第16話 監視結果を報告しよう
【レミリアーヌ・エリシス・グラース】
「……以上になります」
一週間のグリフォン監視結果を報告し終える。
内容としては、寝床がローアンの北十三キロヤード付近と推定されること、狩りの範囲、一日の狩りの回数、成功率、飛行高度、飛行継続時間などだ。
「ここからは私の推測になりますが、狩りの成功率の低さ、寝床の位置を推定できるような行動の迂闊さなどから考えて、このグリフォンはかなり若いか、もしくは早くに親を亡くして技術の継承がうまくできていないものと思われます。食欲の旺盛さもこの説を補強するでしょう。また、魔境で自然発生した可能性も否定できます」
不思議なことに魔境で自然発生した魔物や魔獣は、一定以上の“経験”を持って生まれる。
平たく言うと最初から強く賢いのだ。
「なるほど……、間違いなさそうだな」
ロッドさんが独白する。私がDランクだから、報告内容の質を疑ってたのかな?
ともあれ及第点と判断してくれたっぽいけど。
「大変参考になった。ここで得られた知見は実際の討伐にも活かせるだろう。順当に討伐が成功したならば、レミリアーヌ殿の報告には一定の貢献が認められるべきと考える」
ロッドさんの目礼に会釈を返す。うーん、結構高評価? ちょっと嬉しい。
「レミリアーヌ、立派になったわねぇ……」
エリナ姉様が感無量といった感じで目じりをハンカチで抑える。感情をストレートに表現する様は相変わらずである。まことに貴族らしくない。
この人の場合、演技でも社交辞令でもなく全部本気だから困る。この調子で天然の愛嬌を振りまいて、男性を勘違いさせまくるのだ。女性もだけど。
「そこで提案だが、レミリアーヌ殿に討伐に同行して頂けないだろうか?」
ん? え、なんで?
グリフォンの寝床まで案内しろってことかな?
「待ってください。レミリアーヌさんはDランクです。Aランクの討伐支援には不適当です。現地への案内は他の者に依頼すべきです」
クラリスさんがすかさず反対意見を述べる。
そりゃそうだよね。
「いや、レミリアーヌ殿は今回の依頼達成によりCランク昇格が確定している。不適当には当たらないよ」
ギルド長は逆に肯定的だ。
というか、昇格とか聞いてませんが。
「それにレミリアーヌ殿の場合、実質的な戦力はBランク以上はあるだろう?」
え、なんでB? あ、ひょっとしてシルバの評価か?
私がおまけってのはあんまり否定できないな。あはは。
この子がBランク冒険者の銀狼シルバさんです! 今ならなんと、おまけでレミリアーヌがついてくるよ!
「ギルド長!」
あほなこと考えてたら、なんかクラリスさんが怒ってギルド長を睨んでた。
ギルド長の目が泳いでる。クラリスさん強いな。
「まぁまぁ。我々としてもDランク――いや、今はCランクか――そのランクを超えた過大な要求をするつもりはない。万が一の場合はレミリアーヌ殿は我々を見捨てて、自分の身を守ることに専念して頂いて構わない」
普通、支援依頼では、不測の事態においても可能な限りメインパーティーの援護を行わなければならない。例えば、怪我人が出た場合の救援などだ。
義務というよりは協力関係の常識的な話だね。無論、自分の命まで懸ける必要はない。
とはいえ、やはりどうしても判断に迷う状況というのは発生し得る。要するにこのお給料でどこまで頑張るべき? という線引きだ。
見捨てて良いというのは、言葉通りというよりは、そのへんの基準を自分の安全側に倒して判断して良いということだ。
「そこまで言われては断れませんね」
「レミリア!」
私の言葉にクラリスさんが怖い顔で反対する。
うーん、でもねぇ。
これって多分、グリフォン討伐とは別の意図がありますよ?
だって、なんだかきな臭いにおいがプンプンするもん。
ギルド長は私の素性を知っているのだ。にも拘らず、危険な依頼に賛成する。これはもう、どこからかギルド長が断れない方面から圧力が来ている。このロッドという人に便宜を図れという圧力が。
おそらく、この件自体は断ることはできる。けど私にとっては問題の先送りにしかならない。これはそういう話だろう。多分。
問題はロッドさんの意図か。
なんだろ? やっぱり実家がらみかなぁ?
意外なのはエリナ姉様が不満気な目をロッドさんに向けてるところ。
なんにせよ、こんなにあからさまなアプローチをとるからには、そこまで悪い話ではないとは思う。
出発は明日の昼過ぎになった。
午後にグリフォンの狩場の外縁ぎりぎりまで移動、そこで野営。夜半に起きて寝床まで移動、夜明けとともに強襲。という計画だ。
精霊魔法使いであるエリナ姉様がグリフォンの風魔法を封じて、残りの五人で囲んでフルボッコである。私は見学。
十中八九問題なく勝てるだろう。
ちなみに魔法使いというのは、技術によらず才能のみで魔法を行使する者をいう。ノエルさんも魔法使い。カレンさんは魔術師である。
魔術も魔法も世間さまはあまり明確には区別してないけどね。あと私も頭の中では結構ごっちゃだ。前世の「不思議な力=魔法」という刷り込みが効いてる気がする。
エリナ姉様の魔法は、お願いと魔力提供だけで大抵の精霊を使役できるという、一種のチート能力である。精霊まで彼女の魅力にやられているらしい。真面目な魔術師が聞くと卒倒するやつだ。
その力でグリフォンの魔法を封じるならば、グリフォンに抵抗する術はない。後は肉体の能力で物理的に抵抗するのみとなる。
ロッドさんがAランク、残りの四人はBランクということだから、戦力的に十分だろう。いざとなればBランクのシルバさんもいるしね!
「ワフ……」
宿の部屋で私の意味深な視線を受けてシルバがジト目で見返してくる。
べつにぃー? 含むところはありませんよぉー?
クラリスさんは最後まで渋ってたけど、ギルド職員の立場では当人が了承しているものを覆すことはできない。
うーん、私を心配しての事だろうから、悪いことしたなぁ。帰ってきたら謝ろう。
今日は早めに就寝する。早めに起きて、計画に備えて睡眠時間をずらすのだ。
一週間の監視任務で結構疲れてるというのもある。
「……」
明日は昼までのんびり日向ぼっこでもしようかな。
現在時刻午後五時。
ということで寝る。お休み。
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