第9話 一夜明けて

【レミリアーヌ・エリシス・グラース】

 翌朝、宿にギルドからの呼び出しが来た。

 うーん、眠い。あんまりよく眠れなかった。

 前世も今世も恋愛とは縁がなかったからなぁ。自分でもこんな初心だとは思ってなかった。まさか一言好きと言われただけでこれとは……。

 こんなことで将来本当に結婚とかできるのか? いかん、また顔がちょっと熱くなりかけてる。

 さっさとギルドへ向かおう。


「おはようございます」


 うお!? 宿の入り口で待ち伏せされてた!?

 元凶が、元凶が朝から奇襲を!


「落ち着きました?」


 ニコニコと笑いかけてくるシオン君をキッと睨みつける。


「大丈夫です」

「でもまだ頬が赤いですよ」

「!?」


 くぅー、遊ばれてる!?


「ごめんなさい、ギルドから呼び出しを受けているので、昨日の続きはまた今度に」


 そもそも続きってなんだ?


「いえ、実はそう改まってするほどの話はないんですよ」

「……? というと?」

「簡単です。僕とパーティーを組みませんか?」

「……」


 パ、パーティー……!

 初めて誘われた!

 え、なにこれ、ちょっと嬉しい!


「その顔を見ると、時間を置いたのは正解だったようですね。昨日の流れで申し込むと、ムキになって拒否されかねないと思ったので」


 ニコニコ顔のシオン君に指摘されて気づいたけど、ポーカーフェイスがまたもや崩れてしまっているようだ。昨日に引き続きまたもや……。


「まだ、返事してませんが?」


 両手でほっぺをムニムニして、ポーカーフェイスを再建する。


「でも拒否ではないですよね?」

「う……、前向きに検討させていただきます」


 くやしい! でもこのチャンスを逃がすと私パーティーとか組めないだろうし。

 ノエルさんもカレンさんも私と組もうとは言ってくれない。

 こっちから言えと思うかもしれないが、無理無理よぉう。断られたら立ち直れない。

 大体、プライベートと仕事は分けたいという人は多いのだ。カレンさんやノエルさんがそうではないと言えるだろうか?

 よしんばパーティー組めたとしても、お金の配分やら連携やらで喧嘩になったり気まずくなったりしたらと想像すると……、うう、恐ろしい。

 私のたった二人のお友達が……。


 その点、シオン君はまだよく分らない人だし、まだ子供だしで、あんまり気兼ねしないで済むのが良い。……好きだの婚約だのはとりあえず考えないでおく。

 あと私は男性が苦手なところがあるから、その点でもリハビリ相手として、子供のシオン君は都合が良いかもしれない。赤面症ならぬ無表情症を治すのだ。

 ぐへへ、利用したるぜシオン君よぉ。


「では早速パーティーとしてギルドの呼び出しに向かいましょう」

「え、まだ了承してませんが」

「え? でも都合が良いから組んでおくかって顔してましたよ?」


 え、うそ?

 両手でほっぺをムニムニする。鏡、鏡を誰か!


「さあ、行きましょう」


 あれー、なんか選択を間違えた気がするぞぉ?



 ギルドに着くと、カレンさんとノエルさんも呼び出されていた。

 シオン君も当然のように同席する。

 あれ、皆スルーしてるけど、私が紹介しないとだよね?

 なんか今更だけど、パーティーメンバー紹介ってちょっと気恥しいな。

 でもどうやって紹介するんだ。告白されましたって? いや、それは言わなくていいか。

 というかタイミングがつかめない。どうしよう。

 色々考えてたけど、結局エリナ姉様が『誰?』って聞いてきて、私の悶々は無駄になったのでありました。


「初めまして、シオン・ゲイルです」

「……」


 あ、なんか紹介的な事言おうとしたけど、気の利いたこと思いつかないや、あはは……

 まぁいいや、黙っていよう。


「今後しばらくレミリアさんと、行動を共にすることになりました」

「は?」

「へ?」


 カレンさんとクラリスさんが変な声を出す。そんなに私がパーティー組むのが珍しいか!? 珍しいね。

 ……ちょっと待って。まさかとは思うけど、パーティーメンバーじゃなくて彼氏と誤解されたりなんかは……。

 うう、急に昨日の告白思い出して意識してしまった。


「え、恋人とか? 年齢的にちょっと犯罪じゃない?」

「ち、違いまふ!」


 うあぁぁ、クラリスさんに誤解されてる! しかも噛んだ。


「僕としてはそれでも良いんですが、段階を経るべきかなと」


 やーめーてー、赤面してしまいそうになるのを耐える。根性だ。


「反対! 反対です! 大体こんなお子様がレミリア様に色目使うとか、じゃなくて冒険者として足手纏いです!」

「僕、Bランクですよ」


 なん……だと……!?


「レミリアさんにふさわしい実力を示す為、せめてBランクはと思い精進してきました。そして先日ようやく昇格出来たんです。とっくにAランクであろうレミリアさんとは、まだ釣り合わないかもしれませんが……」


 A? 何勘違いしてるんだ。私はまだCランクだが? あっれー勘違いさせちゃいましたぁ? 私実はCランクなんすよ。

 ……はぁ、むな「しー」


「……なんですか?」


 おっと、口にでちゃった。


「レミリアってまだCランクよ」


 クラリスさんが真実を口に出してしまった。

 生暖かい目が痛い。痛いよ!

 シオン君の慰めも! 年下に追い抜かれたこの気持ちは、君にはわからぬよ。

 シルバが居てもダメなものはダメなの。


「……ごめんなさい」

「あ、いえ、別に責めてるわけではないですから。実力は間違いないですし、あ、昇格もお手伝いしますよもちろん」

「いいえ! あなたは必要ありませんから!」


 あー、なんか混沌としてきた。

 流石に見咎めたエリナさんが手を叩いて話を戻す。


「はいはい静粛に。さっきの続きだけど、今回の依頼はただのゴブリン退治じゃありません。とある貴族のボンボンの社会勉強です」


 え!? 私!?


「……あ、レミリア、あなたの事じゃないわよ」

「あ、はい……」


 びっくりした! エリナ姉様にいきなりディスられたかと思った!

 仕方ないじゃん。自覚あるんだもん。


「貴族のボンボンの社会勉強。それと、あなた達のパーティー結成テストも兼ねてるわ。そろそろいいでしょ?」


 ん?


「もちろんです。ノエル! 起きなさい!」

「んあ?」


 あれ? もしかして、カレンさんとノエルさんとパーティー組めってこと?

 おおお!? ついに!?

 さっき気まずくなったら怖いとか言っておきながらなんだけど、いざ組めるとなるとものすごくうれしい。我ながら現金なものだ。

 テンション上がって、なんだか頭がふわふわしてきた。


 そんなところにヤツが現れたものだから、ついポロリと思ったことがそのまま口に出てしまったのは、仕方なかったのである。


「あ、ウスターシュ馬鹿王子だ」

「誰が馬鹿だ!」


 なんでこいつがここに?

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