第6話 霧深い朝

目覚めて、カーテンを開ければ濃い霧が城を包んでいた。

時間が何時かもわからないが、テネアリアは自嘲気味に微笑んだ。


「失礼します。お目覚めですか、妃殿下」

「ど、どうぞ」


静かな声とともにノックの音が響いて、慌てて返事をする。傍にあったガウンを羽織れば、するりとツゥイが部屋の中にやってきた。


「珍しくなかなか起きて来られないので心配しましたが、大丈夫そうですね」

「ええ。少し寝坊してしまったのかしら」

「長旅でお疲れでしたら、もう少し休まれていても構わないと言われていますが」

「大丈夫よ。今は何時なの」

「いつもの朝食の時間より少し遅いくらいですよ」


外の霧のことは指摘されない。ツゥイは別に意地悪ではないので、問わないでいてくれるのだろう。


「朝食の用意ができていますよ、召し上がられますか」

「そうね。着替えてから向かうわ」

「かしこまりました。では隣に朝食をご用意いたします」

「ありがとう。ねえ、ツゥイ」

「なんです?」

「殿方の好む方ってどういう女性かしら。私はやっぱり子供っぽい?」

「……その手の話を私にする時点で間違ってるってわかっていますよね?!」


恋人もいなければ出会いもない彼女に、酷な話題だとは知っている。

そっとしてくれる優しさも感じていたが、それとこれとは話が別だ。

今、自分が一番気にかかる話題である。そもそも相談できる相手が彼女しかいない。


「私ってもしかして可愛くないのかしら」

「姫様はお綺麗ですよっ」

「でも陛下が初夜をする気にはならないってことでしょう?」

「姫様っ、私をからかって遊ばないでください」


ツゥイは動揺すると姫様と呼んでしまうらしい。何事も慣れるまで時間がかかるということだろう。


「遊んでいるつもりはないわよ、真剣だわ。ただいろんな意見を聞いてみようかと思って」

「私は除外してください。それと、今日から護衛がつくそうです。妃殿下が着替えたら挨拶したいと外でお待ちでらっしゃいます」

「護衛?」

「ここでは、王族の方に護衛がつくのが普通とのことで。結構ですと断るわけにもいかないので、待機してもらっています」

「貴女だけで十分なのに」

「あまり声高に言わないでください。手の内を明かしたくはありませんので」

「ツゥイは随分と警戒しているのね」

「本来の仕事でございますから」


くすりと微笑めば、ツゥイは無表情のままで答える。ようやく落ち着きを取り戻したらしい。


「ここは少し空気が悪いわね。そうは思わない?」

「姫様、滅多なことはおっしゃらないでください」

「わかっているわ。では着替えますから」


ぽつりとつぶやいただけで血相を変える侍女に苦笑して、テネアリアは話を切り替える。お終いと存外に告げれば、ツゥイはあからさまにほっと胸を撫でおろしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る