コミカライズ1巻発売決定記念SS

12/27に出るんですってー! 嬉しくって楽しみです!! 

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晴れた空を見上げて、テネアリアはため息を吐いた。

この心の内を表すはずの天気が、反映してくれない。

つまり、今の自分の心境は晴れた空の気持ちに近いということか。


空を見上げて、複雑な胸中を思う。


――もう数日、ユディング様に会っていない。


皇帝であり、夫でもある。テネアリアの大好きなユディング様だ。

多忙を極めているのはわかっているし、別に彼が意地悪で放っておかれているわけでもない。

直接顔を合わせなくても、テネアリアなら満足できることはできる。

それでも、やっぱり寂しいとどこかで感じているというのに。


「妃殿下、いかがなさいましたか」

「会いたいのは、お前じゃないの」

「おや、これは手厳しい」


目の前で優雅にお茶を飲んでいる男――プルトコワを見やって、テネアリアはもう一度ため息を吐く。ご機嫌伺いにきて、不機嫌にさせていくのだから、彼も不思議な男である。


プルトコワはユディングの叔父だ。彼の父親の年の離れた弟になる。


ユディングと薄くとも血のつながりのある男であるはずなのに、少しも一つも、僅かすらも似たところがない。

別に似ていてもそれはユディングではないので、テネアリアにとってみればなんの慰めにもならないのだが、こんなに会えていないと期待してしまうのも事実で。


やっぱり複雑な乙女心を持て余していると、プルトコワはくすくすと笑う。


「ひっ、妃殿下、落ち付いてください」


成り行きを固唾を呑んで見守っていた侍女のツゥイが、真っ青になりながらテネアリアを止める。


「あら、失礼ね。私は落ち着いているわ」

「じゃあ、もっと落ち着いてくださいっ」


無茶なことをいう侍女である。

というかツゥイ自身が落ち着くべきでは?


胡乱な目になったが、プルトコワが「贈り物」と呟いた。

思わずテネアリアが彼に視線を戻せば、柔らかい口調で続ける。


「今、陛下が妃殿下に会えないのは生誕祭のせいですから、ね。妃殿下から陛下に贈り物をしてさしあげてはいかがでしょう」


確かにユディングが忙しいのは生誕祭のせいだった。別にユディングが生まれた日ではなくて、建国の英雄の生まれた日だ。その日を生誕祭として祝うために、皇帝はじめ貴族たちは方々を駆けずり回らなくてはならない。

祭りに必要な供物などが数十以上も事細かに決められており、しかもそれを捧げる日まで決められているのだ。生誕祭の何日前にはこれこれをこのようにして捧げる、といった手筈である。

四十日前から行うので、結果テネアリアはユディングと顔を合わせることができないというわけである。


そんな多忙を極めるユディングに――。


「私が、贈り物?」


いつも貰うばかりであげるものといえば、手紙だとかお礼の言葉ばかり。

そういえば、一度もユディングに贈り物などしたことがない。というか、人生ですら初めてだ。

なんてことだ。ユディングがお見舞いの品を用意してくれた時、サイネイトは彼にとっても初めての行動だと呆れていたが、テネアリアだって同じようなものだった。


人に贈り物など考えたこともなかったなんて!


「ツゥイ、どうしたらいい? 私、何を贈ればいいかしら」

「呪いの人形を貰ったんで、お返ししたらいかがですか」


冷めた表情の侍女に、ぷんすか怒るのはテネアリアだ。


「呪いじゃないし、失礼よ! もう、本当に悩んでいるのに、ツゥイのばかっ」

「妃殿下ご自身が良いと思うものを贈れば間違いないですよ」


穏やかに微笑んでプルトコワは、もう一度カップに口をつけた。


「ああ、妃殿下らしいものであれば、なおよろしいでしょう」

「私らしいもの??」


ますます何を贈ればいいかわからない。

考え込むテネアリアの横で、プルトコワは静かにカップを傾けるのだった。



――数日後、ユディングの執務室にガラス細工の美しい鈴が届いた。

それは卓上に置けるもので、風が吹くと小さく涼やかで軽やかな音色を響かせる。聞いている者の心を、とても落ちつかせるものだった。


時折、窓も開いていないのに執務室で小さく奏でる音が聞こえてくるという――。

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【web版/未完結】英雄様、ワケあり幼妻はいかがですか?(旧題:妃殿下の秘密) マルコフ。/久川航璃 @markoh

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