第39話 顛末
「おお、これがあやつの妃か」
テネアリアに与えられた天幕にやってきたのは体格のいい男だった。甲冑からはみ出さんばかりの肉が憐れだ。
その後ろからは何やらキラキラと輝く容姿を持つ少年が続く。
だが男の吐く息が生臭すぎて、堪えられない。
テネアリアは顔をしかめて、横に控えるセネットに視線を送る。彼は自分の視線に気がついているにも関わらず、表情を変えることがない。
ただ、男に頭を下げるだけだ。
「なんとも、まだ子供ではないか。あやつは幼女趣味か」
矮小な将軍に本来、額付く必要性を全く感じない。その上、失礼な暴言には敬意を払う価値もない。
テネアリアは虹色に瞳を輝かせて、一言声を発した。
「去れ」
ごうっと突風が吹き、男が悲鳴を上げつつもんどり打って天幕から出ていく。
男の後ろにいた少年はとっさに飛び退いたため無事だった。
「ああいうの無理だって知っているはずでしょう?」
テネアリアはセネットを睨み付ける。
「申し訳ありません。あちらではなく、殿下にお会いしていただきたかったのです」
セネットはテネアリアを迎えに来た。自国の謁見の間に呼び出されたテネアリアが父である国王にどんな仕打ちをしたのか、もちろん彼は知っている。そして、それ以来、すっかりテネアリアに怯えていたのだから、よく理解しているはずだ。
父と同じような権力にふんぞりかえる豚になど興味はない。
「殿下って…」
「初めまして。僕はカンダル王国の第五王子のアタナシヤ=パコル=カンダルと申します」
金色の長い髪を一つに結んだ褐色の肌を持つ少年は薄紫色の瞳を細めて笑顔を作った。
だがテネアリアはふんっと鼻を鳴らすだけだ。
「追い出しはしないけれど、私が怖いならさっさと立ち去りなさい。取り繕われるのが、一番腹立たしいわ」
「…も、申し訳…」
「謝罪は結構よ。そこにいる男に対処の仕方でも学びなさいな」
「おや、意外に親切ですね。また問答無用で追い出すのかと」
「敬意を払う者は蔑ろにはしないわ。当然でしょう?」
「ですって、殿下。良かったですね、なんとか及第点をいただけましたよ」
「え、え?」
「勝手に話すなら話しなさいね。私も好きにするから」
言うなり、テネアリアは寝台に倒れこんだ。
「ど、どうしました?」
「痛いのはいやだと言っていましたから、きっとそこら辺を漂ってらっしゃると思いますよ」
「…なるほど。セネットは本当に慣れていますね」
「殿下。彼女はこの部屋にいるかもしれないし、どこか遠くへ行っているかもしれません。ですが、目を閉じているからといって聞いていないわけではありません。発言にはご注意ください」
「わかりました」
神妙に頷いた少年は、それからゆっくりと話し出した。
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