第18話 体内時間の調整に失敗したよ

【レミリアーヌ・エリシス・グラース】

 ロッドさんを案内することになって、初めて気づいたことがある。

 私って……男の人とうまく喋れない……!

 言葉に詰まって、いつもの微笑で誤魔化すのもうまくできない。

 なんてことだ!


 それで、よくよく思い起こしてみると、前世では異性とのお付き合い経験ゼロ。問題外だね。

 そして、今世では令嬢として迂闊に異性と交流することは、むしろ避ける方向だった。

 そもそも一族内に同世代の子供がほとんどいないんだけどね。エルフの超少子高齢化社会マジパネェっす。

 もちろん親族内の男性との交流はあったが、あれは身内だ。

 あと、使用人と話すこともあったが、それはそれで立場が違いすぎた。事務的な会話ばかりだった気がする。

 うん、事務的な目的のある会話は全然問題ないんだ。

 反対に目的なく世間話をしようとすると話題が全く思いつかない。

 女子会的な流行りのレース模様とか、魔術触媒の流行り廃りとか、精肉店のランク付けとかなら、そこそこいけるのに。

 男性が普段どんな会話するのか全く分からん。サンプルが無さ過ぎて想像すらできない。


 この事実に気づいたのは道中の休憩時にミカ(?)さんに話しかけようとしたときだ。折角なので世間話的になんか話題を振ろうとしたら、全く言葉が出なくて参った。

 そして、目を合わせた後、相手が異性であることが妙に気恥しくなって猛烈に目を逸らしたくなった。我慢したけど。

 いや、我慢すべきではなかったね。結果としてひたすら無言で睨むだけになってしまった、そして、ミカ(?)さんを慄かせてしまった……なんてことだ、なんてことだ……

 どうするのよこれ、今後男性とまともに会話せず生きていけるのだろうか?

 いや、恋人とか結婚相手とか、今の所は全く求めてないから、そういう面では問題ないんだけど、冒険者としてやってけるの? これ。

 はぁー、意外な伏兵。職業を令嬢から冒険者に変えても、我が人生楽にならず、じっとシルバを見る。

「フウ……」

 残念な子を見る目で見ないで! 自覚あるから!



 例の監視ポイントに到着するのには思ったより時間がかかった。私のペースでは速すぎるっぽい。

 ……あ、『ちょっとペース早いですかね』とか会話のとっかかりにちょうど良かったんじゃない? 無能かぁ? 私ってば。

 そんなこと考えながら、監視ポイントの木に登る。

 最初、そのまま登ろうとしたんだけど、仮にも令嬢が異性の前で木にしがみ付いて登るのはどうなのよ、と思いなおして、魔法で姿を消すことにした。別にスカート履いてるわけじゃないし良いんだけどね。

 グリフォンやーい。一日ぶりだね。一方的に。

 ……居なかった。

 空には鳥一匹飛んでなかった。

 ふむ、寝床かな?

 降りて報告する。


「空にグリフォンの姿は見えません。狩りを終えて寝床に戻ったのかも」


 ロッドさんは少し考えて、みんなに指示を出す。


「念のため日暮れまでは火を焚かずにおこう。ミカは一人連れて薪集めを頼む。残りは野営準備だ。魔物には気を付けろ」


 ん? これって私は『残り』の中に入るの? それとも別枠? 分からん……

 どうしよう、手伝う?

 でも慣れてる人達に紛れ込んでも邪魔なだけかも? むむむ。


「どうしたの?」


 エリナ姉様が声を掛けくれる。


「私は何をすれば」

「自由にしてていいけど、野営準備手伝ってもらえたら嬉しいわねぇ」


 そうか、やっぱ手伝うのが当然だよね。

 はぁ、自分の常識の無さが嫌になる。年齢だけは通算よんじゅーいっさい! なのに!



 日が沈みかけた頃に火を起こして食事の用意を開始。

 お任せしてたら、普通に干し肉スープが出てきてうげぇとなる。やられたね。

 エリナ姉様が普通にパクパク食べてるのを見習って、私も我慢して食べたけど……、うう、少しくらい葉っぱを入れて欲しいものだ……。味覚がお子様なのは自覚してます。


 そして満腹になると眠くなる。

 昨日は午後五時に寝て、午前三時に起きたのだ。時間調整しすぎた。

 う~、こうなるともうだめだ。IQが半減してるのが自分でもわかる。お子様なので眠気に勝てないのよ……

 幸い、早めの仮眠は既定路線なので、寝るの自体は問題ないのだが、流石に何も言わずに寝てしまうのはまずかろう。

 しかし、瞼が……、瞼が重いぃー。

 この物理的に重くなる瞼って不思議だよね。どういう仕組みなんだ?


「あの、不寝番とかは」

「あ、私たちが交代で番するから、あなたは寝てていいわよぉ」


 ありがたし。流石お姉様。

 遠慮なくシルバのお腹に突撃してそのまま寝る。


「ワフ」


 邪魔? 良いじゃん良いじゃん、私と君の仲じゃあないかね。

 ふぃー、ぬくぬく極楽じゃー。

 ふと気付いて頭を上げると、周りの視線が痛い。え、なんで?

 首を傾げると、慌てて視線を逸らされた。ふぅむ?

 ま、いいか。おやすみー。ぐー。

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