第18話 エルダートレントに会う
マユが訓練場で地道な稽古を続けている頃、タモツは渓谷の奥へと進んでいた。既に流水:対獣の検証は粗方すんでいた。対峙した魔獣は……
黒暴犬・凶化狼・狂い猿・剣牙猪・
全て流水の対獣で対処可能だった。中でも焔火蜥蜴は推奨レベル(位階)が78(三段)と最も高かったが無理無く倒す事が出来た。全て無手である。
で、タモツは困っていた……
何故ならば、目の前にとても大きな古樹人(エルダートレント)が居てタモツに話し掛けて来ているからだ。
『お~い~、ちっこいの~。お前は~、強いなぁ~。何の~目的が~あって~この~渓谷に~来た~?』
全体的に間延びした話し方だが、これはわざとやっているなとタモツは見当をつけた。そこで、こちらもわざと早口で、
「おいトレント、俺は違う世界から召喚されて、この渓谷に追放されたから、この渓谷で生きれるかどうか確認している所だ!」
と返事してみた。すると、
『ハハ、どうやらわざとだとバレてるようだな。しかし、異世界人か。君だけかい?』
と流暢な言葉で返して来たので、
「いや、渓谷の入口近くに拠点を作って其処にもう1人いる」
とタモツは正直に話した。
何故ならば見(検)分した結果、このトレントは【森の護人】と出たからだ。そう、このトレントの後ろにはハイレッカ王国が『魔障の森』と呼んでいる森だろう場所がある。タモツは張り切り過ぎて渓谷と森の境界まで来てしまっていた。
『う~ん、何で君を追放したのか分からないな。君ほどの力の持ち主は此方にはいないけど…… それこそ、力ずくで来られたら私でも相手にならないし』
「利用されるのは嫌いでな。少し細工をして向こうが放り出しやすい様にしたんだ。折角見知らぬ世界に来たんだ。自由に動きたかったし」
『成る程…… で、君はどうするんだい? 今からこの森に入るのかな?』
「いや、森に入るのはまだ先になるな。相方がレベル(位階)が低いから、もう少し強くなってから2人で入るよ。その時は通してくれるかい?」
『ふむ、勿論通すけれど。どれぐらい先かは決めてるかな?』
「まあ、今の調子だと3~4ヵ月後かな? それまでに武器や防具も揃えたいし……」
『武器や防具ね・・・。頼みがあるのだが、聞いてくれるかい? 聞いてくれたら良い物を対価に渡すけれど』
「俺で対処可能なら聞くよ」
俺の返事を聞いてトレントは、
『異世界から来た人はよく勘違いしてるんだけど、この世界の人族は君達が魔物と認識している者も含まれている。ゴブリン、オーク、オーガ、コボルト等も人族だ。種が違うだけでね』
「成る程……」
『で、だ。この後ろの森から彼ら人族の住まう土地になる。通る際には彼らと出会うだろうが、問答無用で攻撃するのは止めて貰いたいんだ』
「ああ、そんな事は当たり前だ。俺は理性があり言葉や身振り手振りが通じる相手を攻撃したりはしないよ。安心してくれ」
『ホッとしたよ。ハイレッカの王女がいきなり魔族共めと彼らに敵意を見せ始めてね。困っているんだ』
と、トレントが言うので、
「なら、気をつける事だな。あいつらは召喚した勇者を使って攻めこむつもりだぞ。半年位は猶予はあるだろうけど」
と、こちらの知っている事を伝えた。
『なっ!そんなつもりがあったのかい? あの王女は。これは大変だ!王に教えないと。貴重な情報を有り難う。それじゃあ、願いを聞いてくれた対価と、情報に感謝してコレを送ろう。鑑定は出来るんだろう?』
そう言ってトレントは木の枝と樹皮、そして木札を2つずつ俺に差し出した。
『相方さんの分もあるから。枝と樹皮はトレントの最高級の品。その木札はランゲインの通行証になるから。枝と樹皮は自分で調べて好きな様に加工して』
と言われた。まあ、【見(検)分眼】があるから大丈夫だろうが。俺は素直に受け取り、
「有り難う、助かる。また何かしら情報が入ったら教えるよ」
と伝えた。
『うん、その時は宜しく頼むよ。さあ、私は今からランゲインの王に会いに行ってくる。この境界には私の分身を置いておく。もし用事が出来たら分身に手を触れて呼び掛けてくれ』
「ああ、分かった。それじゃ、相方が心配するから拠点に戻るよ。またな」
そう言って俺はトレントの前から一瞬で姿を消した。残ったトレントは、
『凄いな! 転移まで出来るのか? おっと、のんびりしてる場合じゃないな。私も行かなくては』
と言うと、大樹はそのままに人型が現れて地平を走り出した……
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