第14話 やっちまったー!!!
【レミリアーヌ・エリシス・グラース】
宿の自室に入るなり、私はベッドに飛び込んだ。
……
…………
………………
ゴロゴロ……
ゴロゴロゴロ……
じたばたじたばた…………
う~~~~
う~~~~~~~~~~!
うがぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!
やっちまったー!!!!
は・ず・か・しぃぃぃぃ!!!
人前であがって、頭真っ白、書類棒読みとか、前世の新人研修でやったこと、そのまんまじゃん!!!!
まるで成長していない!!!
なぜだー!!
通算四十一歳! 精神年齢アラフォーなのに!!!
「ああああああああぁぁぁぁぁぁ……………」
……いや、十八歳を二回繰り返しても、所詮は十八歳なのか?
そもそも前世は享年二十三歳とはいえ、人間不信で他人との交流を拒否する学生時代を送ったコミュ障だし。実質的には十代かもしれない。
今世もエルフの十八歳とか、人族換算で十五~六歳くらいって言われてるし。
……私って、人生を二回繰り返しても、十五~六のお子様ってこと!?
うぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……
否定できない。
やらかしたあげく、クラリスさんたちの前で大泣きするし。愚痴っちゃうし。慰められるし。
デジャヴすぎる。
いや、前世でほとんど同じことやったのをはっきり覚えてるんだから、既視感じゃ ないな。こういう場合は何て言うんだっけ? 三つ子の魂百まで? 違うような、合ってるような……
ふぅーーーーー
落ち着こう。
……
…………
………………
とりあえず、あの代官? 領主? よく分らん偉そうな人の依頼は受けることにした。
クラリスさんはほっとけって言ってたけど、そうもいかない。
口に出して引き受けると言ってしまったのだ。
それに、私は稼がなくてはならないのだ。お金を。
目標一千万とかいう以前に、今いるこの宿はシルバとも同居できる、そこそこお高い宿なので、週あたりの料金が二万ノルムもするのだ。
一週間狩り禁止となれば、それにプラスして私の食費とシルバの食費その他諸々の生活費が、支出として垂れ流しになるという訳だ。
貯金に余裕はあるけど、あんまり精神衛生上よろしくない。
そこら辺を説明したら、クラリスさんたちも理解してくれた。
「シルバはお高い女だな」「私達の宿、二人合わせて月一万五千だったよね……朝食付きで」
ノエルさんとカレンさんの言葉には、無言で笑顔を返しておいた。
いや、贅沢してるわけでも、金銭感覚がおかしいわけでもないんだよ?
だって仕方ないじゃん? シルバをこの街のやっすい従魔用獣舎に放り込んで別居とか私には無理。
一回覗いたけど、衛生環境とか悪すぎ。多分この街では需要がないせいだよね。
例の依頼は一週間拘束で、四万ノルムもくれるらしい。最初三万五千だったのをクラリスさんが必要経費分としてさらに五千ねじ込んでくれた。ありがたや。
これだけ貰えれば、今の宿を確保しっぱなしにしておいても黒字だ。
依頼の日程は、早速今日からなんだけど……
現在時刻は十時。
……お昼までは精神的ダメージの回復に使っていいよね?
依頼のために必要な買い物をしつつ、今日午前の事を考える。
真面目過ぎ、頑張り過ぎ……か。ははっワロス。
いや、クラリスさんを馬鹿にするつもりは全くないけど、私が真面目とかそんな馬鹿な(笑)
教育係の要求値を下回らないよう、頑張って誤魔化してたのは確かだけど、女官長とか家族にはひーこら言いながら課題こなしつつ、サボってたのがバレバレだった。
これくらいかな? ってとこで抑えて、残りの余裕でサボっていたのだ。
根詰めて、目一杯やってたら、早晩鬱になってただろうね。
私は可能なら一日中何も考えず、ぼーっとしていたいのだ。
勉強も、礼儀作法も、習い事も、魔術も、弓も、狩りも、獲物の解体も、嫌いではないけど、気が向いた時程度にしておきたい。
……改めて考えても、前半はともかく後半は公爵令嬢のやることじゃないよね?
買い物しつつ周囲の会話に聞き耳を立てていると、街中には既に今回のグリフォンの出現とその対応について、いくつか布告が出ているようだった。
一つ、北の森にグリフォンが現れたため、街の外へ出ることを禁止する。
一つ、グリフォンはその性質上街には近寄らないため、街の中であれば安全である。
一つ、王都の冒険者ギルドに討伐依頼済みであり、この事態は一~二週間で解決の見込みである。
一つ、その間の街間移動は商隊を組んで実施する。グリフォンはその性質上、大集団は警戒して襲わないので、これにより概ね安全に移動可能である。商隊は毎日一度、朝十時に出発するため、参加希望者は……
等々。
重要な布告や情報を先に出して、追々対応案を追加していく感じのようだ。
下手な為政者だと、確実な情報を求めるあまり、外には情報を堰き止めたり小出しにしたりして、無用の混乱を招いたりすることがよくある。
この街の責任者はその辺を良く弁えているらしく、素早く情報をオープンにし、対応策も矢継ぎ早やに打ち出している。危機管理というものをよく分っているようだ。
会議室にいた人達だろうけど、なんか徹夜明けっぽい感じだったもんなぁ。立派な人たちだ。
それに対しニコリともせず、棒読み対応してしまった私。穴があったら入りたい……
いやいや、落ち込んでいる場合じゃない。グリフォンを監視することで、私もその助けになるのだ。何の意味があるのかよく分らないけど。
空飛ぶ幻獣を地上から監視しても、何もできることないよね。移動速度は向こうの方が圧倒的に早いんだし。
もし移動を阻止できるのなら、監視とかする前に倒してしまえばいいんだし。
……直感的になんかおかしいとは思ってたけど、よくよく考えてもやっぱりおかしいよね? この依頼って。
あれぇー? この意味のない仕事でお金貰っちゃっていいのかな?
なんか不安になってきた。
でも引き受けちゃったしなぁ……
保存食とかを買い込んで、北門へ向かう。水は魔術で何とかなるので主に食料だが、一週間分だと結構な量になる。シルバがいなかったら危なかった。
門の周辺は事情を把握してない人で混雑しているようだった。
あっさり引き返す人とか、門の守衛さんに文句付ける人とか、特に意味もなくその場で様子を見ている人とか、いろんな人がいる。
その人達をすり抜けてると。前から見たことのある人があらわれた。
げ、ギルドで絡んできた酔っ払いの人だ……
いや、あの後正式に謝罪を受けてるので、わだかまりとかはないんだけど……
名前は……、なんだっけ? パン……パン屋?
「おう、銀狼の姫さんか」
「こんにちわ、パンヤさん」
「パンケだ、パンケ」
「パンケさん」
慌てて言い直す。
「姫さん、門は封鎖されて外には出られねぇぜ。グリフォンが出たらしい」
「姫ではないです」
一応抗議しておこう。一部にバレバレとはいえ、私は表向きただの冒険者。公爵令嬢なんかじゃありませんよー(棒)
「グリフォンの事は知っています。依頼で今からそのグリフォンの監視に向かうんです」
「監視?」
パンケさんが首を傾げる。
「空飛ぶ魔物監視してどうすんだ?」
「……」
パンケさんも疑問に思ったようだ。
ですよねぇー。私にもわかりません。微笑を浮かべて誤魔化す。意味のない仕事でお金貰うんです、なんて言えない……!
「あんたとその銀狼なら大丈夫だろうけど、あんまり変な依頼は受けない方がいいぞ。ちゃんと断れよ?」
心配してくれてるらしい。意外だ。意外と言っちゃ失礼か。けど第一印象がね。
「しかし商売あがったりだな。かーちゃんにまた尻蹴っ飛ばされそうだぜ」
結婚してたのか。意外意外。よし、これからは意外性のパンケさんと呼ぼう。
「ギルドで街の警備名目で、冒険者を雇うそうですよ。休業補償代わりに」
「お、まじか! そいつはありがてぇ」
「お給金はあんまり期待できないかもしれませんが」
「ゼロよりは百倍マシだぜ」
ゼロに百を掛けても……いや、そういう意味じゃないか。
「サンキューな、姫さん」
「姫ではありませんが」
さっさとギルドの方へ行ってしまうパンケさん。
そういえば奉仕活動だかなんだかやらされて、私を逆恨みしてもおかしくなかったのに、全然気にしてない感じだったな。人は見た目によらない。というか、人を見た目で判断しちゃいかんな。反省。
ギルドの許可証を見せて、門を無事通過。
「おい、なんであいつは通過させてるんだ!」
後ろでクレーマーが大騒ぎしてる。ごめんね守衛さん。刺激しちゃって。
世界が変わってもああいうのいるんだなぁ。気を付けよう。
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