【web版/未完結】英雄様、ワケあり幼妻はいかがですか？（旧題：妃殿下の秘密）

第45話 親子

「何をそんなに驚くことがあるの」

「待って、待ってください……誰が誰の子だと……？」

「おかしなことを聞くのね。そっくりなのに。そんなことよりもユディング様に連絡を取って頂戴。彼に伝えたいことがあるの」

テネアリアが告げれば、セネットは盛大に顔を顰めた。

「妃殿下は本当に我らのことはどうでもいいのですね」

「当然のことを聞くのね。勝手に崇めるのは勝手にすればいいわ。気が向けば便宜を図ってあげているでしょう。一体なんの不満があるというの。そもそも不満を抱くことすら不敬と知りなさい」

「せ、セネット……」

「すみません、殿下。動揺して取り扱いを間違えました」

視線を向ければ怯えた顔をしたアタナシヤがいる。セネットの袖口を引いて縋っている姿はまるで幼い子供のようだ。

いつもは冷静に努めようとして落ち着いた雰囲気で親しみを全面に押し出している男が全く演技をしていない時点で気づきそうなものだけれど、とテネアリアは不思議に思う。

アタナシヤが傍にいるときは、彼の空気も穏やかだ。

作られていない、和やかな雰囲気は、知っているからだと思っていた。

それがどうしてこんなに驚くのか理解ができない。見たらわかるほどにそっくりだというのに。

「妃殿下、陛下には連絡いたします。けれど、これほど動揺してしまうと、何かを失敗してしまうかもしれません。具体的に答えれば、うっかり上司に内容を報告してしまうと言ったような――」

「一瞬で立て直したことは褒めてあげてもいいけれど、私を脅すと碌なことにならないわよ」

「狼狽えている間は的確な解を導けないのですよ。仕方ないでしょう。ですから、精神衛生を保つためにも、お教えいただけませんか。殿下は、私の子ですか」

「そうよ」

「え……？」

アタナシヤがようやく理解して驚きの声をあげた。けれど、そこには喜色しかない。

慕われているのはわかっていたが、親子であると知れて喜びがあるとはなんとも愚かしいことではないのか。

それともそれほどセネットが狡猾であるということだろうか。

「自分の血を王家に混ぜて跡目を継がせようだなんて、随分と遠大な計画だとは思うけれど」

「え……っ」

「そんな無謀なことなど考えていませんよっ」

傷ついた顔をしたアタナシヤの手を掴んで、セネットはすかさず否定した。

父親としては及第点だろうが、本当に気づかなかったと言うのなら間抜けの一言しかない。

「では、本当にわからなかったの？　呆れたことね」

「殿下の瞳の色です。これは王家の色と言われていて――」

「同じじゃないわよ。他人の空似ってことでしょう。貴方に混ざっている島国の血が出たのではなくて？　そんなにそっくりで親子じゃないほうが不思議だわ」

「何がそっくりなのですか。殿下は母親似ですが」

「気の形というか、血といえばいいのか。纏う雰囲気が同じよ」

「そんなこと……？　気づけるわけがないでしょう！」

「知らないわよ。それより、早くユディング様に連絡をしてほしいわね」

息を吐けば、セネットはアタナシヤを抱きしめた。

「妃殿下の頼みを叶えて戻ってきたら必ず話をしますから！」