第2話 訴訟も辞さない!

【レミリアーヌ・エリシス・グラース】


「それは……、新年早々災難だったわね」


 ここは王都冒険者ギルド。

 受付のクラリスさんに糞王子様との一件を話したところだ。

 クラリスさんは慰めてくれるけど、私はまだショックが抜けきっていない。

 萎びた月光花を未練たらしく持ち込んではみたけど……


「これは、流石に駄目かな」

「ですよねぇ……」


 当然受け付けられない。


「ひょっとして、失敗ペナルティですか?」


 今回の依頼は年に一度しかチャンスのない重要依頼だった。

 それ故に成功時の貢献度が高く、昇格が確約されるほどだったのだ。逆に失敗時のペナルティも大きい。


「Bランク昇格の貢献度を百とすると、今のあなたは九十って話は以前したわよね?」

「はい」

「今回の失敗で八十五になっちゃうわね」

「八十五……」


 Cランクに不利なソロで必死に稼いできた貢献度が……

 これで昇格が三~四か月遅れることが確定だ。


「何とかなりませんか? せめてペナルティだけでも」


 他人のせいで失敗したのに、ペナルティってのは納得できない。何とかならないかなぁ。


「んー」


 考え込むクラリスさん。

 クラリスさんが王都の冒険者ギルドに移籍してきて一年ほどになる。それ以来、頼ってばかりだ。申し訳ない気分になる。


「一応、失敗の責任が他人にあることを証明できれば、ペナルティは避けられるかも」

「証明ですか」


 探せば証人は確保できそうではあるけど。見てた人一杯いたし。


「ただし、公的な証明が必要ね。例えばその自称第四王子に損害賠償請求して、裁判で勝つとか」

「裁判ですか……」


 うわー、面倒臭そう。


「一応、冒険者ギルドのトラブル支援制度として、推薦弁護人を紹介できるけど」

「お金と時間がかかりますよね?」

「そうねぇ、依頼料プラス実費プラス賠償獲得時はその三割。時間は一か月から三か月ってところね」


 賠償金貰っても、依頼料で全部吹っ飛びそう。


「ただし、裁判に勝てば裁判費用を請求できるわ。責任比率にもよるけど」


 それなら結構取り戻せるかな、お金については。私にとっては貢献度のペナルティを取り戻す方が重要だけどね。

 裁判が終わったころにはBランクになってそうなのが悲しいけど、泣き寝入りは嫌だしね。やるだけやってみよう。



 それから三日後、早速弁護士さんとお話することになった。

 うう、緊張する……


「お話は分かりました。加害者の身元が不確定ですが、目撃者も多いようですし私の伝手で調査しておきましょう」

「お願いします」

「ただ、予備調査結果を見る限りでは、どうも本物のようですね」

「そうなのですか」


 動きが早いな。有能弁護士さんだこれは。

 それにしても、どうなってるんだこの国の王族は。


「賠償請求額ですが、失敗した採集依頼の成功時報酬三十万ノルム。これに加えて昇格が遅れたことによる逸失いっしつ利益ですね。裁判費用は別枠となります」

「逸失利益ですか」


 逸失利益? なんじゃそりゃ。


「本来、エリシスさんがBランクに昇格していれば、当然これまでより収入が増えたはずですよね」

「恐らくは」

「ここ五年ほどの統計データによりますと、Bランクに昇格した冒険者は、昇格直前と比較し、平均で四十一パーセント収入が増加しています」


 へー、そんなに増えるんだ。


「また、エリシスさんのこれまでの活動経過より、今回の件での昇格遅れは三か月と判断できます」

「それくらいですね」

「つまり、本来得られていたであろう三か月分の増収分が失われた利益、逸失利益となるわけです」

「なるほど」

「エリシスさんの場合は……、ほうほう、結構な額になりますな。二十三万ノルムを逸失利益として計上できます」


 結構大きい。


「合わせて五十三万ノルム。高額訴訟となりますので、訴訟補償金として一割、五万三千ノルムを裁判所に預け入れる必要があります。これは勝訴の暁には全額返還されますが、敗訴の場合は没収となります。濫訴らんそ対策ですね」


 濫訴対策。

 つまり嫌がらせや、しょうもない訴訟で裁判所を煩わせないように、ある程度ハードルが設けられているのだ。

 訴訟時に金払えと言われると、貧乏人が訴訟できなくなりかねないので、いろいろ規定がある。私の場合は一割だが、お金のない人はゼロの場合もあるし、逆に貴族とかだと五割とか十割とか無茶苦茶な金額になる場合もある。

 ……私って身分詐称してるんだけど……黙っていよう。


「フゥン?」


 傍らに座っているシルバのジト目が痛い。


「あと、弁護費用の手付金として、五万ノルムをお支払い頂くことになります。これは裁判費用に充てられ、過不足があれば返金、あるいは逆に追加でお支払い頂くことになります。ただし、完全勝訴すれば相手方の負担となりますので、全額返金となります」


 初期費用だけで十万三千ノルムか。むむむ……

 まぁ仕方ない。裁判に勝てばよかろうなのだ。


「ところで、勝訴したとして、相手が支払えない場合はどうなるのでしょうか?」


 相手が本物王子なら賠償金を取りっぱぐれることはないだろう。だが偽王子だった場合、相手がお金を持ってない可能性が出てくる。


「今回の場合、それは身分詐称が確定した場合となりますので、全財産没収の上、奴隷に落とされます。それにより相応の金額が国家から充当されます。足りない場合は申し訳ありませんが、裁判費用から先に充当され、残りをエリシスさんにお支払いするということになりますな」

「それは、まぁ仕方ないですね」


 私的には失われた貢献度が取り戻せれば文句はない。


「ところで今更なんですが、王族相手に訴訟って問題にならないのでしょうか?」


 弁護士さんがにこりと笑う。


「我が国の裁判制度の公平性は大陸一と自負しております。例え王族と言えど、きっちりと追い詰めさせて頂きますよ。今回はね」

「……」


 弁護士さんの目が怖い。

 なんか、個人的な怨念を感じるのは私の気のせいだろうか? あまり突っ込まない方がよさそうだなこれは。

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