第5話 寂しさ
城で過ごす初めての夜に、寝台に腰かけながらふうっと息を吐く。
静かすぎる部屋は、自国で与えられていた塔の中の自室とはまた違っていて落ち着かない。
ここに彼がいてくれれば、きっと楽しかっただろうに。
思い描く姿は仏頂面だが、テネアリアの心はふっと温かくなる。
思えば、随分と近くに来たものだ。
だというのに、今の方が寂しいと感じるなんて不思議だ。彼は同じ城の執務室か、もしくは皇帝の私室で休んでいるのだから。でもやっぱり気持ちは誤魔化せず、寂しい。
夜着に着替えたが、厚手の布地に今日は夫婦の夜はないのだと知る。
せめて傍に来られてうれしいと伝えたかったが、豪華な晩餐も広いテーブルには自分一人だけしかいなかった。食事の用意もされておらず、ユディングの食事はと尋ねれば執務室で召し上がられていると給仕してくれたメイドが答えた。
一人きりの食事に一人きりの寝室。
塔では当たり前の生活だったが、傍にはいつもツゥイがいた。会話もない食事は初めてだ。華美な料理に、一言も話さない使用人は堅苦しい。一応、テーブルマナーなどは学んでいるが合っているのかもわからない。結局、食事はほとんど喉を通らなかった。
そのツゥイはテネアリアの寝支度を整えると与えられた部屋へと下がっている。今更傍にいてくれと呼ぶのも業腹だ。
なにせ彼女は、婚姻式後に姿を見せない夫に喜んでいるのだから。
気に入らなかったんじゃないですかと喜び、このまま無視されたまま与えられた部屋で大人しくしていればいいんですと言い含めた。
昔から、彼女は自分に大人しくしていろと命じる。
余計なことはするな、むしろ何もするなと厳命してくる。
侍女のくせに態度がでかい。
心配してもらっているのはわかっているので、不敬だと思うことはないが、口うるさい点に閉口してしまうのは仕方がないだろう。
もともと母の一族に仕えていた娘だ。自分が母の血を濃く受け継いだことを知り、監視役として傍につけられた者の一人。年も近いので今回の嫁入りにもついてきた。ついでに乳母になれればと彼女の父は話していたが、絶対にそれは無理だと嘲笑ってやるくらいがせいぜいだった。
自分以上に異性に免疫のない娘なのだから。
だが、結局、自分も同じ目に遭っている。婚姻式を済ませたのに、初夜に夫の姿はなく自室で一人きりで放置されているのだから。
それが悔しい。
十五歳といえば、成人前だ。そのため子供と見なされる。ただし王族に限ってはもっと幼いうちから嫁ぐこともあるため、特別テネアリアが早いわけではない。
ただ、ユディングは二十六歳だ。十一も年上では、自分は子供に見えるのかもしれない。頭を撫でてしまったのが、余計に子供じみた行為だったのかもしれない。いや、腕に座らせてもらって運ばれたからだろうか。
怖がっていないことをアピールするのに必死で、むしろ出会えた喜びが上回って好き勝手振舞ってしまったのが敗因か。
自分の失態を上げればきりがない。
ずんと落ち込みそうになる気配に慌てて気持ちを切り替える。
彼が会うつもりがないなら、押しかければいいのだから。
歩いていける距離に彼がいるのだから、今までに比べればずっとマシだ。
気持ちを新たにして、テネアリアは寝台へともぐりこんだ。
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