第10話 馬鹿っていう方が馬鹿かな
【レミリアーヌ・エリシス・グラース】
いきなり面と向かって馬鹿呼ばわり。これはダメだ、反省。
「つい本音が出てしまいました。申し訳ありません」
「……」
やべ、謝罪になってない。……まぁいいか。奴だし。
「ねぇ、今ウスターシュ王子って言った?」
クラリスさんの顔が若干引き攣り気味だ。
そっか、この国の王子様とかちょっと関わりたくないよね。ちょっと頭おかしいし。
他国民の私でも嫌なんだから、この国の人のクラリスさんはなおさらだ。
あれ? ところで、ロッドさんの弟とか言ってた? ん?
「もう、いきなりバラしちゃうなんて、レミリアも意地悪ねぇ」
エリナ姉様が不満気な顔をしている。
「……義姉上、もう帰って良いですか?」
「義姉上……、良い響きねぇ」
エリナ姉様が何やらうっとりしている。王子氏の要望はもちろんスルーだ。
ところで本当にロッドさんの弟? ってことはロッドさんも王子ってことにならない? うん……?
「エリナさん、いつの間にロッドさんと結婚してたんです?」
カレンさんが私のもう一つの疑問を代弁してくれる。
「うふふ、手続きはまだだけど、どうせ時間の問題なんだから、九割結婚していると言って過言ではないわねぇ」
九割結婚。新たな概念が爆誕している。
でもそれって事実婚ってやつでは? 事実婚が何なのかよく分ってないけど。
「いや、そんな事より王子ってどういう事よ、あとロッドの弟って?」
「そんな事って何よぉ。王子はそのまま、第四王子のウスターシュ君よ。ロド君の本名レイモンって言えばわかるぅ?」
「分かりたくないわ……」
クラリスさんが頭を抱える。
え、ロッドさんレイモン王子だったの?
第三王子レイモンと言えば、ここ数年病気療養ということで表舞台から姿を消している人である。
なんで冒険者なんかやってるんだ。あ、自分にブーメランが刺さった。
「いい加減、話戻さない?」
ノエルさんが珍しくツッコミ役になる。それくらい場が混沌としてきた。
「あー、そうね。つまりぃ、四人にはウーちゃんを伴ってゴブリン退治をしてもらいます。その過程でこの国の現実を見てもらいます。分かりましたかぁ?」
全然分からない。
ウスターシュ殿下も何やら遠い目をしている。これはもう諦めた顔だね。ここに来るまでに何度も抗議してるんだろう。
「一体どんな魔法を……」
うん、王子をこんなとこに引っ張ってきてる時点で魔法だよね、政治的な。誘拐騒ぎとかにならないよね? 信じてますよエリナ姉様。
なんにせよ、エリナ姉様に逆らうのは得策ではないというのが、ここ一年ほどでの経験側だ。指示に従った方がいいだろう。
王子改めウーちゃんにちらりと視線を送ると、目を逸らされた。
若干後ろめたそうな顔だね。
ちょっと頭おかしい人なのかと思ったけど、反応みる限りまともだな。あの時みたいに騒がないし。
あれは何だったのか。
「パーティーを組んでその日に、こんな楽しそうな事になるとは思いませんでした」
何が楽しいのか、シオン君はニコニコだ。
「私はまだ、あなたの事認めてませんからね」
「……」
「なんで俺が……」
「なんでもいいからさっさと準備」
ノエルさんが仕切るって相当だよね。いや偏見は良くないな。
ノエルさんは孤児院育ちだし、その気になりさえすれば意外と面倒見が良いのかもしれない。小さい子供とか面倒見ないといけないしね。
普段は力抜きっぱなしな人だけど。
「私はよほどのことがない限り、口も手も出さないから五人で頑張ってねぇ」
出発準備をする私たちの後ろ、少し距離を開けてエリナ姉様がついてくる。
今回の依頼についてくるのは、たぶんウーちゃんの安全のためだろう。
「大体、保存食をここで買い込む必要あるのか? 無駄に重いだけではないか?」
あー、それ私も思った。
……あれ? カレンさんが呆れた顔をしている。
「あなた目的地聞いてなかったんですか?」
「マルサン近くの開拓村だろう」
カレンさんはウーちゃんが例の婚約破棄野郎と気づいてから当たりがきつい。仮にも王族相手にそれで良いのだろうか。
「マルサンなんて小さな町で、この時期に保存食を調達出来ると思います?」
「……出来ないのか?」
「出来るでしょうね」
「出来るのかよ!」
なぞなぞかな?
「……でも出来ないかもしれない。もし調達できなかったときどうするんです?」
「それは……狩りでもするか」
「この真冬に?」
「……」
? 狩れるよね。
「雪をかき分け依頼そっち除けで狩り? 随分とお暇な方ですね」
「……」
ぐっ! 痛い、痛いよ。
いや、ウーちゃんに言ってるってのは分かってるんだけど。
思いっきり流れ弾が私にクリティカルヒットしてる。
動揺を隠すので精いっぱいだ
「フウ……」
「シルバも大変だな」
シルバとノエルさんがなんか意味深な会話してる。
ひょっとしなくても私の事だよね……
その後ウーちゃん用の毛布やら、人数分のスコップやらと、色々購入し、定期馬車の発着場へ向かう。
カレンさんがなんだかんだ文句言いながらも、率先して準備を手伝ってるのは、やはり王族に何かあると困るからだろうか。
なお、武器とか防具はロッドさんのお下がりを借りているらしい。貴族のボンボン装備にしては、やけに年季が入ってると思ったんだよね。
「乗合馬車で行くのか」
ウーちゃん、ちょっとわくわくしてそうなのは気のせいだろうか。
「もしかしてと思いますけど、馬車借りて行くとか思ってません?」
ウーちゃんがむっとした顔で答える。
「それはないから安心しろ」
え、そうなの? 選択肢の一つじゃないの?
「ゴブリン退治程度で馬車を借りてたら利益圧迫しますし、万が一にも破損したり馬を失ったりしたら大赤字です。保険でも全額保証はないですからね」
そうなのか。馬車の借り賃を五、六人で割れば、乗合馬車利用と大して変わらなくなるから、ありだと思ってた。
「マルサンまでは定期馬車、そこからは徒歩ですね」
なるほど。そして、なんにも打合せしてないのに、誰も異論をはさまない。常識か? 常識なのかこれ?
いかんな、ソロ時代に蓄積した偏った知識に大いなる疑問が生じつつあるぞ? 考えてみれば全部我流じゃないか。迂闊に口を出すと恥を掻くのではないだろうか?
……うん、黙っていよう。この依頼中、冒険関係の話は私から振らないし、答えない!
はい、今決めた。
「……」
「……」
いつものシルバの視線にノエルさんの視線が加わってるのは気のせいだろうか。気のせいだよね。
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