第51話 古武術:華山

 俺とガリガリさんは近衛騎士が持ってきた数本の棍(棒)から自分の得物を各々それぞれ選んだ。

 ガリガリさんが選んだのは中国武術で良く見るシナリの良い所謂いわゆるこん】だった。俺が選んだのは、師匠との修行時代に使ってたのに良く似た【ぼう】で、楕円形である。  

 互いに得物を選び、凡そ8m離れて向い合せで対峙する。開始の合図は女王様ロザリアさんに頼んだ。


「2人とも、準備は宜しいですか?」


「「はい(ああ)」」


「それでは、【古武術:華山】対【古武術:流水】の試合を始めます。始め!!」


 女王様ロザリアさんの掛け声と共に俺に向かってくるガリガリさん。棍の真ん中辺りから両手を滑らせて手元を短く持ち、シナリを利用して俺の頭上から振り下ろしてくる。早い!


 しかし俺も慌てずに振り下ろされた棍を真ん中辺りを持った棒で受け止める。その時に楕円の細い方を上にして点で受ける。これは受け止めた力が手に掛かるのを最小限にする為だ。


 受け止めた途端に棍は反動を利用して俺の左斜めから左肩を狙って振り込まれる。

 それを俺は頭上に掲げた棒をそのまま左に傾ける事で受け止めた。その際に振り込まれた力を殺す流水独特の受けを見せる。

 と、タタラを踏みそうになるガリガリさん。しかし、それはわざとだ。そのまま右前足を滑らせて、両手を滑らせて手元に引き込んだ棍が俺に向けて突き出された。

 しかし、その時には俺は既に棒を体正面に戻していたので、危なげなくその突きを右に逸らせた。

 この間、約1秒…… ガリガリさんは間違いなく達人だ。そして、再び距離を取って相対する俺達。そこで、ガリガリさんから


「流石だ! タモツ殿! 今までこの攻めを受けきれた者はこの国には1人もいない!」


 と称賛されたが、俺は、


「いや、ガリガリさん。本気じゃないでしょう」


 とそう返した。ガリガリさんは、


「フフフ。そう言うタモツ殿とて本気ではあるまい。しかし、此からは本気で行かせて貰うぞ、タモツ殿!」


 そう言ったガリガリさんの体が魔力に包まれた。身体強化したようだ。


『う~ん? 気力は伝わらなかったのか? いや、失伝しつでんしたのかもな。うん、俺も強化しよう、気力で』


 強化したガリガリさんが先ほどとは比べ物にならない速さで俺を攻撃する。

 しかし、ことごとさばく俺。攻防が5分過ぎる迄は笑みを見せて楽しそうにしていたガリガリさんだが、少しずつ険しい顔付きになってくる。

 そして、

 

「むうっ! タモツ殿、ここまでとは失礼ながら思わなかった。しかし、私も近衛騎士団長としての矜持きょうじがある。ここで決めさせて貰うぞ! 悪く思うな!!」


 その言葉の後に、


魔力解除ディスペル

【華山奥伝:四方八方】 


『どうやら、俺も身体強化していたのは分かっていた様だが、残念だったね、ガリガリさん。【魔力解除ディスペル】では解けないよ。俺も出すか!』

 

【古武術:流水 対人秘技:ころばし


 四方八方から攻めてくる棍を交わし、捌き、弾き、万分の一秒に出来た隙をついてガリガリさんの足元に俺の棒が優しく触れた。そして……


 自分が仰向けに倒れた事に気付かないガリガリさんは、技を繰り出そうとして壁に当たった様に地面を叩き、ハッとする。俺はその喉元に棒の先端を突きつけていた。


「バッ、バカな! いつ私は倒れた? 立っていた筈だ!!」


 そこに女王様ロザリアさんの声が、   


それまで!! 古武術:流水の勝ちです!」


 それを聞いても尚、俺はガリガリさんの喉元から棒の先端を外さない。ガリガリさんは、

 

 「負けた……のか? 華山が……」


 と呆然と言うので、俺から一言。


「それは違うぞ! ガリガリ! 負けたのはお前であって、【古武術:華山】が、【古武術:流水】に負けたんじゃない! 俺自身とお前自身の差が出ただけだ! 今まで修行してきた【華山】を疑うな!」


 目を見開き、ハッとするガリガリさん。そして、喉元にある俺の棒に気付いた。


「タモツ殿、私の負けだ!」


 その一言を聞き、やっと棒を外して油断せずに後ろに下がる俺。それを見て、


「これが【残心】か…… また一つ教えて頂いた。タモツ師匠ーー!! 弟子にしてください!!」


 突然に叫んだガリガリさんに俺とライ以外はビクッとなった。俺が返事をする前にライが、


「ガリガリさん、師匠タモツはそう簡単には弟子を取りません。一番弟子である私を超えなければ無理でしょうね。フッ!」


 と格好付けて言うので、


「ライよ、純粋に戦闘力で言うならお前よりガリガリさんの方がかなり差を付けて強いぞ」


 と教えてやる。ライはガーンとした顔で、


「そんな、私を既に超えてるなんて……」


 と呆然と言うから、


「当たり前だろう。連綿と続く武術を何年も修行してきたガリガリさんが、数ヶ月修行しただけのお前より弱い訳ないだろうに……」


 と俺は呆れながら言った。そんな、師弟のやり取りを見ていた陛下カオリは微笑みながら、


「ガリガリ、タモツさんを困らせてはいけないわ。ただ、タモツさんが、もし宜しければこの国に滞在されている間に失伝した【気力】だけでもガリガリに教えてやって貰えませんか?」


「おお~!カオリは凄いな! 気が付いたのか! 俺の身体強化が魔力じゃない事に」


「はい、ミネヤーマ家にも秘かに伝わる技術があります。それは秘伝になるのでガリガリに教えてやれません。もしかしたら、タモツさんの【気力】もそうなのかも知れませんが、長年失伝したままの状態なので、改善できれば…… なんて、図々しいですね。ゴメンなさい」


「いやいや、図々しいなんて事はないぞ。ただ、俺のだと【流水】の気力操作になる。それでも良いか? ガリガリさん?」


「なっ!何と本当に教えて頂けるのですか? 気力操作は我が家から失伝してもう160年…… 師匠タモツ!! 私は何をしてそのご恩に報いれば…… ハッ! おのこおなごの裸が好きだとか聞いた事がある…… 師匠タモツ! 脱ぎます!!」


「ワーッ! 待て待て!! 脱ぐな! そんな事はしなくて良い!!」


 突如、痴女ちじょモードに入ったガリガリさんを俺とマユ、アヤカが必死に止めた。


 そして、


「構わなければ、【古武術:華山】の初伝の技を教えてくれとは言わない。見せて欲しい。それで十分だ」


「私も見たいです。ガリガリさん」


 と、マユと2人でお願いして、了承してもらった。オーガ族のガリガリさんは身長は1.9mあり(此でも低い方らしい)、ボンッ、キュ、ボンッ!! のナイスバディーなので、見たくなかったのか? と言われると、見たかった……

 


 いや、俺はマユ一筋だけどね!!

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