも、チラッと会っただけの騎士達にはバレない自信がある。

 そこで街中での噂集めでは【隠蔽】【隠密】を解除して、宿を先ず決めた。宿は街の中心部に近い〖フクロウの巣〗にした。何処で聞いても一番に名前が上がるし良心的かつ安心、清潔な宿屋と教えられたからだ。

 俺とマユは親子として行動している。マユには恋人としてと言われたが、却下した。宿の女将さんに夕方、男女2人でも入れる居酒屋みたいな場所はないか聞いてみた。


「おや、まあ旦那さんはともかくお子さんはまだ成人前でしょう? そしたら難しいわねぇ」


「いや、あねさん俺の娘は幼く見えるかも知れないけど、もう17歳なんだが」


「おやまあ、成人して2年も過ぎてるのかい? そりゃ失礼したね。随分と若く見えたもんだから」


「はははっ。そりゃあ良い。女性は若く見られる方が嬉しいらしいから。あねさんもそうだろ?」


「違いないねぇ。旦那さん、それでもお嬢さんを連れてとなると難しいかもね。うちの隣で私の亭主がやってる居酒屋なら客層もまあまあだけど。料理も自慢出来るレベルのを出してるよ」


「おっそりゃあ良い。酔って帰るのも隣なら楽だし! 良し、今晩はあねさんの旦那さんの居酒屋で親子共々飲ましてもらおう」


「ハハッ、飲み過ぎて潰れてもうちの亭主に宿まで連れて帰るように伝えておくよ」


 そして夕方。女将の亭主がやってる居酒屋〖猛禽酒屋〗へマユと2人で向かった。宿を出て歩いて7歩だが……


 居酒屋には時間が少し早いのか客はまだ居なかったが、その方が都合が良い。入るとカウンターの奥のマッスル親父が、


「いらっしゃい。ああっカミさんから聞いてるよ。好きな席に座ってくれよ」


 と声をかけてくれた。


「おおっ、じゃあココで」


 とカウンターに座る。マユを端に座らせたのは横に変な男が座らないようにだ。


「おっ、お父さん。何でも頼んで良いのかな?」


 少し言いにくそうにマユがお父さんと言う。


「ああっ好きな物を頼め。親父さん、エールはあるかい?」


「ああ、あるけど旦那さんは物好きだね。エールなんてのは真冬じゃないと普通は飲まないよ」


「冷えてないんだろ。大丈夫、俺には秘策があるから2つくれよ」


「あいよ。 ……ほい、エール2丁!」


 出てきたエールは日本では見なくなった大ジョッキサイズだった。こりゃあ尚良い!


「良し! ここでこのエールジョッキをこうする!」


 俺は【加工】を使用してジョッキを永久的に冷える様に改造した。1つを親父に渡し、


「と、まあこんな事が出来るんだ。どうだい? 親父さん、他のジョッキにも同じ様に内緒でするからこの街の噂話を聞かせて貰っても良いかい?」


「なっ!こりゃあスゲーッ! 旦那さんは錬金術師かい? いや、しかしこんな短時間で錬金出来るなんて筈がないし……」


「いやいや、親父さん実はこの国とは違う場所で学んだ技でな。俺も此れしか出来ないんだ」


 俺の口から出任せを聞いて親父さんは、


「そうなのかい。でも此が出来るならアチラコチラの居酒屋で依頼されるだろ?」


「ああ、だから今までの旅の路銀はそれで稼いできたんだ。ただ、旅の噂で勇者様が召喚されたと聞いてね。俺達みたいなのは情報も大事な金づるだから」


「しかし、良いのかい?これは大金を稼げる元だろう?」


 と親父は心配そうに言うが、


「な~に、今までの所で大分稼いだからな。この街では勇者様の情報を集めて商人なんかに売ろうと思っているんだ。だから、気にせずに他のジョッキもやらせてくれよ。但し、俺がやったって言うのはナシで頼むよ。目立つとお貴族様なんかに目を付けられて自由に旅が出来なくなるから」


「おお、それじゃ頼むよ。うちは常連しか来ないから、そいつらにも内緒にさせておけばバレないしな」


 と親父はホクホク顔で大中小のジョッキを差し出してきた。

 勿論、全てに【加工】をして親父に渡して先ずは親父に3馬鹿トリオの噂を聞いてみる事にした。

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る