第27話 ちょっとよく分らないですねぇ
【レミリアーヌ・エリシス・グラース】
まぁ、どう考えても素人集団だよね。
冒険者でも職業軍人でもないだろう。
なぜそう言えるか?
現在分かっている情報だけからでも二つ根拠がある。
鎧を着たまま馬に乗り、全員まとまって行軍している。
昼過ぎに街を発っている。
まず一つ目だが、そもそも私達との戦闘を想定しているなら、斥候を出していないのはおかしい。そして、戦闘を想定していないなら、自身も馬も疲労してしまう選択は、冒険でも軍人でもあり得ない。
そして二つ目は言わずもがな。街で休めるのに無駄に野宿をすることになるタイミングで出発するなど、旅慣れていないにもほどがある。
それこそほんまもんの貴族のボンボンではなかろうか? であるならば、私たちの敵ではない。
そして、だからこそ、ヘンリー村に辿り着いた時に何をするか分からないところがある。
「ふむ、言われてみれば、だな」
「同じ貴族のボンボンなら、彼らの目的が想像できるんでは?」
「無理言うな」
ここからもう少し行くと、道が下り傾斜になるので向こうから丸見えだ。それはちょっと拙い。
だとすればここで待った方が良いかな?
それから二時間ほど。
いい加減待ちくたびれた頃に彼らは現れた。予想よりかなり遅い。
なんか徒歩の人達が既に疲れ切って、下向いて歩いてる。
馬乗ってる人達まで疲れ切ってるね。もっとも、それを乗せてる馬の方はそれどころじゃない。明らかにバテバテだ。
みんな俯いてるので全然こちらに気付かない。
「……」
「……」
「……」
どうすんだこれ? って感じでみんなで顔を見合わせる。
「あー、そこの御一行!」
大体二百メートルくらいになったところで、ウーちゃんが思い切って声を掛ける。結構通る声してるんだよね彼。
向こうにもちゃんと聞こえたらしく、びくりとして一行が顔を上げる。
「……」
「……」
じっと見つめ合う、御一行様と我々。お互い無言である。
なんというか……、流石にこの展開は私にも予想外なんですが。
「あーーーーーーっ!」
びっくりした。
先頭で馬に乗ってる人がこちらを指さして大声を出す。
「見つけたぞ! この賊どもめ! 殿下! ご無事でございますか!?」
おおう、これはひょっとしてあれか? 私たちがウーちゃんを誘拐したことになってる?
皆が一斉にエリナ姉様をジト目で睨む。
「いや、国王陛下も公認で、貴族派のお偉いさんも承知の事なんだけどぉ……」
慌てて弁明するけど、本当ぉ?。
「その声はマルサン男爵か!? 私は自分の意志でこの者達に同行しているのだが!」
おお、彼が話題のマルサン男爵か。
いや、流石に代変わりしてるか。子供……、孫かな?
「分かっております! 賊どもに脅されてそう言わされているのでしょう!」
「いや、違うが」
「今お救い致します! 何をしている! 者ども左右から押し包むのだ!」
徒歩の人達が、慌てて左右に散る。
「待て! 私の槍を渡してから行かんか!」
怒鳴られて、慌てて戻って馬上の人達に槍を渡す。
そして自分の剣を抜いて再び散開するのだが……、もうそれだけでへとへとになってる。ぐだぐだである。
最初から疲れ切ってたけど、それにしても体力なさすぎ。手際も悪いし。
これ兵士じゃなくてデスクワーカーを無理やり引っ張ってきたんでは……?
馬に乗ってる人はそこそこ乗馬に慣れていそうではあるが、やはりどこかおかしい。槍の重さで体が傾いてる。
彼らを乗せてる馬の中には、顔の傍でゆらゆら揺れる槍を気にしてか、左へ左へと回りそうになってる子もいる。あの子たち軍馬じゃないね。
「話が通じる感じではないですね。事前の想定とは違う意味で」
「彼も官僚としては優秀なのだが、少々頭が固いところがあってな」
「あんまり人のこと言えないのでは?」
「……」
カレンさんのツッコミに沈黙してしまうウーちゃんであった。
で、あの人達はやっぱり軍人じゃなくて文官か。
さて、どうしよう。
軍馬じゃないならシルバが吠えたら逃げないかな。
「者ども行くぞぉ! とつげきぃー!!」
などと考えているうちに、槍先を揃えて一斉に突撃を開始するマルサン男爵御一行。
……ごめん、嘘ついた。槍先も揃ってないし、ばらばらだし、突撃と言うには遅すぎる。中には馬が走るの拒否してるのもいたり。
「えーと、シルバちょっと威嚇してみてくれる?」
「クゥ……」
本当に良いの? って聞きたそうなシルバの声。
うん、ちょっと、シルバが吠えるだけでもやり過ぎな気がするけどね。
だがまぁ、馬が走ってくるだけでも脅威ではある。
「うん、やっちゃって」
シルバも仕方ないなぁって感じ。
「ワオオオオオオオオオオォン!!」
全力とは程遠いけど、周囲に獣がいればびっくりして逃げ出す程度の遠吠え。
「うわぁ!」
「ぎゃー!」
「うひー!」
一斉に竿立つ馬から放り出されて、地面に叩きつけられるマルサン男爵たち。
人を放り出した馬たちは、てんでんばらばらに逃げ出す。徒歩の人達も腰を抜かすか逃げ出すかどっちかだ。
あ! あぶなっ! 一頭、倒れている人の頭を踏み掛けた子がいたよ。流石に頭が潰れたらノエルさんでも治せないだろう。
「ぐむむ……」
マルサン男爵が槍を杖に立ち上がる。他の四人は伸びてるようだ。……死んでないよね?
「おのれぇ! 卑劣なり! だが私は屈せぬぞぉ!!」
槍を構えてどたどたとこっちに走ってくる。
「あー、ここは私が」
カレンさんが一歩前に出る。
「現世(うつしよ)の根源。陽荷と負荷は天地に分かれ収斂せよ」
あ、雷霆魔術?
ヘンリー村では六セット展開していた魔方陣は今回は一セットだけだ。
銀色の魔方陣が一つは地面に、一つは空に昇っていく。
「全身金属鎧なら、まぁ大丈夫でしょう。ただし強めに……。スタン・フォール!」
ばん! っと衝撃音と閃光が走る。
その場で止まったマルサン男爵が無言で地面に倒れる込む。体からちょっと煙が上がってる。
「殺してないよな?」
「さあ?」
「さあって、おい……」
「金属鎧着てる人には効果が低くなるんで、強めに撃ったんですよね。火傷してるのは確実です」
ノエルさんが倒れているマルサン男爵のところまで、とことこ小走りに駆けて行く。
介抱するのかと思いきや棒でつつく。やめたげてよぉ。
「一応、心臓は動いてるよ。まだ」
良かった。
ところで、電撃って紫外線が発生するからお肌に悪そうだよね。カレンさんにちょっと気を付けるように言っておこうか。カレンさん、お肌大事に。
その後マルサン男爵ご一行のうち、気絶していた五人は武器を取り上げたうえで、治療してあげた。
逃げ散ったり腰を抜かしていた人たちは、大丈夫だからと呼び掛けて、少し離れた位置で待機してもらっている。
マルサン男爵を気付け薬で起こす。
「気が付いたか?」
周りをきょろきょろと見まわし、絶望的な顔になる。
まぁ敵だと思ってる人達に囲まれていたらそうなるよね。
「落ち着け、この者達に害意はない」
「いや、しかし」
「大丈夫だから、事情を聞かせてほしい。お前は私が攫われたと思っていた、で間違いないのか?」
「は……」
ようやく自分の思い込みに疑問を持ったようだ。
「ひょっとして、違うのですか?」
「うむ、間違いだ。一体誰に聞いたのだ?」
「それは……」
改めて周りを見渡す。
「この者達の事は保証する。そこのエルフ三人などは、ミクラガルズの四公家の縁者だ」
「は……」
首を傾げている。大方、なぜ四公家? とか思っているのだろう。
「実は、アデーレ様直々にご下命がありまして」
「母上か」
ウーちゃんが左手で頭を抱える。
なんかご家庭の事情がありそうな感じ?
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