第18話 暗殺者(ユディング視点)
執務室で書類を片づけていると、つい視線は机の端に置かれた白い封筒に向く。
セネットが妃殿下から見舞いのお礼状だと持ってきたものだ。
贈り物を受け取ったらお礼を綴った手紙を送るらしい。普通は快癒とともに手紙を送るらしいが、よほど嬉しかったのでしょうとセネットが話してくれた。若干青ざめていたのが解せないが。
生まれて初めて誰かに贈り物をした。
だからそんな手紙をもらうだなんて想像もしなかった。
もちろん、サイネイトはからかいにからかった。早く中を読んでくださいよとか、なんて書いてあるんですかねとか、いい年した男が少女のような年の娘から貰った手紙でにまにましないでくださいよとか。
ふとした瞬間に告げてくるので、早々に本日の業務は終了としてさっさと部屋から追い出した。自分に非はないと思う。
だが散々にからかわれたので、物凄く存在が気になる。単なる手紙といえども存在感がすごい。
もちろん声を出すわけでもないのだが、開けろ~読め~と声が聞こえてきそうなほどだ。
おかげで全く仕事が進まない。
仕方なく、手紙に手を伸ばした。
さらりとした紙の質感は上品な手触りで、いつも触っている書類とは全く異なる品質だ。
封を開けて、かさりと折り畳まれた手紙を出すとふわりと花のような甘やかな香りが漂った。
『ありがとうございます、ユディング様』
不意に少女の楽しげな声が聞こえて、ユディングは顔を上げた。
だが、部屋には自分一人だけで、扉が開いた形跡もない。
幻聴が聞こえたのだろうか。
開いた手紙に視線を向ければ、確かに声が聞こえる。
『お忙しい中、わざわざご自身で選んでくださったと聞きました。とても嬉しかったです、大事に枕元に飾りますね』
「誰だ!」
声はユディングの妻になったばかりのテネアリアのものだが、こんなところでのんきに話をしている状況なら手紙を寄越さず自分で言いにくればいいのだ。
そもそも、内容が手紙に書かれている内容だ。どこからか読み上げているのだと考えるのが普通だ。一時一句相違ないのだから。
だが見回しても誰もいない。
と思ったが、カタンと物音がして、傍らに置いた剣を掴んで天井へと突き刺す。
天井を突き破って、別のところから人が転がり落ちてきた。
どうやら暗殺者が上に隠れていたようだ。
「陛下、いかがされましたか」
扉の前に控えていた見張りが、物音を聞きつけて扉を開けた時には、もう一人の暗殺者をしとめ終えたところだった。
「死体を片づけろ。天井裏にももう一人隠れている。修理はサイネイトに聞け」
「かしこまりました」
見張りの兵士に声をかけて、廊下に出ると手紙を執務机の上に置いてきたことに気が付いた。
暗殺者は男だった。骨格がどう見ても女ではない。
そもそも手紙を読み上げて居場所を教える必要なんてないのだ。
ユディングは不可思議な気持ちを抱えたまま、自室に向かうのだった。
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