第58話 天之常立神《あめのとこたちのかみ》

 堕神こと、この世界の創世神と、思金神おもいかねのかみを乗っ取った天之常立神あめのとこたちのかみの話し合いを、後ろで鼻くそをホジリながらタモツは聞いていた。


『神様に気付かれない俺って……』


 俺はミネヤーマ家の秘伝を自身の持つ技能に応用した。【隠蔽】と【隠密】の両方を練り上げて、新たに【全消】を得た。ネーミングは許して欲しい。もうすぐ半世紀になるオッサンなので安易な名前しか浮かばないんだ。

 【全消】は自身のありとあらゆる存在感を他者に悟らせない技能だ。神様相手にも通用してる様だから有能だな。あの指を鳴らされるコンマ一秒前にこの技能を使用して姿を消した俺は今、これからどうしようかなと考える。


『もう少し話を聞いてみるか?』


 そう考えて堕神とアメ神の話を聞く。


 …… …… ……


「で、何故ですか?」


『何がかな?』


「私達はそれなりに上手くこの宇宙を、世界を管理していました。まったき平和とはいきませんでしたが、人々も平和に徐々に進化をしながら暮らしておりました」


『そこだ。我は許せなかったのだよ。人、人、ひと、ヒト!!、人がそれほど良いものかな? 我にしてみれば野に住む獣の方が好感をもてる!』


「まさか…… そのような理由で…… 私を堕とし、思金神わがおっとを乗っ取られましたか!?」


『クフフ、そうよ。我は気に入らないものを潰すのが好きでなぁ。それはそなたも良く知っておろうに…… なあ、イシュタルよ?』


「 ……その名は呼ばないで下さいますか?」


『クフフ、地球では金星の女神とも言われたそなたが、名を嫌うか?』


「あなた様に騙され、思金神わがおっとに助けられる迄の日々はとても辛いものでした。堕ちた時よりも……その名はその日々を思い出してしまいます」


『騙すなど、人聞きの悪い。クフフ、しかし我は存分に楽しませて貰ったからな、あの時は愉快を有り難うと言っておこう』


『それで、だ。イシュタルよ、また我が妻になって他神の造りし世界を、宇宙を壊してまわろうではないか? どうかな、さすれば思金神おもいかねのかみも返してやろうぞ』


「お断り致します! あなた様の返すは元の神格に戻さずにあなた様の傀儡でくにしてしまうという事…… 私も思金神おっともそのような事は望んでおりません!」


『そうか…… 断るか…… ならば、滅せよ!』


「はいはい! それまで~」


 俺は奴の背後から現れて拘束する。

 

『なっ、何っ!! 貴様、何故生きておる?』


「アメちゃんよ~、詰めが甘いね~。神気を凝らして見てたら俺がアメちゃんの技にかからなかったのが分かっただろうに……」


『ア、アメちゃん……? しかし、確かに貴様は我が【滅技】により消えた筈……』


「なあ、レインよ?」


「何かしら?」


「神っておバカでも成れるのか?」


天之常立神あめのとこたちのかみは早く産まれたから神になれたと言われてるわ。其よりも、貴方は本当に人なの?」


「心外だぁー!! 俺はここにいるマユを心から愛し、護り、子供を授かって平和な毎日を送りたいと願う、只の人だよ」


「まあ、今までに出た事のない新しいタイプの【来人らいじん】ね」


「なあ、さっきも言ってたが【来人らいじん】って何だ? 俺はタモツと言う名前なんだが……?」

 

『この、我を無視するな!! 早く産まれたからだと!? イシュタルよ、我を愚弄するか!!』


 俺と堕神が会話をしていると、アメ神が騒ぎ出した。五月蝿いから口も思考も拘束した。


『あっ!五月蝿さばえなす神って、ひょっとしてこいつの事か?』


 などとつまらない閃きが起こるが、其を押さえてもう一度堕神に尋ねた。


「で、【来人らいじん】って何?」


「神を拘束するばかりか、思考まで…… ましてや思金神おっと天之常立神あめのとこたちのかみの二柱の神気を押さえ込むなんて…… 規格外過ぎる……」


 何やらブツブツ言って答えを返してくれない堕神を見て俺は諦めてマユの元に行く。

 

「タモツさん、タモツさん、タモツさん!!」


 マユも俺に駆け寄ってきて胸に飛び込んできた。


「マユ、大丈夫だったか?」


「怖かった、もう二度とタモツさんに会えないのかと…… うぇーん……」


 俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくるマユの頭を撫でながら、俺は言った。


「マユが傍に居てくれる限り、俺は死なない!!」


「はい、私も、私もタモツさんが居る限り死にません!」

 

 俺達が愛を確かめあっていると、正気に戻った堕神が声を掛けてきた。


「イチャラブしている所に悪いけど、話をさせて貰えるかしら?」


「お前が俺の質問に答えずに妄想に耽ってたからだろ?」


「もっ、妄想ちゃうわーー!!」


「落ち着けよ」


「ハアハア、誰のせいよ」


「で、説明を頼む」


「全く…… 【来人らいじん】は神々の誕生にまで遡るわ。今回の様に一部の神が暴走した際に、その暴走を止める人の事を言うの。分かりやすい例で言えば、そうね、武雷神たけみかづちのかみが神格する前が【来人らいじん】だったわ」


「うん? あれは既に神様だったよな?」

 

「違うわ。天津神達が自分達の神格を上げる為に利用したのよ」


「はぁ~、そうなんだ。で、俺もその神の暴走を止める【来人らいじん】だと?」


「だと思うんだけど…… 貴方は今までに現れた数々の【来人らいじん】とは少し違うのよ」


「どう違う?」


「今までの【来人らいじん】は神を止めると言う使命を自覚していたわ。其に力も拮抗していて、時には止める事が出来なかった【来人らいじん】も多くいた。今回はとても今までの【来人らいじん】では止める事なんか出来ない筈だったけど、貴方は天之常立神あめのとこたちのかみを苦にもせず拘束している…… それも私の思金神おっとの神気まで押さえ込んで…… 考えられないわ」


「ふ~ん。まあ、多分だけど俺の推測を聞いてくれ。今までの【来人らいじん】は恐らく【想像力】が足りなかったんだろ」


「そ、想像力って! でも、そうね。確かにそうかも知れない。神の神力も想像を持ってして創造をしているのだから…… それで、お願いがあるんだけど……」


「ああ、もう分離してるぞ。言うの忘れてだけど」


「えっ! いつの間に……」


「妄想に耽ってい「妄想ちゃうわ!!」」


 かぶせて突っ込まれた……


思金神おもいかねのかみは神界で休ませてやれよ。アメちゃんはどうしようかな?」


「待って、私はまだ神界に昇れないの!! 堕ちた神が神に戻るには神格が上の神に認めて貰わないと……」


 そこに声が響いた!!


『認めよう! 思金神おもいかねのかみを連れて戻るが良い!!』


「また、神様か…… 節操がねぇな!!」


『「お前が言うなっ!!」』


 二柱の神様に突っ込まれました……


 

 

 


 

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