第52話 ミネヤーマ家の秘伝

 それから、俺達は王城に部屋を構えてもらい、凡そ2週間でガリガリさんに気力操作を教える事になった。初日~5日目迄は俺が。その後はマユから教わる事になったガリガリさんだが、俺が教えた時よりもマユに教わってる時の方が、覚えが早い……

 俺って人に教える才はないのかなぁ? と秘かに落ち込んだのは内緒だ。

 そして、約束の2週間がきて最終確認で俺の目の前で気力操作をして貰う。

 

「ふっ! はぁーーっ!」


「おお~、出来てるぞ! ガリガリさん。この強化は【魔力解除ディスペル】は関係ないからな。これからも自己研鑽を続けて、マユから教わった通りに更に高みを目指して頑張ってくれ!そして、それを【華山】流に昇華していってくれ!」


「はい!師匠タモツ!! そして、師範代マユ! 本当に有り難うございました!!」


 深々と俺達に頭を下げるガリガリさん。そして、


「これより、【古武術:華山】の初伝を披露致します」


 と部屋の真ん中辺りまで下がった。

 

 バシュッ!!

 

 自然体からいきなり繰り出された右拳。その右腕がひるがえって、自身の右にはしる。足は自然体のまま動いてない。と、胸元に戻した右腕が下段を払いながら、体が右に向く。

 そのまま、下段を払った右腕が内受けを見せ、左手が開掌で振られた。

 


 初伝の無手、棍、刀、各々を見せて貰った俺達はガリガリさんに礼を言う。


「ガリガリさん、貴重な流派の初伝を見せてくれて、有り難う」


「流水とはまた違った動きですが、途切れる事なく攻める技は凄いです」


 俺とマユからの言葉にガリガリさんは顔を少し赤らめながら、


「いえ、師範代マユからは気力操作だけでなく、【古武術:流水】の歩方と無手術の基本まで教わってます。この初伝を見せるだけでは足りないと思うのですが……」


 そう言うので、ガリガリさんに俺が師匠から聞いた言葉を伝える。


「これは俺に【流水】を教えてくれた師匠の言葉なんだが、優れた武術は初伝の中に奥伝がある。初伝をおろそかにした者は皆伝や奥伝には至らない。と教わった。今回、ガリガリさんに見せて貰った【華山】の初伝は俺にしてみれば奥伝を見せて貰ったのと同じだ」

 

 それを聞いたガリガリさんが、ハッとした顔で


師匠タモツのお師匠からの貴重なお言葉まで!! これは矢張、脱いでお礼を!!」


「「脱ぐな(がない)」!!!」


 時々現れる痴女モードだが、気力操作を教えている最中にも何度かあったので、此方も慣れた。


 そして、カオリの方を見るとニコニコしながら、


「タモツさん、マユさん、本当に有り難うございました。ガリガリはこれから更に研鑽して、次代に繋いでいってね」

 

「はい。陛下。必ず次代に繋げて行きます! ハッ! すると子を産まねば! 師匠タモツ!子種を私に!!」


「おい、それはヤバい!!」


 そして、般若が現れた!! 辺りの空気が冷える!!


オノレ! ガリガリ!! 恩を仇で返すか!!」

 

「ひぃーーっ! しっ、師範代マユがっ!我らオーガ族の神にーー!」


 速攻で土下座をするガリガリさん……


「まあ、待て待て、マユ。俺がそんな誘いに乗る訳ないだろ! 落ち着いて! カオリもビクビクしてるから」


「ハッ!カオリちゃん、ゴメンね。怖い思いをさせて」


「いえ、今のはガリガリが悪いですから」


 顔を少し青ざめさせてはいるが、ハッキリとそう言うカオリ。流石は一国をまとめているだけはある。


「さて、ガリガリの用事は終わりましたから、ガリガリは退室しなさい。私はタモツさんとマユさんに少し話があります」


「はい。陛下。申し訳ありませんでした…… 師匠タモツ師範代マユ


 そういってガリガリさんが退室する。

 

 そして、カオリが俺達に


「実は会って欲しい人がいるのですが、構いませんか?」


 と聞いてくる。俺は


「ああ、良いよ」


 と返事をした。

 

「有り難うございます。私の両親なのですが、是非、お礼を言いたいというので。本当はアヤカさんとライさんにも会いたいと言ってましたが、お二人はお忙しい様なので……」


「あっ、ああ、あの二人はそっとしといてやってくれ。お互いを確かめ合ってるんだ……」


「はい、それじゃあ呼びますね。父さん、母さん、入ってきて」


 カオリの呼び掛けで入ってきたご両親は、父親が年の頃は30代前半に見える偉丈夫で、腰に木刀を提げている。母親は20代前半に見える。カオリに良く似た顔なので親子だと一目で分かる。

 そう思っていると、父親が俺の目の前に現れ袈裟懸けに木刀を振るった。俺は【生活箱】から剛腕刀を出して受ける。が、俺の剛腕刀にカオリの父親の木刀が食い込んだ!!


「タモツさん!!」


「父さん!?」


 マユとカオリの声が被る。俺は慌てず騒がず、


「なるほど、これがミネヤーマ家の秘伝か。見せてくれて有り難う」


 と礼を述べた。すると、


「チッ! 切れなかったか! 本当ならお前さんの木刀もお前さんも一緒に切ってた筈なんだがな。随分と性能の良い木刀じゃねぇか。」


「素材を合成してくれたのが凄腕だったからな。しかし、初対面だよな? 何でそんなに俺を嫌う?」


「可愛い娘を助けてくれたのは礼を言おう。しかし、その娘の口からお前さんの名前しか出ねぇとなると、父親としては面白くねっ!! ブボラヴァーーー!」


 話の途中でぶっ飛んで行く父親…… 先ほどまでは確かに居なかった位置に母親が居た。


「タモツ様、うちの主人バカが大変失礼を致しました。お詫び申し上げます。私はカオリの母でミネヤーマ・キョウカと申します。それから、あちらでピクピクしている男は残念ながら、カオリの父で、ミネヤーマ・オオバカと申します」


 ……いや、オオバカじゃないですよね? しかし、俺は間違えたのか? 先ほどの父親の攻撃がミネヤーマ家の秘伝だと思ったけど、母親が秘伝そのものなのか?

 

「タモツさん、申し訳ありません。そして、父さんが見せた攻撃が確かにミネヤーマ家の【秘伝:練魔気斬】です。刀身に魔力と気力を同時に練り合わせて斬撃を繰り出します。凡そこれまで父に切れなかった物はないのですが、タモツさんが初めて受け止めました。やっぱり、タモツさんは凄いです!!」


 とカオリが褒めてくれるが、ピクピク親父はほっといて良いのか……? 少し心配になるが、キョウカさんが、


主人バカは無視して話をしましょう」


 と言うので、俺、マユ、カオリ、キョウカさんで別室に移動して話をする事になった。


 結局、父親の名前は教えて貰ってないが、良いのか!? まあ、後でちゃんと聞こう。覚えてたら……

 

 


 



 

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