第42話 温泉宿はサイコー!

 まあ、驚いたが折角のユグドの気遣いなので遠慮しないで泊まる事にした。村長さんが宿の女将さんに、


「久しぶりに人族の旅人が来てくれました。よろしくお願いしますね~」


 と声を掛けてくれた。


「あら、ミレイ。はしゃいでるわね。やっと村長らしい仕事が出来たじゃない。あっ、失礼しました。お客様、私はこの宿の女将でサーラと申します。お泊まり頂きまして有り難うございます」


 サーラさんは気さくな感じでミレイさんに答えた後に俺達に応対してくれた。サーラさんもエルフの様だ。ミレイさんとは違うタイプの美人さんだ。皆を代表して俺が、


「お世話になります。2人部屋を2つ、お願い出来ますか?」


「はい、大丈夫ですよ。今の時期は宿泊に来られる王族や貴族の方もおられないのでお客様方の貸切状態です。部屋に露天風呂がついておりますので、ごゆっくり湯治して下さいませ。それでは、お部屋まで御案内いたします」


 俺達はミレイさんに、


「「「「有り難うございました」」」」


 と礼を述べてからサーラさんに案内してもらい部屋に着いた。


「此方のお部屋【森林の間】と、2つ開いて【河川の間】で宜しいでしょうか? お部屋が離れているのは、露天風呂の配置の関係で申し訳ないのですが」


 と、どちらの部屋も広々としていてゆっくりと出来そうな良い部屋だった。俺とマユが【河川の間】で、アヤカとライが【森林の間】に泊まる事になった。


「お食事夕飯はどうされますか? 村の食事処でも宜しいですし、宜しければウチの小宴会場で皆様ご一緒にも出来ますが」


 俺達は話し合い、宿で食べる事にした。


「はい、畏まりました。それでは準備が出来ましたらご案内に参ります。それと、大浴場が此方にございます。何時でも入れますのでご利用下さいね。それではごゆっくりとお過ごし下さい」


 そう言ってサーラさんは部屋前を後にした。


「タモツさん、露天風呂なんてステキですね」


 マユがはしゃいでいる。可愛い……


「早速だけど入って旅の汗を流すか。晩飯までのんびり出来そうだし」


 俺の言葉を聞いて頬を染めたマユが


「はい……」


 と返事してくれた。アヤカとライも、


「アヤカ、僕達も折角だから温泉に入ってから部屋でゆっくりしようよ」


「そうね、ライ。露天だけど結界を張れば声も漏れないし、ね」


 と、話している。俺達はお互いに、


「「「「それじゃ、又後で」」」」


 と部屋に入った。内鍵もしっかりと掛けてからマユと一緒に脱衣所へ行く。そこで俺達2人は気になる物を見つけた。宿が脱衣所の壁に貼ってある注意書だ。


浴衣よくい

 ※此方の服は異世界より来られた勇者が、この地に50年前に伝えた物である。浴衣よくいと言う名前だが、入浴時ではなく入浴後に着用する、温泉の【正式】な着衣である。男女共に肌着下着を着用せずに、裸の上に着るのが【正式】なスタイルである! これを着用するならば、必ず守って下さい。

 

 読んで固まるマユと俺……


「え~っと、どうするマユ? 女将さんに言って訂正するか?」


「タッ、タモツさん、どうしましょうか? でも、既に50年もこのスタイルなんですよね……」


「そうだよな~。50年もな…… 取り敢えず、このままにしとこうか?」


「そ、そうですね。私達は夕飯が終わるまでは私服で、夕飯後にもう1度温泉に入ったら浴衣になりますか……」


「うん、そうしよう!」


 2人の気持ちが1つになった。


 そうして、俺達は【アレ】はせずに、普通に温泉に入り(少しだけイチャラブして)、それぞれ私服に着替えて夕飯の準備が整うのを待った。


 温泉を出てから1時間程で女将さんが準備が出来たと呼びに来てくれた。部屋を出る俺とマユ。そして、同じく部屋を出てきたアヤカとライ……

 しっかりと浴衣を来ていた。注意書を守って……


「おい!ライはともかくとして、アヤカよ……」


「ア、アヤカ!流石にソレは……」


 俺とマユが呆れた様に言うと、


「えっ! 2人とも、どうして浴衣じゃないの? 郷に入っては郷に従えって言うじゃない。こんなステキなスタイルを折角、前に来た勇者が作ってくれたのに利用しないなんて…… ねえ、ライ」


「そうだね、アヤカ」


 と逆に呆れた様に言われてしまった……


「「はぁ~~~、もう良いよ。好きにしな(て)」」


 俺とマユの返事がかぶった。


 そんな俺達を見ていた女将サーラさんはニコニコとしながら、


「王族や貴族の方にも人気なんですよ。浴衣よくいは。さあ、小宴会場は此方です」


 と言いながら案内してくれた。


 食事はかなり旨かった。50年前の勇者から伝えられたのは浴衣だけじゃなく、料理・酒・畳等等、日本の温泉旅館(それも高級な)のスタイルを伝えられたそうだ。大満足した俺達だった。

 そうして、仲居さんの給仕を受けながら色々と聞いて、楽しく食事を終えた。

 それで部屋に戻る前に明日の朝は9:30に宿の前に集合して村を散策する事を決めた。ここにも組合の支部があるらしく、構わなければ魔獣の肉と素材を卸して欲しいと女将サーラさんに頼まれた。

 そうして、部屋に入り俺とマユは部屋の露天風呂にもう1度一緒に入り、体を重ねて心地好い疲れを感じながら久しぶりの布団でグッスリと寝た。

 

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