第8話 女子会です

【レミリアーヌ・エリシス・グラース】

 歩きながら懐中時計で時間を確認しつつ到着時間を調整。

 というわけで、間を取って十五分前に現地到着である。

 赤レンガ造りの瀟洒な建物で、無視しがたい存在感を醸し出しつつも、主張しすぎない絶妙なバランスを保ったセンスの良い外観の二階建ての建物だ。

 立地は一等地。通りの対面側には系列の服飾店、宝飾店、ブランド雑貨店が並び、世界最先端の流行を発信している。


 マー・カフェ。正式名称インペリアル・マーガレット・カフェ。公式略称はIMカフェ。

 でも庶民は誰もそんな名前では呼ばない。マーガレット・カフェ、もしくはマー・カフェである。

 IM銀行やら、IM運輸やらIMC系列のお堅い企業がたくさんあるので、庶民としては身近なコーヒーショップを『IM』で呼ぶのは抵抗があるらしい。なのでマー・カフェと呼ぶようになったそうだ。諸説あるけど。


 庶民にも人気のある、昔の偉人“聖妃”マーガレットが三百五十年前に創業した、由緒あるコーヒーショップで、企業国家IMC、インペリアル・マーガレット・コーポレーションの基礎となった世界初の株式会社でもある。

 庶民でも気軽にコーヒーやスイーツを楽しめるのは、IMC、ひいてはかのマーガレット妃のおかげだ。……数々の流行を生み出し、特許制度や株式会社を創設し、経済面で革命を起こした、あからさまな転生者だけどね。

 例の大賢者と同時代だし、当時はなんかあったのだろうか。あっ、魔王ことひいおじい様がいたなぁ。別に倒されてないけど。むしろ仲良かったらしいけど。


 ちなみに、ここの店舗は五号店らしい。

 実家の街にある三号店には何度か入ったことがあるけど、出迎えなしで入るのは今日が初めてだ。……予約でも一般客と同じ入口だよね?


 入口まで行くが、不意に躊躇ってしまい一旦素通り。

 Uターンしてうろうろ。不審者ムーブ。


 普通の庶民的なお店なら躊躇ったりしないけど、こういうおしゃれなお店はちょっとビビってしまう。私浮いてないかな? 手汗が……


 駄目だ駄目だ。思い切って入るぞ! 落ちつけぇ深呼吸だ。すー、ふー。


 その時、突然入口の扉が内側から開かれ、メイド姿の肌が少し浅黒い美人さんが現れて一声。


「ようこそ、いらっしゃいませ!」

「……!?」


 不意打ち過ぎて思わずびくりと飛び跳ねてしまう。鉄壁(自称)の外面が一瞬剥げかけた。というか一部剥げた。


「お連れ様がお待ちです。ささ、どうぞ!」


 元気一杯の声で案内される。


「あ、はい」


 思わずうなずいて、半ば意思に反して入店してしまう。

 途中、通りすがりの店員さん達のお辞儀に迎えられながら、店内を案内される。予約席は二階らしい。


――初見で名前すら出してないのに予約客だって分かるの?

――そもそもまだお店に入ってなかったんだけど。間違ってたらどうするんだろう?

――別の予約客と間違ってる可能性とかないのかな? えーと確認すべきかな?

――そういえば、シルバ連れてきてるんだけど問題ないの? 一切触れられないんだけど。


 取り留めのない思考が頭をよぎる。最初の混乱がまだ収まってないようだ。

 声をかけるのをためらってるうちに、個室の入口に辿り着く。ノックをして室内に声をかける店員さん。


「お連れ様がお見えです!」


 室内からの返事を待たず扉を開ける。そういう流儀らしい。


「ではごゆっくり、おくつろぎ下さい」


 深々としたお辞儀に見送られて、入らざるを得ない雰囲気に押されるように入室する。

 幸い席の間違いなどはなく、見知った顔がみえてほっとする。

 個室には既に三人が席に座っていた。間違いなくクラリスさんたちだ。

 どうやら私は最後だったらしい。むむ、これは遅刻? 失敗した?

 ……って、三人?


「おはようございます」


 とりあえず挨拶。


「おはよう」

「おはようございます!」

「おっす」


 最初の返事がクラリスさん。次がカレンさん。

 そして三人目は……


「……ノエルさん?」


 ギリギリで名前を思い出した。この街に来る時に馬車で同乗した神官のノエルさんだ。


「ごめんなさい、この子勝手についてきちゃって……」

「友を差し置いて甘味を独り占めとは、許されざる所業」


 白髪に近いふわふわの金髪を肩で切りそろえた美人さんである。無表情、抑揚のない喋り方は相変わらずである。


「お友達なのですね」


 私が大騒ぎしてようやく友達になれたのに、カレンさんとノエルさんは普通に友達になってるようだ。嫉妬。


「マブダチ」


 両手でピースを突き出しながら、真顔でアピールしてくる。

 ……マブダチ……たった三日で……私なんて、友達になって今日初めて一緒に遊ぶのに。軽くショックである。


「何言ってるのよ、宿代節約のためにルームシェアしてるだけでしょ」

「一つ屋根の下。もはや家族」


 ルームシェア……! 家族……。私には想像もつかないハードルを軽々と越えていく……これがコミュ充……!

 馬車で一緒だった時は、その無表情っぷり、そっけない言葉遣いで、この人もコミュ障に違いない、と勝手に親近感を抱いていたのだけれど……大きな間違いだった。

 私など塵芥。比べるもおこがましい、コミュ力モンスター……!


「さあ、座って」


 茫然としている私に声をかけてくれるクラリスさん。優しい。

 丸テーブルの空いた席に座って懐中時計をちらっと見る。九時四十八分。


「申し訳ありません、遅れてしまったようで」

「いえ、みんな早めに来てただけです、ってそれ」


 懐中時計をガン見するカレンさん。


「インペリアル・ギア製の懐中時計……!」


 カレンさんがキラキラした目を向けてくる。

 インペリアル・ギアとはその名前からも分かるように、この国――エベレット王国において帝政時代から続く老舗時計工房だ。その品質は世界最高峰との呼び声も高い。

 ハッ、そういえば庶民は懐中時計なんて滅多に持ってないんだっけ。ってか蓋にグラース公爵家の紋章が彫ってあるけど見られた? いや、貴族の紋章なんて知らないか、セーフ?

 とりあえずニッコリ笑ってごまかして懐に隠す。


「いいなぁ、懐中時計。私も欲しいんだけどね」


 クラリスさんがうらやましそうにつぶやく。

 よし、セーフだな。グラース公爵家だのという大仰な家出身だとばれて、ぎくしゃくしたりしたら嫌だ。


「懐中時計って安物でも十万以上しますからね。インペリアル・ギア製になると最低でも五十万」

「え、そんなにするの?」


 あー、すいません、これ二千万ノルムくらいします。

 見た目は銀色ながら実はミスリル製。

 所有者の魔力を僅かながら吸収して稼働し続け、保護魔法も維持し続ける優れもの。公称連続稼働時間三百年という、何を目指してるのかわからない高性能品だ。

 見た目は長針と短針、秒針のシンプルな構成ながら、所定の位置をタッチすると年月日と曜日が光で浮かび上がるギミックまで仕込まれている。

 あまりに高価すぎて処分に困ってそのまま使ってるけど、ちょっと問題がありそうだな。

 でも十五歳の誕生日プレゼントを売ってしまうのも忍びないしなぁ。

 とりあえず笑ってごまかす。あははうふふ。



「とりあえず注文しようか。今日はギルドの接待費から席料と一人千ノルムまでは出るから、遠慮しないでね。予算ギリギリまでは」


 なぜ接待費? あれか、全く関係ないのに会社の経費で落とすという、限りなく黒に近いグレーな大人な生活の知恵。クラリスさんもワルですのう。

 各々メニューを見て真剣に悩む。

 庶民でも気軽に入れるとは言っても、そんな頻繁に入れるような値段でもないのだ。この機会にできるだけ色々試したいのだろう。


「オリジナルブレンドコーヒーとふわとろホットケーキとガトーショコラとバニラアイスと」

「自分の持ち分オーバーしたら自腹だからね」

「むぅ」


 ノエルさんが釘を刺される。普通に他の人の予算分を侵食する気だったらしい。恐ろしい子。


「そういえばシルバちゃんの分は?」

「従魔用の食事用意してもらってるから大丈夫。人間の食べ物を安易に与えるとまずいのよね」

「そうですね、チョコレートとか玉ねぎとか。高ランクの魔獣・幻獣は大丈夫らしいですけど、やはり好きではないようで」

「フン」


 シルバが同意するように鼻息を吹き出す。

 各自飲み物と、食べ物一品か二品を注文して予算一杯。ノエルさんはちょっとオーバーしたのを私の余りで補填したけどね。


「ほんと図々しいんだから」

「権利の有効活用。友として当然」

「友……」


 いつのまにか私とノエルさんはお友達になっていたらしい。

 望むところだ!


「マブダチ」


 友からマブダチまで僅か三秒。コミュ力モンスターぱねぇ。

 ところで女子会って何するんだろうか? 前世でも経験がないのでわからん。


「それじゃ、みんな出会ってから日も浅いから、軽く自己紹介から行こうか」


 クラリスさんが場を取り仕切る。流石だ。


「私からね。フルネームはクラリス・ブラント。実家の家業が肌に合わなくて、この街の冒険者ギルドに転がり込んで、今年で六年かな。独身、彼氏なし! 年齢と体重は秘密ね」


 秘密にするほどスタイル悪くないと思うけど。そこはまぁ、女子だからね。

 身長は多分クラリスさん、ノエルさん、カレンさん、私の順かな?

 ちなみに胸も多分同じ。……年齢的にエルフはもうちょっと成長する猶予がある。これからさ!


「カレンです。ただのカレン。十七歳。サイエス派の魔術師です。初級魔術は一通り使えます。出来れば一生研究に専念してたかったんですけど、師匠に世間を見て来いって追い出されて……仕方なく冒険者始めました。正直舐めてました。今は自分の未熟さを痛感中です。将来は魔術研究で名を残す予定です」


 サラッと大物になる宣言。魔術研究で名を残すってことは、その時代でトップクラスの魔術師になるのとほとんど同義である。四大属性魔術全盛のこの時代、異端ともいえるサイエス派――例の大賢者サイエスが起こした流派だ――では尚の事だ。自分に自信がある人って憧れるなぁ。


「ノエル。孤児院出身。十七歳。売られた先の教会から逃げてきた。思う存分肉を食べるために」

「「「……」」」


 サラッと口に出された、かなりハードな経歴に沈黙する面々。……肉を食べるためってのがよく分らないけど。


「神聖魔法は再生までいけるよ。指くらいなら」

「「「……!」」」


 サラッとすごいこと言ってる。リジェネレートは傷を塞ぐだけでなく、古傷や欠損箇所の再生も可能な高度な神聖魔法だ。使えるだけで将来司祭位は確定と言われるほどの。

 売られたってことは多分、時々噂になる腐敗した教会で囲われていたのだろう。神聖魔法を使える者を囲って、上前を撥ねる悪徳聖職者がいるのだ。


「え、大丈夫なのですか? 追手とか」


 そういった悪徳聖職者がリジェネレートをつかえる神官を簡単にあきらめるはずがない。冒険者として堂々と活動するのは危険なのではないだろうか? 心配になる。


「大丈夫、司教とその手下は二度と悪事を働けないようにしてきたから」

「「「……」」」


 何か聞いてはいけないようなことをやったっぽい雰囲気である。


「朝昼晩、豆のスープと芋なんかではなく、肉を出してさえいれば……あんなことにはならなかったのに」


 遠い目をするノエルさん。若干意味が分からないのは私だけだろうか。



 注文した品が来たので一時中断。手を付ける前に私の自己紹介の番だ。

 さっきのノエルさんの自己紹介で、ちょっと変な空気になってしまったが……声がひっくり返らないようにだけは気を付けよう。


「レミリアーヌ・エリシスと申します。年齢は十八歳です。クラリスさんと同じく家業が肌に合わず……」


 クラリスさんやカレンさんがなんともいえない顔をしている。なんか変な事言ったかな?


「あ、魔法……魔術はそれほど得意ではありませんが一応使えます」


 魔術師の前では魔法という言葉はあんまり使わない方が良いらしい。魔獣が本能で使うようなものではなく、術理であることを誇りにしてる人もいるので。多分カレンさんは気にしないだろうけど。


「え、浄化を連発してたって聞いたけど……」


 クラリスさんが小声で呟く。それくらいは魔力量があれば誰でも可能ですよ?

 魔術は得意でないなりにも、一応切り札がない事もない。けど、お父様に使用禁止を言い渡されてるので、よほどのことが無ければ使う気はない。なのでそれについてはノーカンだ。


「あと、弓はそこそこ自信があります」

「そこそこ?」

「そこそこ……」

「もぐもぐ」


 フライングしてパンケーキに手を付けてるのはノエルさんである。カレンさんがジト目で睨んでるね。


「特技はそれくらいでしょうか」

「え、あの……」


 カレンさんが遠慮がちに手を挙げる。


「シルバちゃんとのご関係は……」

「あっ」


 そうか、他人から見ると真っ先に思い浮かぶのは『魔獣使い』か、私の場合。

 シルバって目立つもんね。


「一応契約従魔になりますね。子供の頃から一緒で、姉妹のように育ったので、全然意識してないのですが」

「なるほど!」


 カレンさんがニコリと微笑む。クラリスさんはふむふむ。ノエルさんがもぐもぐ。それぞれシルバに注目する。


「わふ?」


 ほんわか。

 あ、自己紹介続けなきゃね。


「将来の夢はクラリスさんのような自立した女性になることです」

「え? あー、あはは……」


 ? クラリスさんが乾いた笑い声をあげる。恥ずかしがってるのかな?



 それからは甘味を楽しみながらの雑談になった。

 シルバ用の食事も来ていたので、食べて良いと合図を送る。


「レミリアーヌ様、今日の服装すごく似合ってます!」


 カレンさんが服を褒めてくれる。自分ではよく分んないけど。

 昨日半日着せ替え人形にされた甲斐はあったようだ。


「ありがとうございます。クラリスさんに教えて頂いた古着屋さんで揃えて頂いたんです」

「あそこは女性向けの品揃えがよくてね。価格も信用できるよ」

「はい! 私もそこ行きたいです!」


 カレンさんが期待するような目を向けてくる。

 ん? これは誘ってほしいのか? でも、クラリスさんに教えてもらった店なのに、勝手に教えていいのかな? いや、そんな秘密主義じゃないよね? プリーズ、庶民の一般常識。


「今度一緒に行ってくれば? 三人で」


 お、セーフっぽい。でも、


「クラリスさんは……」

「私ちょっと今月きつくてね」


 苦笑するクラリスさん。

 出来れば一緒に行って親交を深めたかったけど……

 お金かぁ。私は実家からかっぱらってきた品を処分したのと、先日の大猪でそこそこ余裕あるけど、流石に私が支払いますってのは失礼な気がする。


「私もちょっと厳しいけど何とかします! ノエルは」

「もぐもぐ」


 ノエルさんはパンケーキを食べている。食いしん坊っぽいくせに食べるのは遅いな。


「ごくん。私はパス。服より肉」


 うん、だと思った。でもお友達確保を確実にするため一押ししてみる。


「買い物の後にお食事行きますか? お友達記念で奢りますよ?」


 自分で言ってなんだけど、お友達記念ってなんだ。


「行く。肉料理希望」


 速攻前言ひるがえすノエルさん。予想通り肉で釣れるんだね、あなた。



 その後はこの街の見所や、冒険者業での失敗談、師匠の愚痴、おすすめの肉屋など、いろんな話題で盛り上がった。私は主に聞き役だけどね。

 そういえば今日は三人相手だったけど、ぼろ出さずに済んだな。多分。


 ここで三人について分かった事。

 クラリスさんはよく気が付く大人な感じ。流石だ。出来る大人ってかっこいいよね。美人さんだし。

 カレンさんはなんだか私に対する押しが強い。とは言っても、親しくなりたいという気持ちが伝わってきて不快じゃない。

 敬語キャラだけどお嬢様っぽい感じじゃなく、親しみやすい人だ。美人さんだし。

 なぜか私を『レミリアーヌ様』と呼ぶので、呼び捨てにして良いと言ったけど、「とんでもない!」と頑なにやめてくれない。……実は貴族ってバレてる? 大丈夫だよね?

 ノエルさんは無口キャラかと思いきや結構お喋り。ただし表情が変わらない。貴族的な本心を隠した無表情や微笑と異なり、根本的に表情筋が動かない感じ。

 何とかして笑わさせてみたいと秘かに思ってる。美人さんだし。

 てか、みんな美人さんだな。



 そろそろ時間というところで、クラリスさんから提案があった。


「三人とも良ければ、今後も定期的にこういう場を持ちたいんだけど、どうかな? もちろんギルドの経費でね」

「いいんですか?」

「これは全メニュー制覇しないとな」


 カレンさんとノエルさんは遠慮なく同意する。

 んー、でもなんで? 私は口に出さずに首を傾げる。


「あなたたち自覚してないけど、今のギルドの注目株なのよ」


 ふむむ?


「カレンはサイエス派魔術師。つまり全属性ってことでしょ?」

「正確にはサイエス派には属性という概念が無いんですけどね」


 サイエス派は例の大賢者が創始しただけあって、前世の科学的な理論を基礎とした魔術流派だ。

 ただし、その草創期においては古典流派の数千年の歴史を誇る経験・蓄積に全く歯が立たず、役に立たない変わった流派、という扱いだった。中期には、ほとんど滅びかけてたらしいけど、研究者の涙ぐましい努力の果てに、三百年を経て今隆盛を迎えつつある。

 というのはサイエス派の主張である。なお、現実には未だマイナー流派だ。


「ノエルは某所から『帰ってこないようにしてくれ!』って悲鳴交じりの『お願い』が来てるわよ。変な意味で注目株ね」

「んあ?」


 ノエルさん聞いてない。聞いたげてよぉ。


「まぁ、まっとうな意味でも、神聖魔法の評価が高くて注目されてるけどね。一応言っとくけど再生が使えるのは、あまり言いふらさないようにね」

「おう、まかせて」


 右手の親指をぐっと上げて応えるノエルさん。本当に分かってるのだろうか。


「そして、レミリアは言わずもがな」


 ちなみにクラリスさんには呼び捨てにしてくれと頼んだら、プライベートではそうさせてもらうって言ってもらえました。親密度アップ、ぶい!

 それはともかく、言わずもがな? まぁ確かにシルバはAかBランクくらいだし、セットで考えれば……超有望じゃん。ここのギルド最高でもBランクらしいし。

 自分自身シルバに頼らないで狩りするのが癖になってて、当てにしてないので、全然自覚してなかった。そうか、セットなんだな。周りから見ると。

 シルバにおんぶにだっこってのがちょっと情けないけど。


「シルバに期待して頂いているということですね」

「いや、あなたもね」

「?」


 私、単体ではCランクの大猪狩るのにも結構きわどかった未熟者ですが?

 自己評価的には甘めに見積もってCランク相当かなと思ってる。

 微妙だよね?


「そういうわけでギルドとして、あなたたちの動向を把握しておきたいわけよ」

「アーレスとガレスは入れないの?」


 ノエルさんから疑問の声が上がる。アーレスとガレス? ……誰だっけ? 何となく聞き覚えがある。


「一応女子会なんだから男は入れたくないかな」


 カレンさんから反対意見。


「んー、正直あの子たちって、あなたたちと比べて、特に目立つという訳でもないしね。ギルド登録後まだ日が浅いってのもあるけど、今の所は特段注目する理由はないわね。ノエル、男の子と遊びたいんだったら自腹でお願いかな。相談ならいつでも乗るけどね?」


 クラリスさんがにやりと笑う。

 え、もしかしてコイバナ? でもノエルさんにはそんな感じではなく、顎に手を添えて考えこむ様に目を細める。三秒だけ。


「……ま、いいか」


 ノエルさんはあっさり諦める。特に執着するつもりはないらしい。

 で、誰?



 ……ああ! 馬車で一緒だった人達か!

 私がアーレスとガレスについて思い出したのは、帰り道での事だった。

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