第21話 恋路の邪魔
「ひ、姫様っ、心を落ち着けてくださいませ!」
飛び込んできたツゥイが、真っ青になって固まっているテネアリアの元に真っ直ぐに突っ込んできた。
自分の感情が乱れていることはわかっている。そして全く制御できていないことも。
なぜなら、先程から周囲がざわついているのがわかっていても自分には全くどうすることもできないからだ。
『ツライ』
『カナシイ』
『アソブ』
『ハシャグ』
『ヨリソウ?』
漠然とした思念が大波のようにテネアリアを襲って視界を遮る。
明るいのから暗いのから、戸惑いからかすかに怒りまで。
彼らの思念はいつも明るいか暗いか。
そして僅かな感情だ。片言の幼児が話すような漠然とした思念が伝わるだけだ。
それがざわついてひどくうるさい。
意識が引っ張られて、テネアリアを形作る何かが溶けて消えていきそうな錯覚を覚えた。
「どうしたんだ?」
耳朶を打つ低い声音にはっと意識が引き戻された。
いつの間にか部屋に戻ってきていたユディングが訝しげに一同を見つめていた。
赤い双眸に、テネアリアは泣きたい気持ちを堪えた。
彼の視界に自分がいる。それだけで、テネアリアは自分がしっかりと存在することを感じられた。
「随分と顔色が悪い」
「体調を崩されたようです。お部屋に戻ってもよろしいでしょうか」
ツゥイが状況を悟ってすぐに答える。
ユディングは訝しむ間もなく頷いた。
「なんだ、無理したのか」
平坦な声音はいつもと変わらない。素っ気なくて冷たく聞こえる不機嫌な声。それなのにすっかり安堵してしまうのだから、彼が本当に好きだと実感する。
テネアリアの愛しい英雄だ。
「すみません……今日は、失礼させていただきます」
「わかった」
言いながら大股で近づいてきたユディングはひょいっと腕にテネアリアを抱き上げて座らせる。
「へ、陛下?!」
「部屋まで送ろう」
「え、でも大丈夫ですわ…っ」
「大人しくしていろ。運び方は合っているだろう?」
やや上目遣いで問いかけられて、テネアリアはパチクリと瞬きしてしまった。
運び方と聞いている時点で荷物扱いだと思う。だけれど、思わず破顔してしまった。
温かく力強い腕は、自分の心を落ち着ける。
叫びたい気持ちは一つだけ。
愛してる、全身全霊でそう告げられるのに。
自分は彼のもので、彼は自分を好きにしてくれていい。
だからもっと近づいて、寄り添いたい。
その気持ちに嘘は何一つもない。
「それでは、よろしくお願いいたしますわ」
満足げに頷く彼を見て、何を問われても腹を括る。
まずはツゥイに相談してからだが。
反対されることは目に見えているが、人の恋路を誰にも邪魔する権利はないのだから。
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