第27話 雑魚が、いや、魚に失礼だお前は【雑】だ!

 …… …… ……


 黒い波動に飲み込まれたマユは、


『タモツさん、ご免なさい。無茶しちゃった…… 私、死ぬのかな? タモツさんとこの世界を旅したかったな……』


 と考えていた。そこに、


『おいおい、マユ。もう、旅は始まってるよ。心配すんなよ。一緒に行くぞ!』


 タモツの念話が届いた!


「タッ、タモツさん!」


 気が付けば、自分の周りの黒い波動は自分に届いてない。暖かな結界に包まれていた。


 そして、波動が消えると変わらずに無事に立っているマユがいた。


「マッ!マユ!よかった!無事だったのね!」


 アヤカとライがマユに駆け寄る。そして、


「なっ! 何故じゃ! お前さんでは防げぬ筈じゃ! ワシの波動に飲み込まれ、暗黒に支配されて現れる筈が何故に無事なのじゃ!!」


 カミナが叫ぶ!


「馬鹿か! お前は」


 そこには誰も、カミナさえも気づかなかったタモツがマユの直ぐ隣にいた。


「なっ何者じゃ! 貴様は!」


「俺か? 俺はマユの保護者だよ! 手前テメー、良くも俺の娘に手を出しやがったな! 滅してやるから、覚悟しろよ!」


「タモツさん、遅いです~。それに、娘じゃありません。こっ、恋人です……」


 最後の方はゴニョゴニョになったが、マユが嬉しそうに抗議する。


「悪い悪い、タイミングを計ってたんだ」


 タモツはそう言うと、


「さてとアヤカに、それとライといったか…… まあ、アヤカには思う所もあるが、それは後にしよう。今からあの嬢ちゃんの体から奴を追い出す。だから、マユと2人であの嬢ちゃんの心をこっちに呼び出してやれ。じゃないとあの嬢ちゃん自身が敵になっちまう。そうならないように、2人で生きてる事の良さをあの嬢ちゃんに教えてやりな。あっ、それとアヤカ、奴が言ってた呪詛は本当だ。但し、それはもう俺が祓ったから、今は大丈夫だ」


 タモツが一気に言うと、


「グヘヘ、何を言うかと思えばワシの呪詛を祓っただと、そんな事は出来ん! ん? なっ、何故じゃ! ワシの呪詛が勇者から無くなっておる。おのれ~、貴様、何をしたのじゃ! こうなれば、ワシはこの体から絶対に出ていかんぞ。この娘の体を傷つけずに、ワシを追い出す事は出来ん!!」


 カミナがそう叫んだ。しかし、タモツは平然とカミナの前に進み、


「はぁ~、コレだから雑魚は…… いや、魚に失礼だな! お前はただの【雑】だ! 古武術:流水・対妖怪絶技! 【極楽掌】!」


 そう言うとタモツの掌がカミナのお腹に向かって伸びて軽く当たった。


「グギャーーーーッ!」


 叫び声と共にシワシワの頭に捻れた角を生やした老人がカミナの体から出てきた。

 ゆっくりと倒れかかるカミナの体を支えてタモツは、


「マユ、アヤカ、頼んだぞ。心を呼び出してやれ」


 と2人にカミナを任せた。そして、カミナから出てきた老人に向かって、


「おい、【雑】! ここじゃあ、皆の気が散るから外に出るぞ!」


 と、老人を連れて転移した。


「アヤカ、カミナさんに呼び掛けて。私は補助するわ」


 マユが言うと、


「マユ、分かったわ。2人でカミナさんを取り戻しましょう」


 アヤカが答える。


「カミナさん、起きて。貴女が必要なの。暗黒へと向かわないで。私達に答えて」


 アヤカがカミナに呼び掛ける横でマユがカミナの頭を膝に乗せて優しく頭を撫でている。その手からは【優気ゆうき】がカミナに注がれていた。そして、ライはそんな3人の周りを聖なる気で満たしている。勿論、他の神官達もだ。後ろで元侯爵も心配そうに見つめていた。続けていると……


「う、う~ん。ダメ、私は汚されたの! 貴女達のような綺麗な体じゃないの! だから、私の事は放っておいてちょうだい! このまま、暗闇に身を任せて復讐してやるのだから」


 カミナが目を開けて、アヤカを見ながら言う。


「カミナ! 良かった! 気がついたか!」


 元侯爵が目を開けたカミナを見て喜ぶ。が、


「お父様、貴方の娘のカミナはもう居なくなりました。ここに居るのは復讐に囚われた女です」


 とカミナは答えた。しかし、マユがカミナの頭を撫でながら少し微笑んで、


「カミナさん、もしも貴女の言う通りなら侯爵様にお父様とは呼び掛けたりしないわ。貴女はもう、暗黒には囚われていないわ」


 と、話し掛けた。カミナはそれを聞いて、マユに向かって叫んだ!


「貴女に何が、身体を汚された私の何が分かると言うの!!」


「ええ、そうね。分からないわ。けど、貴女はこうして私達の言葉に答えてくれている。だから、もう大丈夫よ。貴女は暗黒へと向かったりしない」


 続けてアヤカが、


「カミナさん、私もそう思います。貴女に僅かではあるけれど私の声が届いていたと確信してました。結局は貴女の中にいた悪しき存在に騙されてしまいましたが、それでも、貴女自身にも声は届いていた筈です。そして、私は召喚された勇者として貴女に謝罪致します。本当に申し訳ありませんでした」


 と、カミナに向かって土下座をした。

 

 そうした時にタモツが戻ってきた。


「おっアヤカ、似合うじゃないか。その格好。嬢ちゃんも目覚めたか、良かったな。アヤカが懸命に呼び掛けていたのは聞こえていたんだろ? だから、戻る事が出来たんだ」


「「タモツさん!」」


「タモツさん、茶化しちゃダメです!」


 マユが少し怒りながら言う。


「タモツさん、あいつは?」


 アヤカが聞くと、


「ああ、【雑】なら滅してやったからもう気にしなくて良いぞ」


タモツがそう言うとカミナが、


「貴方も戻って良かったなんて言いますが、私が汚された事実は消えません! 私は何度でも復讐を考えて、この身を暗黒へと導きますわ!」


 とタモツを睨みながら言う。タモツは、


「うん、良いんじゃね」


 とアッサリ言ってのけた。そこで又2人の怒り声が、


「「タモツさん!!」」


 と響いたが、


「いや、勘違いするなよ2人共。俺が良いって言ってるのはその身を暗黒へと導く事じゃなくて、怒りを持ち続けるという事に対してだから。聖人君子なんて居やしないんだから、怒りの感情を持ったまま生きていても、いつかは晴れる事もあるだろうさ。それに、嬢ちゃんは気づいてないようだけど、古武術:流水の絶技【極楽掌】は自分の望まなかった身体の変化を元の状態にリセットする。だから、今の嬢ちゃんの身体は汚される前の状態だ。記憶もリセットする事が可能だったけど、まあそれをすると説明が面倒だからな。今は貴族を辞めてるらしいのに、貴族の頃に記憶がリセットされるから。と、言う訳で俺は怒りを抑えろなんて言うつもりはないし、嬢ちゃんの復讐したい気持ちも十分に分かる」


 と一息に言ったら全員(カミナも含めて)が、唖然とした顔でタモツを見詰めた…… そして、マユが一言、


「何……、その出鱈目な技は!?」


 と皆の気持ちを代弁したのだった……

 

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