第29話 それでも……
そして、やはり沈黙を破ったのはマユだった。
「それでもタモツさん、私達がこのまま放置して旅立ったとしても、恐らくですけれど何処かで対処する事になると思います! それならば、今対処しても同じじゃないでしょうか?」
マユのその言葉に返事をしようとしたタモツだったが、カイゼルが先に口を開いた。
「マユ殿、有り難う。この領都にいる者を代表して感謝を申し上げる。しかし、我々は自らまいた種くらいは自分達で刈り取れますぞ。1人1人は小さな力ですが、力を合わせれば出来る筈です」
「カイゼル様、ですけど……」
「確かに勇者、いや元勇者ですね。彼らの力は強大でしょうが、それでも我らはタモツ殿やマユ殿に頼らずに対処せねば、他力本願が過ぎると言うものでしょう。例え神のお告げがあったとしてもね」
カイゼルはそう言ってタモツを見て笑った。タモツはその笑顔を見て、
「その気持ちを持っているなら、手助け位はするさ。キツイ言い方をしたのは、何もかもを此方で対処させようとするのは違うと言う事を知って欲しかったからだ。まあ、カイゼルは気づいた様だが」
と苦笑した。マユはホッとした顔で、
「タモツさん、やっぱり優しいですね」
と言った。神殿長は恥ずかしそうに、
「私が間違っておりましたな。神のお告げとは言え、元をただせば我々自身の問題を違う世界から間違って召喚された方に押し付けようとしておりました。申し訳ありません」
深々と頭を下げた。
「あ~あ、また壊れちまったぜ」
「フフッフフフッアハハハハ」
タツヤの横には狂った様に笑う17歳ぐらいの見目良い娘がいた。
「お~い、騎士団員。壊れちまったから捨てて来いや。煩くてしょうがねぇ」
タツヤがテントから表に向けてそう声をかけると、団長と団員が連れ立って中に入ってきた。そして、
「タツヤ殿、申し訳ないがもはや我慢の限界ですな。王女の意向に逆らう事になりますが、貴様にはここで死んでいただこう」
と団長が言い、団員の1人が狂った娘を外に連れ出した。そして、残った団長と団員2名が抜剣してタツヤを睨んだ。
「おいおい、お前らじゃ俺の相手にはならないぞ。それすらも分からねぇのか? 団長?」
「それは此方の台詞だ。このテントの周りには魔法防御の魔道具を設置した。勇者魔法を使われると我らには勝ち目はないが、純粋な剣技であればレベルの低い貴様では我らに勝てんぞ!」
「はあ~っ、これだからバカは…… 言っとくがお前らはもう俺の下僕だぞ。さあ、さっさとさっきの女を始末して新しい女を連れて来い!」
タツヤの言葉に団長と団員が、
「「「はい、タツヤ様」」」
と返事をし、テントを出て行った。そして、
「だっ、団長、何を? どうしたと言うのです!」
先程、娘を連れて出た団員が狼狽える声が聞こえたが、
「邪魔だ」
の声の後に、ヒュッ! と剣を振る音
「「ギャ(キャ)ーーーッ!!!」」
男と女の悲鳴が響いた。そして、何事も無かったかのような冷静な団長の声が、
「お前はこの死体の後始末を、お前は私と共にタツヤ様に相応しい女を探しに行くぞ。」
「「ハッ!」」
テントの周りはそして静かになった。
「全く、こんなチンケな魔道具で俺様の色欲魔法が防げる訳がないだろうが。さてと、新しい女が来るまでひと眠りしておくか。次の女はどれぐらい持つかな?思えばカミナは良く持ったな。壊れたのは10回目の時か…… クフフフッ!次の女も同じぐらい持って欲しいな。アーハッハッハッ!」
タツヤの笑い声が辺りに響いていた……
「あらあら、もう終わりなのね……」
ここは街中の男と女が『ソウイウ』行為を行う宿。そこにミドリがいた。隣に完全に干からびた男だった者を見ながら……
「全く、この私が相手してあげたのにたった25回しか出来ないなんて…… 見かけ倒しだったわね、近衛騎士団長。まあ、それでも他の団員よりかは強かったけどね。さあ、次は誰に相手をしてもらおうかしら?」
ミドリは服を着て、部屋を後にした。干からびた男はまだ息をしていたが、ミドリが出て行った後に死んだ……
そして、ミドリはそのまま領都を出て、姿を眩ましてしまった。理由は、
「もう、この街には目ぼしい男は居なくなったから、新しいもっと大きな街で強い男を探しましょ。ウフフッ、私を満足させられる男は何処にいるかしら~? 楽しみだわ」
そうして、ミドリは自分から街を出て行った為に取り敢えずはタツヤだけに専念出来る事をタモツ達はまだ知らなかった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます