第7話 護衛

着替えて寝室を出ると、ツゥイはソファへテネアリアを座らせて、廊下へと続く扉を開けた。


「お待たせいたしました、中へどうぞ」

「失礼いたします」


背の高い男が颯爽と部屋に入ってくる。彼の後ろにも二人の男たちが続く。

肩まで伸びた髪は銀色で、顎に蓄えた髭も同じく銀。粗野な風貌は獣を思わせるが、浮かべた表情には愛嬌がある。


「セネット様?」


自国まで迎えにきてくれた騎士団の指揮を執っていた男で、テネアリアも面識がある。年は三十ほど。旅の道中はなにくれとなく気を配ってくれて、随分と親切にしてもらった。


「昨日ぶりですね、姫様。ああ、失礼いたしました、妃殿下。この度、正式に妃殿下の護衛に任じられましたセネット=ガアです。よろしくお願いします。今後は敬称不要でお願いします。貴女は妃殿下になられたのですから。ここに控えているのは部下のクライムとランデン。同じく妃殿下の護衛になりますのでお見知りおきを」


二人の男たちが敬礼したのをぽかんと見つめる。

セネットは帝国が誇る騎士団の団長でもあると旅の中で聞いたのだ。それが妃一人のための護衛だなんて、度が過ぎている。しかも残りの二人もそれぞれ師団長とはいかないまでも隊長クラスだ。

ほいほい護衛に投入しないでほしい。


「セネットは本来、とても地位も実力も高い方だとお聞きしているのですが」

「妃殿下を護ることはとても大事なことですよ」

「……何か、悪事の予感がしますね」


胡乱な視線を向ければ、彼は困ったように笑った。


「ええと、妃殿下。それは私ではお気に召さないということですか」

「十分すぎると言っているのです。陛下のご意向ですか?」

「いえ、陛下ではありませんが…」


やっぱりと呟いて、テネアリアはため息をついた。

自分に興味のないユディングはそもそも護衛をつけるという発想はないだろう。実際、自国に迎えに来たのも皇帝補佐官のサイネイトの采配だと聞いている。


「補佐官殿の悪巧みですね。どういった趣向かは理解できませんけれど」

「妃殿下に護衛が必要なのはご理解いただけますでしょう。適任は後日改めますので、よほど気に入らないということでなければ、しばらくはお付き合いいただきたいのです」


確かにユディングの周辺は血なまぐさい。さすがに城の中では大規模な襲撃もないけれど、外を歩けば何者かに襲われることもしばしばだ。そして城の中といえども皇帝を狙った暗殺者はひっきりなしにやってくる。護衛が必要なことは理解しているのだ。

困ったように告げてくる相手に、テネアリアはにんまりと笑顔を返した。


「わかりました。その代わりといってはなんですが、私のお願いを聞いてくださる?」

「はは、この状況からのお願いですか…どのような内容でしょう」

「あら、そんなに怯えなくてもいいわ。簡単なことだから。そうね、朝食を終えたらまた迎えにきてくださる? 連れて行って欲しいところがあるのよ」

「城の案内をするように申しつかっておりますので、どこでもご案内いたしますが。ちなみに、どちらに向かわれるかお聞きしてもよろしいですか」

「もちろん、貴方たちの主のいる場所よ?」


だってゆっくり話す必要があるんだもの、とテネアリアは澄まし顔で答えた。

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