第22話 妃殿下の秘密(ユディング視点)

「何があった?」


テネアリアを部屋まで送って寝かせてから戻ってきてみれば、サイネイトが果てしなく落ち込んでいた。執務室のソファに深く座り込んで項垂れている。

自信家の彼のそんな姿を見るのはなかなか貴重だ。

それをセネットがどうしたものかとおろおろしながら眺めていたところだった。


「すまない、完全に俺の落ち度だ。彼女は間者かもしれない」

「お前が手配した婚姻だろう」

「そうだ。なんの繋がりもない遠い島国を選んだつもりだった。だが、昨日の暗殺者といい、彼女といい全てが繋がってる気がして…」


暗殺者の遺体を調べたところ東から流れてきた外国人だとわかった。そんなところから暗殺者を差し向けられる心当たりはなかったので、一旦この話は保留になっていた。

だが、ここにきてサイネイトはテネアリアを疑っているのだ。


「あれはただの少女だろう」

「でも、お前の肩の怪我を知っていたんだ!」


頭を抱えたまま、サイネイトが叫んだ。

セネットがその横で頷いた。


「陛下が3年前に受けた刀傷のことです。彼女は誰も知らない筈の肩と脇腹の傷を噂で知ったと答えました」


3年前といえば、東の国と戦をしていて、味方だった者たちに裏切られた苦い記憶しかない。

山の中まで追いたてられ、結果的に孤軍奮闘してさすがに死を覚悟した。

あの時、副官に脇腹を刺されて敵の大将から肩を斬られたのだ。

その傷が原因で、利き手の反対で自在に剣を扱えなくなった。以前は両手でもちかえて使っていたのだが、違和感が凄まじいのだ。だが、振り回すことはできるので、あからさまに使わないことはしない。そのあとの戦でも両手で剣を握って、戦い抜いた。

だからこそ怪我をしたことは誰にも悟られていない筈だ。

それをテネアリアが知っていたということに、さすがにユディングも驚きを隠せない。


「それは…どういうことだ?」

「それがわかんないから、頭を抱えてるんだろう?!」


堪らなくなって叫んだサイネイトに、ユディングは冷めた視線を向ける。


「お前が考えてわからないなら、誰もわからないから諦めろ」

「あー、はいはい。どうせ考えることは俺の仕事だよ。諦めずに考えますよ! だから、お前は妃殿下とは距離を置け。彼女には秘密がある」

「秘密?」

「それがなにかは分からない。彼女自身か彼女を遣わした誰かの思惑なのか。とにかくお前を害するつもりかどうかわかるまでは近づくな」

「仲良くしろといったり離れろといったり忙しいな」

「俺だって、お前があんな可憐な幼妻に惚れられて振り回されてアワアワしている姿を見て楽しむつもりだったのに、全くの無駄になって落ち込んでるんだ!」

「そんなことを堂々と宣言しないでくれないか…」


確かにテネアリアが来てから、ユディングは慌てることが多い。感情を揺さぶられている。それはサイネイトの思惑通りだろう。


呆れたようにつぶやけば、セネットの苦笑がひっそりと重なったのだった。

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