第7話 馬車の中。保の秘密。

 今、俺とマユは馬車に乗っている。西の国境に向けて出発したところだ。サーバイン率いる正騎士隊20名が護衛としてついてくれている。馬車の中は俺とマユの2人だけだ。御者には確かに話を聞かれないようだが、見られてるな。遠隔魔法だろう。俺は念話を使いマユに話し掛けた。


『マユ、聞こえるか? 聞こえたら落ち着いて声を出さずに心の中で返事をしてくれ』


「ふぁっふぁい!」


 いや、声出てるから……


『落ち着いて。声は出すな。この馬車の中は遠くから見られてる。バレない様に心の中で返事して』


『はっ、はい。あの、保さんですか?』


『そうだ、マユの隣に座ってる冴えないオッサンの保だよ』


『冴えないなんて…… 私には騎士様です』


 どうした? 女子高生……?

 

『ゴホン。先ずはこれからの予定を言うな』


『はい』


魔跋扈まばっこの渓谷に着いたら、拠点を作ろうと思う。そこで、俺とマユは位階を上げる。半年が目安かな? それから、隣国の街に向かおう』


『位階? ですか?』

 

『ああ、詳しくは拠点を作って落ち着いてから言うよ。その前に1つ聞きたいんだが、マユはやまいでそんなに痩せてるのかい?それとも、何か理由があるのかな?』


『あっ、病気じゃないです。私は両親が14歳の時に交通事故で亡くなって、親戚の家に居候してて……』

 

 麻優が語った身の上話を纏めると、


 1.) 14歳で両親と死別。父親の兄に引き取られ居候生活。


 2.) 16歳までは普通に家の中で生活させて貰っていたが、叔父が性的関係を迫ってきたのを拒絶。


 3.) それが、叔母にもバレてそこから庭の物置小屋に押し込められて、食事は2~3日に1度。風呂は無しでトイレも近くの公園に行くという生活だったらしい。


 胸糞が悪くなる話だ。痩せてやつれていても可愛らしい顔付きのマユだから、性的興味を持つのも分かるが、分別ある大人がそれはどうなんだよ!

 その叔父が目の前にいたらボロボロになるまで殴ってたな。とか俺が思っていると、麻優に駄々漏れだったようで。


『有り難う、保さん。私の為に怒ってくれて』


 と潤んだ瞳で見つめられた。年甲斐もなくドキッとしてしまった。慌てて俺は誤魔化す為に俺の簡単な身の上話をする。


『ああ、マユには言っておくよ。俺は25年前に奥さんと奥さんのお腹にいた子供が同じ様に交通事故で亡くなっている。それと、これは信用して貰うしかないけど、俺はその日以降、その、男性としては不能でね。マユを襲ったりはしないから。安心して欲しい』


 と秘密を打ち明けた。


『私は保さんなら…… (私があなたの心を癒して見せます。) キャーッ今の無しです』


 狂った様に首を横ふりしているマユを見てフッと笑みがこぼれる。


『有り難うな。気持ちだけ貰っておくよ』


『ンッ! ハイ!』


『で、だ。拠点を作って詳しい説明をするんだけど、俺もマユもこの世界ではかなり能力が高い。あの時は俺が表示される数値を改竄かいざんしておいたから彼奴あいつらには無能に見えただけだから。正直に言うとあの王女は信用出来なそうだったからな』


『あの、保さん。改竄なんて出来るんですか? 私は此処に連れて来られて何が何だかって感じなんですけど…… いきなりそんな事って出来るものなんですか?』


『ああ、出来る。マユにも出来るよ。やり方は拠点を作ったら説明するよ。』


 と、そのときにサーバインから声がかかった。


「保殿、寝ておられるなら申し訳ない。が、後少しで国境に着く。準備を願いたい」


「ああ、分かった。卿には世話になったな」

  

「いや、何も出来ない我らを許してくれ」


「十分にして貰ってるよ」


 俺は心からそう言って会話を止めた。さあ、先ずは拠点作りだな。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る