第34話 魔跋扈の渓谷、再び。

 俺とマユはアヤカ、ライを連れて再び魔跋扈の渓谷へと戻ってきた。そこでふと思い出した。


「エルダートレントがくれた通行証は俺とマユの分しかないな……」


「あっ! そうでしたね。どうしましょうか?」


「まあ、行くだけ行ってみるか。エルダートレントも境界に戻ってるかも知れないし」


 そこでライが震えながら、


「ほっ、本当にここを行くのですか?」


 と聞いてきた。あ~、そうかライはこの国の生まれだし、この渓谷は危ないって知ってるわな。レベルもまだ低いし…… どうするか……


「マユ、アヤカ、ライ、ランゲインに行く前にこの渓谷で訓練するか? アヤカはギリギリ大丈夫だけどライは今のままだと厳しいしな」


「タモツさん、それじゃあ拠点を復活させますか?」


 マユが聞いてくる。


「いや、あの拠点は2人用に作ったし狭いから新しく作るよ。アヤカとライは同部屋が良いだろうし。あっ、安心してくれ。壁も扉も完全防音にするから」


 俺の言葉を聞いて2人だけじゃなく、マユまで顔を赤くしている。


「お気遣い有り難うございますっ!!」


 アヤカが少し怒り気味に礼を言ってくる。続いてライが、


「拠点を作ると言っても、とうするんですか?資材は何もないですが……」


「そう言えば、そうね。どうやって拠点を作るの? タモツさん、マユ」


「フフッ、アヤカ、心配ないわ。タモツさんだもの。出来た拠点を見たらビックリするわよ」


「まっ、そう言う事だ。取り敢えず渓谷に入ろう。魔除けが効果ある場所に拠点を作るから、心配しなくても大丈夫だぞ、ライ」


「はっはい。分かりました」


 

 そうして、魔跋扈の渓谷に入って300m位の場所で、


「良し、今回はこっち側にしよう」


 と最初の拠点の反対側に両手をつく俺。それを見てマユが、


「今回は何分位ですか?」


 と聞いてきたので、


「今回は心配性が居るから1分だな」


 と、答えて60を数えて手を離す。それを見てアヤカとライが、


「「えっと、、どういう事(ですか)?」」


 と聞いてきたが、それには答えずにマユに、


「マユ、呪文を頼む」


 と言うと、


「開け~! ゴマ!!」


 マユが大きな声で答えてくれた。すると前の拠点と同じように石壁からマンションの扉が現れた。


「「エエーーーーッ!!」」


 驚く2人を尻目にマユが扉を開けて、


「さあ、入ろう。安心安全な拠点が出来たよ」


 と2人にニッコリと微笑むのだった……


 今回は入って直ぐ左にマユの部屋、右はアヤカとライの部屋。マユの部屋の隣がダイニングキッチン。その隣が俺の部屋だ。勿論、各部屋に風呂、トイレ、洗濯機、物干し場は完備している。ライは初めて見る物ばかりなので、目線が落ち着かない。そうそう、入る際にライに玄関ここで靴を脱いで入るって説明した。ハイレッカでは靴を脱がずに部屋に入るようだからな。今回は日本式に合わせて貰った。

 

「タモツさん、これは何? どうしたらこんな事が出来るの?」


 アヤカが聞いてくるので、ダイニングに皆を案内してお茶とお茶菓子を出して座らせた。アヤカの顔が益々歪んで面白い。

 そして俺はマユにした説明(想像が創造して云々)をアヤカとライにも話した。


「そんな事……」とアヤカ。

「異世界から来たからでは……」とライ。


「いやいや、アヤカは既に片鱗があるだろ? スキルに【想像】があるんだから。それから、ライ。確かに俺は異世界から来たのでこの世界が幻想ファンタジーだと理解して、想像を駆使している。けどな、俺もお前も同じ人だ。勿論、マユやアヤカも。だから、俺達に出来る事はライにも出来るんだよ」


 俺の説明を聞いて2人は取り敢えずはそういう物だと考える事にしたようだ。そして、今回も同じ様に訓練場を作ったので、明日からそこで鍛える事を伝えた。


 但し、2人には【古武術:流水】は教えない。基礎的な体術と魔法の応用を覚えて貰う。その後に武器術を体得してから実戦に出てもらおうと考えている。但し、アヤカはマユと2人でなら即実戦でも構わないと伝えた。どうするか、明日の朝に返事すると言われたが。

 そんなこんなで、今日も色々あったのでもう休もうと話して解散した。

 

 俺が自分の部屋で風呂に入り、スコッチの水割りをチビチビと飲んでいたらノックがした。


「鍵は開いてるから、入って良いぞ~」


 と言うと、


「タモツさん、失礼します」


 マユが入ってきた。


「タモツさん、抱いてとは言いません。でも今日は同じベッドで寝させて下さい」


 赤くなり必死な顔でマユがそう言う。俺は……


「こんなオッサンの何処が良いのか分からないが、マユがそうしたいなら同じベッドに寝るか」


 と答えていた。酔ってるな……


「はい!」


 更に顔を赤くしながらも嬉しそうに返事をしてくれたマユを見て、俺も何故か嬉しくなった。

 そうして、俺は水割りを飲み干してからマユと同じベッドで寝た。背中にマユの温もりを感じながら。

 

 その夜の夢に亡き妻が出てきた…… 赤子を抱いていた。俺の子だ! 妻のお腹にいた産まれてくる筈だった俺の子を妻が抱いている!

 そして、俺に向かって


「あなた、今まで思ってくれて有り難う。でも、此れからはあなた自身の気持ちを大事にして生きて。私とこの子は次の輪廻へと旅立つわ。私達はあなたにとって大事な想い出なの。あなたはその想い出を胸に、前を向いて生きて! 私とこの子の願いよ。それに、マユちゃんなら私も何も言う事ないわ! 少し妬けるけどね…… フフッ、前妻からのお願いよ、幸せになって、そして、幸せにしてあげて…… お願いね、あなた……」


 そうして、妻が遠くへ去って行った……


 朝、妻が亡くなってから休業していた息子が起きていた。何年振りだ、朝勃なんて……


「ったく、少ししか妬けないのかよ。俺はお前が生まれ変わって俺の知らない場所で俺の知らない男と一緒になると思うと、嫉妬に狂いそうになるのに…… けど、分かったよ。幸せになるし、幸せにするよ」

 

 どうやら声に出して言っていたようだ。


「嬉しいっ! タモツさん!」


 マユに抱きしめられた。


 何とかマユを落ち着かせて聞いてみると、前妻はマユのところにも顔を出した様だ。そしてマユに、俺の事をよろしく頼むと言っていたらしい。俺のケツは確りと叩いておくからと……


 全く、こうもお膳立てされているなら仕方ない! マユには悪いが、今まで抑圧されていたある欲が爆発しそうなので、朝から悪いが相手をして貰おう。勿論、俺は大人だから優しくしたよ。マユは痛いのと嬉しいのとで涙を流したが…… しかし、若さが戻ったかの様に朝から初めての相手に5回は…… と少しだけ反省した。


 勿論、この部屋も完全防音なのはここで付け加えておく。


 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る