第48話 女王陛下と女王様

 ロザリアが叫んだ瞬間にダルイ(ダルド)公爵は転移で逃げた。潔い逃げっ振りではある。が、あれだけ大言壮語しといてあっさりだったなぁ~。 

 しかし、馬車や従者もまとめて転移したのにはビックリした。優秀ではあるんだな。


 そんな事を思っていると女王様ロザリアさんが、声をかけてきた。


「皆様、失礼致しました。そして、ようこそランゲインへお越し下さいました。我が夫、ユグドから呉々くれぐれも失礼のないようにと言われておりましたが、まさかバカ公爵とかち合うとは思わず……」


「いやいや、それはもう気にしないで下さい。で、俺達はもう王都に入っても良いのですか?」


「タモツ様、勿論です。そして、ご面倒ですが王城に顔を出して頂けますか? 女王陛下が楽しみにしていらっしゃっるのです。あと、近衛騎士団長も」

 

 面倒臭そうだな…… 俺は顔に出ないように注意しながら、


「えっと、お断りするのは無理ですよね?」


 と言った。何故か反対意見が身内から来た!?


「師匠、何を言ってるんですか!! 女王様のお願いをお断りするなんて! そんな事はあってはならない事ですよ!」


 瞼は腫れ、首にアザがあり、両手両足の動きが不自然な状態でも女王様ロザリアさんに心酔しているライ。お前、アヤカに一途じゃなかったのか?


「いや、ライよ。そこまで言うならお前が行ってこい。俺達は宿を探して王都を散策するから」


 なんてライに言うと、女王様ロザリアさんは慌てて、


「いえ、それは困ります。出来ればマユ様、アヤカ様に特にお会いしたいとの陛下の仰せなので」


 と言われたのだが、アヤカを見ると既に冷静になっているようで、


「間違っていたらご免なさい。女王陛下はもしかしてお体に不都合があるのでは?」 


 と俺も思っていた事を直球に聞いた。目付きがヤバいまま…… うん、まだ冷静じゃなかった。


「ここではお話出来ません。王城へお越しいただけるなら馬車の中でお話したいのですが」


 それを聞いてマユとアヤカは俺に、


「「タモツさん?」」


 ハイハイ、分かりました。優気に溢れる君たち2人が、放っておくわけないよね。しかし、2人共にライをガン無視してるな。後でフォローしておくか。


「それじゃあロザリアさん、女王陛下にお会いしましょう」


 俺が言うとホッとしたように女王様ロザリアさんが礼を述べた。余計な一言付きで。


「有り難うございます。ライくんのお陰ですね。後でご褒美をあげるわ!」


 辺り一帯の空気が冷えて、燃えた!!


 アヤカよ、マユよ、それは不味い! 一般の方々で倒れてる人が要るぞ。ライよ、喜色満面で気絶するなよ! 俺に負担が……


「はい! ストップ!!」


 俺は強制的にマユとアヤカの威圧を消した。そして、軽く威圧を込めて女王様ロザリアさんに言う。


「ライはアヤカの夫でして。出来ればちょっかいをかけるのは止めて欲しいんですが? それに貴女も人妻でしょう?」


 俺の威圧に少し顔を青ざめながらも女王様ロザリアさんは反論してきた。


「あら、こちらの世界では1夫多妻、1妻多夫が当たり前になってますし、ランゲインでは好きな男性には人妻だろうとアプローチしますわよ。人の心を縛る事は出来ないという考え方が有りますので」


 そう聞いて、価値観や倫理観が違うのがハッキリした。そこで、アヤカに向けて


「良くも悪くもそれがこの国の価値観のようだから、ライ自身の手綱をアヤカが確りと握れば良いさ」


 と言って、念話でマユとアヤカに


『今、現状ではどうする事も出来ないな。国で当たり前の事になっているから、こっちの価値観を押し付ける事も無理だしな』


 と言うと、マユからは


『はい、分かりました。凄い価値観なんですね』


 と返事があり、アヤカからは何と、


『タモツさん、鞭技は学べますか? 私がライの目を覚まします!!』 


 と…… いや、そりゃあ鞭位は扱えるし教えてやるけど、【そっち】方向を目指すのか? アヤカよ……


『まあ、後でな。教えてはやれるけど、直ぐには難しいと思うぞ』


 と返しておいた。そして、女王様ロザリアさんに、


価値観の違いそれについては分かった。が、こちらには理解しづらい事なので配慮して貰えると有難い」



 と伝えた。


「分かりました、善処致します。取り敢えず、皆様こちらへ。馬車にお乗り下さい。道中でご説明致します」

 

 そうして俺達は馬車に乗り、王城へと向かう事になった。女王様ロザリアさんの説明を聞きながら……


「どこからお話すれば良いのか…… 先ずはランゲインの王権についてですね。この国の王は世襲ではありません。指名制になってまして、先代の王の指名により、次の王が決まります」


「それはまた珍しい制度だな」


「はい。何故こうなったのかは長くなるので省きますが、先代の王より指名を受けて今の女王陛下は即位なされました。そして、即位時は7歳という年齢でしたが、良く政策を理解して善政を行ってこられました。そして即位されて2年経った時に、陛下は何者かに呪いを掛けられたのです」


 そう語る女王様ロザリアさんの顔に悔しさと後悔の念が浮かぶ。


「「呪いとは・・・?」」


 マユとアヤカの声がハモる。


「はい、陛下に掛けられた呪いは体の半身が麻痺して、徐々に石化していくというものです。そして、既に麻痺した半身は石化が済み、現在は動くもう半身に石化が進行しています…… 我がユグドも私もありとあらゆる手を尽くしたのですが、進行を遅らせる事しか出来ずに・・・。本当はタモツ様に初めてお会いした時に、陛下の元に連れて来たかったそうなのですが、陛下に止められて断念したそうです」


 確かに、あの時点で呼ばれても俺なら何とかしてやれただろうな。しかし、何故陛下は止めたんだ?


「何故、陛下はユグドに呼ぶのを止めるように言ったんだ? 自身の体が治るかもって言うのに」


 俺がそう聞くと、


「陛下は夫にこう言ったそうです。『その方に来て頂ければ確かに私は治る可能性があるでしょう。しかし、その方はこれから相方様を鍛えて自由に行動出来るようにするという目的がおありです。その目的を私の都合で遅らせるのはなりません』と…… 本当は夫はそれでも呼ぼうと思ったそうですが、幼い陛下が我慢しておられるのを自身が破る訳にはいかないと。間に合うように来て頂けるのを今か今かと心待ちにしておりました……」


 其を聞いた俺は、マユとアヤカに


「直ぐに転移して行くぞ! ロザリアさん、陛下が居られる場所を思い浮かべて!」


 と、言い頭に浮かんだ場所に即座に転移した。


 あっ! ライを忘れた…… 気絶してたし、まあ良いか。 

 

 

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