第22話 勇者達の今……
「で、親父さん。勇者様はどうしているかって噂はあるかい?」
俺は
「私、回面鶏のモモ串タレと塩を各1本と、皮串もタレと塩で各1本を下さい」
といきなり注文しだした。そして、
「お父さん、ここは居酒屋さんなんだから何か注文してあげないと。それにお腹が空いたし…… あ、叔父さん私にもエールをお願いします」
正論だった……
「あ~、親父さん悪いな。俺も長毛牛のサイコロステーキにジャガーサラダを頼むよ」
「はははっ。娘さんは良い
と、親父はニコニコしながら話だした。
親父の語るところによれば……
勇者タツヤは騎士団との模擬訓練を終えて、近くの森で魔獣相手にレベルアップをしている所で、噂ではもうすぐレベル13になるらしい。
『うん?思ったよりも遅いな成長が』
但し、若く見目良い女性に見境がなく、勇者の立場を利用してやりたい放題らしい。何でも一番最初に世話役として付けられた侯爵令嬢は心を壊してしまい、実家に強制送還されたが、親である侯爵が王女に抗議しても、
『勇者様のお世話も満足に出来ないなんて、とんだ役立たずでしたわね』
と逆に抗議されたらしい。それにより、王女の領都管理をしていた侯爵は役を辞して、娘共々姿を消したらしい。
勇者ミドリは魔法士団の士団長に基礎~中級を学ぶ
勿論レベルも上がりが悪く、未だにレベル8だとか。コチラとしては有難いが、流石に3馬鹿トリオ1の馬鹿だと思った事は心に閉まっておこう。
勇者アヤカは最初はミドリと同じく魔法士団で魔法を学んでいたようだが、最近は神殿に赴き神官達と行動を共にしているそうだ。また、その活動内容が、貧民街での炊き出しや病人や怪我人への無料での治療と、本当に勇者らしい活動をしているそうだ。だから、アヤカは街の皆に親しまれているらしい。が、やはりレベルアップは活動内容からして難しいらしく、こちらもレベルは未だに9だという話だ。
俺はレベルの数値まで出てくるので親父にこう聞いた。
「勇者様のレベルなんて、本当は機密事項じゃないのか? そんなに噂になって大丈夫なのか?」
「はははっ、確かにな。本来なら黙っておかないとダメなんだろうけど、アヤカ様自身がお話になっているのでな。誰も止められないようだよ。さすがに街の外で喋るなと箝口令は出されてるが、逆に言えば街中なら口にして良いって事だろ?」
「成る程な~。立派な
と俺は親父を見てニヤリと笑った。すかさずマユが、
「私にもエールお願いします」
と頼んでいたが、大丈夫か?酔ってる様子はないが。
「お父さん、明日は早めに起きる予定なんだから、このエールを飲んだら宿に戻りましょうね」
とマユに言われた。欲しい情報は親父から手に入ったし、それもそうだな。明日の行動予定もたてたいし、これを飲んだら宿に戻ろう。
「おう、そうだな。このエールを飲んだら酔っぱらう前に宿に戻ろう」
とマユに言って俺はエールを飲み干した。が、マユまで一息に飲み干したので思わず、
「だ、大丈夫か?一気なんかして!」
と聞くと、
「らいじょうぶらよ~。きょれくらぁのおちゃけで酔ったらしましぇんよ~」
と呂律が回ってない…… こりゃあかん。連れて帰ろう。
「親父さん、ご馳走さん。この酔っぱらいを連れて戻るわ、貴重な話も有り難うな」
「あいよ~。嬢ちゃんは大丈夫かい? こっちこそ、ジョッキの改造を有り難うな。これで夏でもエールが売れるようになるよ! 近いけど、気をつけてな!」
と、送り出してくれた。そして、俺はマユを抱えて徒歩7歩の宿に帰った。
部屋に着いたらマユがいきなり脱ぎ出した。
「おいおい、ちょっと待て待て! ここで脱ぐなーっ!」
「何れれすか? タモさんは、服を着たままお風呂に入れっれって言うんれすか?」
「いや、俺はあんな有名人じゃないぞ。マユ、服は脱衣所があるから其処で脱ごうな。なっ!」
「らついじょれすか? れも、わらひはなんかフワフワしれるからひろりでおふろに入るろは不安なんれ、タモさんもいっしょにはいっれくらさいね。らから、ここれいっしょに服を脱ぎ脱ぎしましょう~」
「あっおいっこらっ脱がすな、俺は後から入るから、こらって聞けよマユ!」
酔っぱらいの力は侮れず、しかも酔って余分な力が抜けているためか、【流水の対人】の技が恐ろしい位に的確に俺に入る。俺はマユを怪我させられないから本領を発揮出来ずになし崩しに服を脱がされて2人で風呂に入ってしまった……
まあ、俺は不能状態だからマユの貞操は大丈夫なんだが、こんなオッサンに裸を見られたくないだろうと俺なりに気を使って両目は瞑ったままで風呂に入っている。取り敢えず、マユに先に湯船に入ってもらい、俺は体を洗った。そしたら、酔いが覚めてきたのかマユが、
「タモツさん、ごめんなさい」
と謝ってきた。
「ん~? どうした、酔いが覚めたか。それじゃ、気分悪いだろうから俺はもう出ようか」
「ちっ違うんです。一緒に入れて嬉しいんですけど、タモツさんは目を瞑って私を見てくれないから迷惑だったんだなって」
と、後半は涙声で言うから、
「バカ言うなよ、こんなオッサンに綺麗な姿を見せるのは恥ずかしいだろうから目を瞑ってるんだよ。迷惑だったらそもそも一緒に入ってないしな」
「きっ!綺麗だなんて! タモツさんが良ければ幾らでも見て下さい!」
ザバッと湯船からマユが立ち上がる。
「いやいや、待て待て! 落ち着けマユ。あのな、危機的状況からたまたま俺がマユを助けたから、俺に好意を持ってくれてるのは嬉しい。が、それは本当のマユの気持ちじゃないかも知れない。だから、な、一旦落ち着いて後半年位はせめて自分の心を見つめて過ごせ。その方が絶対に良いから」
俺は慌ててそう言ってマユを落ち着かせる。
「私はこの数ヶ月の間、ずっと考え続けて来ました。だから、この気持ちは本当です」
「それでも、だ。これからこの世界のアチコチを旅する訳だし、その中でマユの気持ちも変わるかも知れないだろ? だから、今慌てて結論を出すのは止めようや」
と、俺は内心のドキドキを表に出さずに大人の男として理性的に話して聞かせた。
「う~ん。でも、私の気持ちは変わりませんからね、覚悟していて下さい。タモツさん」
と、気配でマユがニッコリ笑ったのを感じつつ、
「ああ、分かったよ。だから、今日は大人しく寝ような」
と、俺は言って苦笑したのだった。
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