第30話 タツヤ強制送還、ミドリは?

 タモツ達は話し合いを続けていた。その話の中で神殿長より耳寄りな話があった……


「つまり、何らかの絆が勇者とこの世界の間に合って、その絆を断ち切る事が出来れば勇者は元の世界に強制送還されるって訳か?」


 俺がそう聞くと神殿長は、


「はい。神殿にある神からのお告げを書き記した書物にはそう書いてありました。ただ、今回はタモツ様から聞く話では既に勇者ではなくなっているとの事…… ですので何故、彼等が送還されずにこの世界に留まっていられるのかが分かりません」


 そう聞いたアヤカが、


 「もしかして、何ですけど……」


 と自信が無さそうに言いかけるので、


「おっ、何か思い付く事があるなら教えてくれ」


 と話の続きを促したら、


「あの推測なのですが、王女レインのお付きだったガルバは堕神の眷属だと思います。そして、その堕神は悪しき者とは言えこの世界の神なんですよね? その堕神との間に彼等が絆を結んでいたとしたら、それが強制送還を邪魔している可能性もあるかな? って……」


 皆がその言葉を聞き、


「「「「「「それだっ(です)!!」」」」」」


 と納得したのだった。


「良し、取り敢えずは堕神との絆を断ち切ってタツヤとミドリには地球に戻って貰うか」


 俺が気軽にそう言うと、


「タモツさん、地球にそのまま還しても大丈夫なんでしょうか? この世界で得た力とかは無くなるんでしょうか?」


 と心配して俺に聞く。が、勿論だけど俺にも分からないので、神殿長を見ると、


「マユ様、ご安心下さい。この世界との絆を断ち切っての送還になりますので、得た力も全て無くなりこの世界に召喚される前の状態や時間軸に戻されると書いてあります。つまり、この世界には来てないと言う事になるようです。私も理解が難しいのですが、神の神業みわざですので、その様な事だと思っております」


 神殿長の言葉を聞き、マユは


「それなら、良かったです」


 と安心したように言った。しかし、俺は少し疑問に思う。


『絆って…… 俺とマユにはこの世界との間に絆はないよな? けど、強制送還はされてない……

そうか! 俺とマユは想像を創造しているから、逆にこの世界よりも上位規格なのか! だから強制送還されない…… って事かな?』


 まあ、そんな所だろうと思う。多分だけど。


 俺がそんな事を考えていると、アヤカが


「タモツさん、マユ、私、ライの4人で対処すると言うことで良いですか?」


 と言っていたので、俺は


「カイゼル、カミナ嬢ちゃん、神殿長にも来て貰おうや。特にカミナ嬢ちゃんには鬱憤を晴らして貰わないとな!」


 と俺が言うとマユとアヤカ、ライも含めて


「危険です。彼等を守りながら対処出来るでしょうか?」


 と言うので、


「ああ、結界はるから大丈夫だよ。それに、タツヤとミドリは別行動だから個別に対処するようになるし、どちらか1人なら、マユとアヤカの2人なら余裕で勝てるぞ。まあ、今回は嬢ちゃんの鬱憤晴らしの為に『玉』潰す時は嬢ちゃんにやって貰うけど」


 と俺が言ったらギラギラした目でカミナが、


 「やりますっ!!」


 って前のめりで返事した。ライが股間を押さえながら引いていた……





 それから、俺とマユは転移を使い先ずはタツヤの方に向かった。何故ならあいつが狙っているのは抵抗出来ない女性で、ミドリは強い男を基準に選んでいるので王女レインの兵士から気に入った者を狙っているからだ。

 その相手のほとんどがレインの信者だったので後回しでも良いだろうと皆の意見が一致した。そして、タツヤが騎士団と共に訓練している場所に転移したのだが……


「くっ凄まじい瘴気が……」


「何故、こんなに薄暗い……」


「あ~、あいつ完全覚醒したな、【史上最悪の色魔】に」


「騎士団の人達もおかしくなっているようです」


 皆が口々に言っていると、テントの中から悲鳴が響いた!


「いやーーっ! いやっ! 来ないでっ!」


「タモツさん!」


 悲鳴を聞いた瞬間に飛び出した俺にマユが声をかけるが、今はそれどころじゃないので無視してテントの中に飛び込んだ。


「うおっ!誰だっ!」


 タツヤが飛び込んだ俺を見る。俺は既に悲鳴をあげた女性とタツヤの間に入っている。俺を見たタツヤが、


「ギャハハハッ! 見違えるほど痩せたけど、農夫のオッサンじゃねーかっ! 何しに来たんだ? まさか、俺を倒しに来たって言うんじゃねぇだろうな?」


 タツヤの馬鹿にした声を無視して、


「もう、大丈夫だ。外に行って俺の仲間と一緒にいてくれ」


 と女性に声をかける。


「ああーん! 俺を無視するなんて良い度胸じゃねぇか? オッサン! 死ねや!」


 タツヤが剣を振りかぶり俺に向かって来るが、かなり怒っていた俺は加減をしながらもかなりの力を込めて技を打ち出した。


「【古武術:邪心破天】!!」


 タツヤは俺の拳をマトモに喰らい、奇声を上げながらテントを突き破った。


「ゲボッ! グラガァーッ!!!」


 俺の技を喰らったタツヤの体から細い光が3本出ている。


「タモツさん、大丈夫ですか?」


 駆け寄ってきたマユに、


「大丈夫だ。それよりマユにも見えるか? 細い光が?」


「はい。私達だけじゃなく、皆にも見えてるみたいです」


「よし、それじゃカミナ。こっちに来てくれ」


 俺はカミナに声をかけて来てもらう。その手に剛腕棒を渡して、一言。


「潰して良しっ!!」


 俺の声を聞いたカミナは躊躇いもせずに棒を構えて、タツヤの股間を叩いた!


「£₩℘∇∈₭₮₵!!!!!」


 タツヤは泡を吹いて悶絶している。更に叩こうとしたカミナの手を抑えて、


「おっと、もう潰れてるからこの辺にしとけ。これ以上やると死んじまう。カミナの手をこんな奴で汚す必要はねえよ」


 と俺が言うとカミナは


「でも、タモツさん、コイツは地球に帰ったら同じ事をします! 私は女性の敵であるコイツはここで殺しておくべきだと!」


 カミナが激情をぶつけてくるので、


「ああ、それも大丈夫だ。カミナが潰した玉は地球に帰っても潰れたままになるようにしてある。それに、神経を壊して起たない様にもするから女性の敵にはもうならないよ。信用してくれ」


 と言って剛腕棒を受け取った。そしてマユに


「マユ、剛腕刀で光を切ってくれ。そしたらコイツは強制送還される」


 マユは俺の言葉を聞き、剛腕刀で3本の光を断ち切って見せた。瞬間、タツヤの体を光が包みまるで体を癒そうとしていたが、癒せなかったようで仕方なくそのまま送還したようだった。そこに声が響いた。


『異世界からの客人に問います。私は豊穣神、カーセルと申します。貴方の目的を教えて頂けますか?』


 声はアヤカから出ていた。


『一時的にアヤカ(勇者)の体を借りております。』


「俺とマユは地球に帰る必要がなくてな。出来ればこの世界を旅して周り、何処かに安住の地を見つけたいと思っている。勿論、この世界を壊そうとかは考えてないからその点は安心してくれ。それと、降りかかる火の粉は自分達で払うから」


『異世界からの客人よ。貴方の言葉を信じましょう』


 そう言って声は去った。アヤカはハッとしたように周りを見回すが神は既に去っているだろう。タツヤは強制送還されたが、タツヤに操られていたと思われる騎士団は全員、息を引き取っていた。操られると同時に殺されてもいたのだろう。こんな事ならもっと殴っておくんだったな……


「さて、次はミドリだな。 ……居ねぇな…… 彼奴は何処に行った? この領都から出ていったようだな。さて、どうしよう……?」


「「「「「えーーーっ!?」」」」」


 皆の叫びが木霊した……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る