第19話 早速のやらかし

【レミリアーヌ・エリシス・グラース】

 さて、寝坊助ゴブリンをどうしようか。


「とりあえず弓で処理しますか」


 ひょいっとな。


「あ」

「え」

「う?」

「おい……」


 四人がそれぞれ変な声出してる。あ、まずかった? だがもう遅い。

 放った矢は狙い過たず、見張り台の上で木の幹にもたれて眠りこけてる見張りゴブリンの、大きく開けた口の中に吸い込まれる。

 うまく延髄を断ち切ったうえで、後ろの木に縫い付けられた感じ。これで叫ばれないし、落下もしない。我ながら完璧じゃない?

 どれどれ? うーん、びくんびくん痙攣してるのが遠目にも気持ち悪い。流石にかわいそうなので、とどめにもういっちょ心臓に撃ち込んであげる。すぱんとね。


「レミリア様、申し訳ありませんが、こういう時はパーティーで相談してから行動してくださると……」


 カレンさんに申し訳なさそうに諭されてしまう。

 あっ……、そうか、そうだよね。

 なんというか、冒険中は即断即決な思考が身に染みてしまって……


「はい、申し訳ありません……」


 うう……、今更ながら冷静に考えると、これ、やっちまった?

 呆れられてしまう? やばい……集団行動不適合者と認識されてしまったかも。

 え? 事実だから仕方ない?

 いやいや、そんなことはないはずだ。ちゃんとその気になれば……。

 ……いきなりやらかしておいて何言ってるんだ私は、あああ……。


「あ! 結果オーライ! 結果オーライなんで大丈夫です!」

「そうですよ。弓の腕は流石としか言いようががありません。これを前提に考えれば、今の独断専行も然程問題ないと言えます」

「そうか?」


 際限なく落ち込み始めた私を慌てて慰めてくれるカレンさんとシオン君。優しい。

 そこのウーちゃん王子の疑問の言葉は聞かなかったことにしておこう。


「すみません。以後気を付けます……」


 反省。反省だ。

 ほんとに以後気を付けよう。


「ところで、人型の魔族を殺したのは初めてですよね? 大丈夫ですか?」


 シオン君が心配そうに尋ねてくる。

 そう言えば初めてだけど、意外とショック受けてないな。昨日まではびびりな私はショック受けるだろうと予想してたのに。

 うーん、人型とは言え魔族はセーフなのか。我ながらボーダーラインが分からない。


「大丈夫なようです。人間とは違う魔物だと認識できているのでしょうか?」

「そうかもしれません。人によっては大きなショックを受ける場合もあるので、とりあえず安心ですね」

「シオン君はどうだったんですか?」

「僕もあまりショックは受けませんでしたね。初めての狩りで獣を狩った時の方が腕が震えてましたね」


 あー、それは私も覚えがある。

 そのあといきなり目の前で解体作業始められて、卒倒するかと思った。なお吐いた模様。

 スパルタ過ぎない? うちの実家。


「それで作戦は? 今更だが」

「えーと……、とりあえずこの辺りの木に登って様子を伺ってみましょうか? でも冬だし目立つかな……」

「あ、では私が」


 うむ、汚名挽回、名誉返上にならないように気を付けよう。

 魔術で姿を隠してするすると木に登る。太めの枝に足を掛けて、体を安定させる。ここから矢を射かけてもいいかも? もっと近寄った方がいいかな。

 まぁそれはともかく、ゴブリン集落の様子を見る。

 集落の周囲は柵、……のようなものを作りかけて諦めたような、中途半端な柵っぽい何かにより半分ほど囲われている。残りは無防備だ。

 柵っぽいなにかはこちら側に存在してるので、回り込む方がいいかもしれない。蹴っただけで壊れそうだから無視しても良いかも。

 人通り、というかゴブリン通りは少ない。丸太と草と葉っぱで雑に作られた家が、えーと? 六軒か。雨除けだけ作って地べたに枯草を敷いただけの、家とも言えない住居(?)もいくつかあるね。

 寝っ転がってるゴブリンが三匹に、突っ立ってるだけのゴブリンが一匹、なんか歩いてるのが一匹。当然ながら家の中にいるのはここからじゃ見えない。まだ午前なので、狩りや採集に出てるのもいるかも?

 とりあえず警戒はされていない。寝坊助見張りゴブリン殺ゴブ事件も気づかれてはいないようだ。

 一通り観察してから、木を降りてカレンさんに報告する。


「……なるほど、少し数が多いかもしれません。地方にもよりますが家一軒で六体前後とされていますから」

「三十六?」

「野ざらしの雨避けは家から追い出された独り者ですかね。それを合わせて四十前後。今現在、狩りや採集に出ているかどうかは、何とも言えませんね」


 独り者ゴブリン、こんな冬にも家に入れてくれないなんて、世知辛いなぁ。


「うーん……平地の集落で、奇襲を受ける心配もいりませんし、正面から行きましょうか」

「おいおい、大丈夫か?」

「パーティーメンバーの得意不得意を見たいので、妙に凝った作戦を立てるよりは、まっさらなところから各自の考えで動いてみて欲しいんです」

「そうか。俺には関係ないが、そう言うなら仕方ない」


 微妙に不満気なウーちゃん。なぜベストを尽くさないって気分なのかね?

 カレンさんの判断としては、そもそも即興に近いパーティーで作戦立てても、連携などうまく行かないだろうってのもありそう。みんなソロ経験はあるので、独立して動いた方が良いまである。


「シルバちゃんはお休みでお願いします」


 シルバが行ったら、それこそ何にもせずに終わっちゃうしね。


「あ、集落から逃げたのを片付けてくれるとありがたいかな」

「ワウ」


 シルバは軽くひと鳴き返答すると、集落を回り込むように移動していく。風下で待機するつもりらしい。


「では作戦名『滅びよ! 私たちの幸せのために!』発動です」


 何それ酷い。いや、事実そうなんだけど。

 魔族とは交渉不可能で、人間とは相容れないので仕方ないんだけど。


「……」


 ウーちゃんも何やら嫌な顔をしつつも、無言で頭を振って突撃する。

 一緒に突撃するのはシオン君と、ノエルさん。


 ……ノエルさん?


「おい、なんでお前まで先頭争いしてるんだ」

「?」


 首を傾げつつ、柵に飛び蹴りを入れて破壊するノエルさん。衝撃により柵が幅数メートルに渡って崩壊する。女の子の蹴りじゃないよ。


「なに?」

「……いや、なんでもない」


 聖女?



 柵が吹き飛んだ轟音を合図に、ゴブリンがわらわらと家から飛び出してくる。流石に異常事態という事は分かるようで、半分くらいは武器を携えている。主に石斧と石槍だ。残りの半分は、素手だったが、襲撃者を確認すると武器を取りに引き返す。

 突撃した三人は、全員身体強化を普通に使っている。ノエルさんやシオン君はともかく、ウーちゃんも魔力量が豊富なようだ。

 三人揃って、未だ混乱しているゴブリンの群れに突撃する。

 シオン君は武器を槍モードにして突き、薙ぎ払う。

 ウーちゃんはロングソードでずんばらりん。

 ノエルさんは釘バットで頭を粉砕。グロい。


 うわー、予想通りとはいえ一方的である。「ぎゃー!」だの「くぁー!」だの、ゴブリンの悲鳴ばかりが聞こえる。

 私やることないかも? 一応近くの木に登って上から戦況を伺う。

 む? 弓矢を持ち出してきた奴が何匹かいるね。

 とりあえず一匹を弓で処理しておく。木の上で体勢にかなり無理があるので、連射ができない。

 どうしよう、あと三匹いるぞ。

 その時ウーちゃんの手元から強烈な光が放たれ、そのうち一匹の顔を照らす。


「うぎ!?」


 あれが魔剣の効果? 光っただけで、特に殺傷力があるわけではないようだけど、目くらましには十分な光量があるようだ。

 ひるんだ隙に駆け寄って、袈裟斬りにする。

 その間にもシオン君が、懐から取り出した投げナイフで弓ゴブリン一匹を処理。

 さらに……


「プラズマボール!」


 既に詠唱を終えていたカレンさんが、光球を放って三匹目の弓ゴブリンを爆散させる。木っ端微塵だ。

 暴れまわる三人に動揺していたゴブリン達が、仲間が爆散する衝撃映像(目視)に恐慌をきたし逃走を始める。

 脆い……、圧倒的ではないか我が軍は。


「キュワー!?」


 村の外に逃げたゴブリン達の方から断続的に悲鳴が上がる。シルバの餌食となっているようだ。


「苦戦するよりは良いですが、特に見るべきものもなかったですね」


 カレンさんが言っているのはゴブリン側ではなく、パーティーメンバー側のみるべきもの、という事だろう。

 まぁこれだけ一方的だとね。


 こうして、私の初ゴブリン退治は一方的な完勝に終わったのであった。

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