第31話 お酒

「今日、叔父上がやって来たと聞いたが」


いつもの夕食の時間に執務室に押し掛ければ、待ち構えていたユディングが開口一番問いかけてきた。


「ええ、そうですわね。二人で屋敷に遊びにきてほしいと誘われましたわ」

「それはそれは…で、妃殿下は何とお答えになられたのですか」


ユディングの横にいたサイネイトが渋面を隠しもせずに問いかけてくる。

疑われているのだ。むしろテネアリアが彼の叔父と結託しているとさえ考えているのだろう。

生憎と証明することもできないので、余計な反論はぐっと飲み込んだ。


「陛下と相談させてくださいとお伝えいたしましたが、よろしかったですか?」

「そうですね、及第点ではありますか」

「今度、叔父の屋敷でワインの試飲会を兼ねた舞踏会が開かれる。そこに一緒に行ってくれるか」


ユディングがいつもの平坦な声で告げる。

やはり彼が何を考えているのかテネアリアにはわからない。

サイネイトくらいわかりやすければ、対処のしようもあるのだが。

疑わないでと願ったのは自分だ。その時は返事を貰えなかったが。後日彼は疑わないと答えたことを知っている。

言葉数の少ない彼の告げる言葉は真実だ。何時だって、本当のことしか言わない。


それだけで満足するべきなのに、心が不安で揺れ動く。

面と向かって言われたわけではないからだろうか。それとも、自分に隠し事があるからだろうか。


全てを打ち明けたら、彼はどんな顔をするだろう。

嫌われてしまうだろうか。

関心がないのもいやだけれど、嫌われるのはもっといやだ。だったら黙っているほうがいい。


恋とはままならないものなのだなと、テネアリアは苦しい気持ちのまま夫の無表情な顔を見つめた。


「かしこまりました」


結婚の挨拶に行くときと同様に、テネアリアは頷いた。

どこまでも従順に見えるように、必死で笑顔を貼り付けながら。


「具合は…大丈夫なのか」


怒ったような声音だが、内容は気遣われている。

サイネイトが呆れたようにユディングを見つめていることから、きっと心配してくれているのだとわかった。


「大丈夫ですわ。何か必要なものはありますか?」

「必要なものはこちらで用意いたします。そうだ、妃殿下はお酒を飲まれたことはございますか」

「お酒…?」

「公爵様の領地で作られているワインの新作の発表会の場なのですよ。ですから、多少なりともワインの試飲を勧められるかと」


首を傾げれば、サイネイトが説明してくれる。

テネアリアは思わず首を横に振った。


「お酒を飲んだことはありません」

「そうですか。では飲まなくていいように手配しましょう。まあ妃殿下に無理やり勧める方もいらっしゃらないでしょう。それにコイツがいれば、全部飲んでしまうでしょうから」

「陛下はお酒にお強いんですね」

「ブドウ酒はジュースだとでも思ってるんです。樽で飲んでもまったく潰れません」


面白くもなさそうにサイネイトが付け足すのだった。

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