第11話 晩餐

広いテーブルにセッティングされた皿は二人分。

先に食堂について、テネアリアは思わず微笑んだ。


だが給仕してくれる使用人一同の表情は硬い。

きっと彼はほとんどここを利用していないのだろう。

今まで確認しなかった自分も迂闊だったが、まさかそんなに食事をとっていないだなんて思いもしなかった。

その点に関してはツゥイも不思議そうにしていた。

あの体格を維持するのにはかなりの食事量がいると考えていたからだ。


むしろ戦地にいるほうがよく体を動かすから食べているという話を聞いて、卒倒しそうになった。書類仕事だからといって城で食事をしない理由にはならない。

だが彼は腹が空くという感覚がよくわからないらしい。食べなくても平気なので、食事は時間の無駄だと考えているのだという。

だが、自分が来たからには少なくとも毎日二食は食べて欲しい。

できれば自分と一緒に、と心に誓う。


お茶の時間を思い出して、テネアリアはくふふと笑う。

差し出すとぱかっと口をあけて、もぐっと食べるユディングは本当に可愛い。

口の中に食べ物があるから、文句も言わずにひたすら食べていた。別に文句を言われてもいい。あの低い重低音が耳元で聞けるなんて、それはそれで幸せだ。


あっという間にサンドイッチがなくなってしまったのは悲しかったが、もともと執務の合間の休憩に邪魔しただけなので、長居はできなかった。

だが、夕食なら時間はたっぷりある。


さすがに長いテーブルの端と端に用意されているので食べさせてあげることはできないが、食事をしている間はおしゃべりに付き合ってくれる。少なくとも同じ空間に

いることができ、姿を見ることができるので至福の時間だ。


本当に楽しみだ。

色々と想像してそわそわしていると時計がボーンと鳴った。

夕食の時間の始まりだ。

だが、やはり彼が現れる気配はない。


ふうっと息を吐いて、テネアリアはチラリと壁際に控えるセネットに視線を向けた。

お茶の時間の出来事を聞いている彼は顔色悪く首を横に振った。

何も聞いていないという意思表示だろう。


しかし、彼はいろいろと怯えすぎではないだろうか。

島国から一緒に旅してきた仲だというのに、たかだか十五歳の小娘を恐れる理由はなんだと問いたい。

だが、今はそれよりも一緒に夕飯をとると約束した夫の件だ。


「様子を見てまいります」


セネットは扉の外にいたランデンに言づけて慌てて廊下に飛び出していく。

だが、数分も経たずに戻ってきた。


「妃殿下に陛下からの言付けを申し上げます。本日も先に召し上がっておられるように、とのことです」

「……そう。陛下は今、何か立て込んでらっしゃるのかしら?」

「補佐官殿にお聞きしましたがそのような様子はなく…むしろ補佐官殿は必死でこちらに向かうように勧めてらっしゃるようでしたが」

「……そおうぅ…」


がたんと音を立てて立ち上がり、テネアリアはきっとセネットを見つめた。

びゅうっと突風が吹いて、窓ガラスを叩きつける音を聞きながら、静かに命じる。


「準備なさい、今すぐに向かいますわ」

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