第14話 突風

結局、二日目の朝も一人で目覚めた。それでも昨日とは気分が天と地ほどに違う。

晴れ渡った青空を見つめて、テネアリアは満面の笑みを浮かべる。


「セネットはもう来ている?」

「朝食の頃に交代するとランデン殿が仰られていましたが」

「そう。なら、陛下と一緒に朝食をとりたいからどこで召し上がられるか聞いてくるように伝えてくれる?」

「まだ懲りてないんですか」

「懲りるって何を?」

「明らかに嫌がられてるじゃないですか」


ツゥイが怯えたように告げるので、きょとんと見つめる。


「嫌がられてないわよ、ただ困られているだけなの」

「あんな今にも人を殺しそうな顔のどこが嫌がられてないんですか」

「じゃあ陛下に直接聞いてみましょうか」

「やめてくださいっ、殺される!」


ひいっと声高に叫んだ侍女に、誤解されるのも無理はないとは思うがこれはこれで困ったものだと内心で短息する。

身近にいる者で皇帝の心情を理解しているのはサイネイトだけなのだろう。さすがは長い間一緒にいるだけはある。だが、こんなに誤解されてばかりなのはやはり問題だ。


「そんな理由で殺してたら城で働く人が居なくなっちゃうじゃない」

「だから、この城の使用人が極端に少ないんですよ。全然手が足りてないじゃないですか」

「この城の働き手が少ないのは、ツゥイのように誤解している人が多いからよ。不人気な職場なのよ、この城は」

「妃殿下、そのお話はいつ知ったのですか」


目の前の侍女の声のトーンが変わって、テネアリアは失言したことに気がついた。

内心でぎくりとしたが、極力表情に出ないように努める。


「ここに到着してすぐ…?」

「疲れていたから横になりたいのだと思っていましたが」

「ちゃんと休んだわよ。でも、ほら、知らない場所だからやっぱり気になるでしょう、ね?」

「そういえば、昨日はここでは珍しく突風が吹いて、城壁の一部が壊れたという話を小耳に挟んだのですが」

「え、そうなの。それは知らないわ」


本気で知らなかったので、告げればツゥイは勝ち誇ったかのように笑う。


「突発的な暴風が城を襲ったそうですよ。ところで、妃殿下は昨晩は陛下と晩餐をご一緒されると聞いておりましたが、なぜか執務室へと行かれたとか」

「仕事好きな旦那様に夕食を運んであげたのよ」

「つまり約束をすっぽかされたから押しかけた、と。姫様っ、やっぱりお力を?」


テネアリアはぶんぶんと首を横に振った。


「してない、してない。本当にこれっぽっちも怒らなかったわ」


いや、食堂で待ちぼうけをくらったときには、だいぶ腹も立てたが、一瞬だったはずだ。

まさかそんな一瞬で、城の城壁を壊すほどの威力はないはず。ないと思いたい。


「しばらく、寝台の上でお過ごしください」

「やってないって言ってるのに、ツゥイは信じてくれないの。それにこんなに元気だし、陛下と一緒に朝ごはんを食べたいわ」

「なりません、御身にもしものことがあったらどうするのです。はい、今すぐに寝台に戻ってください。朝食は隣に運んでおきますので、起きたらお召し上がりくださいね」


普段は自分の言に振り回されているツゥイだが、テネアリアの体調管理にだけはものすごくうるさい。そして決して譲らないのだ。


テネアリアは諦めて寝台へと戻るのだった。


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