第17話 愛し方
さっそく、木彫りの像を枕元に置いてみた。
景観を損ねるだの、絶対悪夢しかみないだのと散々言いながら、ツゥイは部屋を出ていく。
就寝時間になったので、寝台にもぐりこんでこっそりと眺めてみるが。
やはり怖い。
でもユディングが選んでくれたのだから、と何度も言い聞かせる。
初めてもらったものだから、やっぱり嬉しい気持ちの方が勝る。
忙しい彼はどんなことを思いながら、これを選んでくれたんだろう。
最終的に選んだものが彼らしくて笑える。
渾身の作のお礼状を彼は読んだだろうか。
木彫りを眺めながら、目を閉じる。
彼は愛を知らないと言うけれど、彼の行動は随分と愛が詰っている。
サイネイトが仕向けているのはわかるけれど、彼の態度からは愛を感じる。
だからこそ自分の気持ちを知ってもらいたいと思って、お礼状には気持ちをしたためてみた。
彼は読んでくれただろうか。
確かめたいけれど、他にもしなければならないことがある。
あんまりやり過ぎると、疲れが出てツゥイに気づかれる恐れもあるので慎重に進めなければならない。
ツインバイツ帝国は戦をしかけて領土を拡大し続けている。現皇帝であるユディングは現状の領土以上に拡げるつもりはないようだが、周囲の国からしかけられてさらに領土を得ているという様子だ。皇帝の関係者が揃って流行り病で亡くなってからも戦争の火種はあちこちに燻っていて、なかなか終わりの兆しが見えない。
現在は西部のザクセン領、南部のシェルツ領が怪しい動きを見せている。
隣国と結託して戦争をしかける時期を見極めているのだ。
どこまでいってもユディングの周囲は落ち着かず、終わりが見えない。
だが、彼は一向に頓着した様子がない。
きっとそういうものだと思っている。
彼の人生に安らぎや安息という言葉はないのだ。
常に戦いに身を置き、生死を問われてきたようなものだろう。生きていることは死んでいないことであり、生きることに楽しみが伴うなんて考えたこともないのだろう。
彼は愛がわからないと言った。
わからないのなら、教えてあげたいと思うが、別に知りたいわけでもないのだろう。
それが、生きることにどんな意味をもたらすのか、考えたこともないに違いない。
温かな布団にくるまって、テネアリアはふうっと息を吐く。
初めて彼を見た時、獣のようだと思った。
真っ赤な瞳は、どこまでも力強く生を渇望していたから。
誰よりも鋭い瞳の輝きに、一瞬で魅入られたと告げて彼は信じるだろうか。
きっと困惑するだろうな、と想像して思わず笑ってしまう。
両親から愛されたこともなく、恋人もいないテネアリアに人間の愛はよくわからない。
せいぜいツゥイや世話係から受ける愛くらいだろう。主従愛だろうか。
それでも、自分は愛を知っている。誰よりも愛されているから。
重苦しいほどの愛情を注がれて生きてきたから。
だからこそ、そんな愛し方しか知らない。
でも、そんな愛し方でないと彼には届かない気がする。
だが今はとにかく、火種だ。
せっかく一年かけて邪魔をしたのだから、もう少し時間がほしい。
いや、ユディングがこの生活に飽きてきているなら、すぐに邪魔は辞めるが。
見極め時が難しいなと思いながら、テネアリアは意識を飛ばしたのだった。
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