第26話 不器用な気遣い
目を開けると、ユディングの顔が目の前にあった。
「へ、陛下?」
「目が覚めたか」
「はい、すみません。粗相を致しました」
「襲撃に合えば、まあ怖いものだろう」
彼は襲撃に遇った恐怖で気を失ったと考えているようだと知り、胸を撫で下ろした。このままか弱い姫路線を継続させるべきだ。
彼の腕の中で抱き締められている。もっと実感したくて、胸に顔を埋めた。
だがすぐにはっとする。
「お怪我は大丈夫ですか」
「別に腕に刺さっただけだ、毒が塗ってあるわけでもなかったから平気だ」
刺さった矢は抜かれて、服を裂いた布で簡単に手当てはされていた。周囲に人気はなく、彼が自分で施したのだろうと伺える。
「矢が刺さることは普通はありませんから、少しは痛がってください」
「人より感情が鈍いんだ」
「では私が陛下の感情になりますわ」
「うん?」
「貴方の代わりに痛がって泣いて笑います。私を見て感情を知ってください」
「無茶を言うな」
「無茶じゃありませんよ、本気ですからね」
胸を張れば、彼は安定の困り顔を向けてきた。
仕方がないので話題を変えてみる。
「襲撃してきた者たちはどうなりました?」
「雷が落ちてきて退散したようだ。不思議なことに、俺の周りではよく雷が落ちるんだ」
「噂で聞きましたわ。神のご加護だとか?」
「呪いだと言う者もいるが。だから、今は安全だ」
ユディングは軍神の加護があると専らの噂だ。これまで窮地に陥った戦場で数々の雷を落としてきたらしい。そのため周辺国ではユディングが率いている間は戦争で勝ち目はないと言われているほどだ。おかげで最近は戦の数は随分と減った。
だがその雷の正体を知っているので、テネアリアは曖昧に微笑んだ。ばれればか弱い設定なんて一瞬で消し飛ぶ。
「ここはどこですか」
「霊廟の前の広場だ。花しかないが」
促されて周囲を見回れば白い小さな花が揺れていた。見渡す限り一面に広がっている。
「わあ、綺麗ですね」
「ここでしか咲かない花らしい。それに花弁は薬になる。傷に塗り込めば痛みを和らげる。あとは葉も薬になる。毒消しだが苦いらしい」
いつもよりも饒舌なユディングは眉間に皺を寄せて、低く唸っている。
心底不機嫌、怒髪天を衝くというほど怒っているような顔だが、困っているのだろう。
「もしかして慰めてくれています?」
「会話が大事だと聞いた」
慰めるために会話が必要?
怖がって気絶した妻をとにかく落ち着かせようとしてくれているのだろうか。
会話というよりは薬に関する情報だが。
せっかくおとぎ話のような花に囲まれた広場に出て、二人で抱き合って眺めていて、する話が花の効能とは。
さすがユディングだ。
でも不器用ながらも気遣われているのがわかるから、とても嬉しい。
彼は言葉では言ってくれないが、別にテネアリアを疑っているわけではないのだ。それが態度から伝わってきて安心した。
力を抜いて、彼に全身を預けて腕の中のぬくもりを堪能する。
「無理にお話しにならなくても大丈夫です。ユディング様と綺麗な場所を眺めて抱き合っているだけで十分ですわ」
ユディングの赤い瞳を見つめて微笑めば、彼はさらに唸り声を上げたのだった。
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