第28話 似た者母子?
【レミリアーヌ・エリシス・グラース】
「アデーレ様は秘かに私を呼び出し、こう仰られました。宮中で政変が起きた、オランニュ公爵が白木蓮派を裏切り、イベール侯爵は失脚、ウスターシュ殿下も何者かに攫われたと。これは派閥の危機のみならず、王国の危機である。事態は今の所、
マルサン男爵がここに至るまでの事情を語る。
新しい人名が出てきたね。イベール侯爵? 名前は知ってるけど……、あ、今の王様の第二妃がイベール侯爵家出身だったな、そう言えば。というかウーちゃんのお母さんだよね。
あと白木蓮派ってのは要するに貴族派だ。
「私はオランニュ公の手の者らに悟られぬよう、秘かに人数を揃え、殿下を攫った賊を追いました。幸いそれらしい一行の目撃情報はすぐ得られ、また目立つ一行だったこともあり、足跡をたどる事はさほど難儀しませんでした。ですが何分皆旅慣れぬもので、なかなかに追いつけず……」
「それは……、ご苦労だったな」
ウーちゃんがマルサン男爵の肩を叩いてねぎらう。王子様に労をねぎらわれた感激と、そもそもなにやら勘違いだったらしい、という困惑とで複雑そうな顔だ。
「すまない、母が迷惑をかけたようだ。似たような動きが宮中にあったのは事実だが、母が言ってるような事実はない。概ね勘違いと言って良い」
「なんと……」
がっくし、って感じ。そりゃそうだ、必死にやっていたことが徒労だったんだから。可哀想。
「王子を攫った連中が目立ってる時点で、疑問に思わなかったのかな?」
ノエルさんがカレンさんにひそひそと話かける。
ですよねぇ。往路では離れていたエリナ姉様を除いて、五人の一行で美少女が四人(シオン君含む)、そのうちエルフが二人だ。目立たないわけがない。
「黙ってて。ややこしくなりそうだから」
「んむ」
ノエルさんが素直。意外と物分かりは良いのだ。意外は失礼か。
「一応補足しておくと、イーベル侯爵が例の国土開発省の現職大臣だ」
「あぁ」
ウーちゃんがこちらに向けて説明してくれる。
なるほど、エリナさんがヘンリー村への綸旨の件で暴れたせいで、大臣職を失いかけてるんだね。
官僚にとっては左遷先でも、貴族にとっては大事なポストだ。派閥内の派閥争い(ややこしいな)のキーになる重要ポジションだろうしね。
まぁ、結局エリナ姉様のせいなのでは? ジト目。
「え、私のせいじゃないわよね? アデーレさんが勘違いしたせいじゃない!」
いや、そうなのかもしれませんけどね? 発端には違いありませんよね? というか王妃様にさん付けとか気安いな。知り合いなのかな。
知り合いだとしたら、あわてんぼう気味のアデーレさんの反応は予想してしかるべきだったのでは? 分かんないけど。
「母上の勘違いとはともかく、貴公らの忠誠と献身はうれしく思う。貴公らも今後の立場について心配があろうが、私が取り計らうので安心するが良い。そうだ、しばらく故郷に逗留して疲れを癒してはどうだ?」
「故郷、ですか」
マルサン男爵が遠い目をする。
「私がこの地で暮らしたのは三歳までの事で、ほとんど記憶がありません。生まれ故郷ではありますが、あまり実感はありませんな……」
「そうだったか」
現在の心境と縁遠い故郷への思いで、複雑そうな表情になるマルサン男爵なのであった。
その後は馬や逃げ散った人達を回収しつつ、マルサンに戻った。
あ、男爵じゃなくて街の方ね。
街の代官さんに頼んで、男爵たちを世話してもらい、私達のことは黙っていてもらうことになった。色々ややこしくなるので。
代官さんに勧められた屋敷への逗留を断って、あえて普通の宿屋に宿泊する。昨日や今日のことで精神的に疲れたので、気兼ねしないで良い所で休みたいというのが皆の一致した意見だ。
「夕食の後で皆に話がある。誰かの部屋で集まってもらえないか?」
ウーちゃんが神妙な顔で提案する。
話? なんだろう?
「そうですね、では私の部屋でどうでしょう」
「頼む」
例によってシルバと一緒の部屋なので、私の部屋は広めでお高い部屋なのだ。往路で浄化魔術で綺麗にしていったせいか、今回はむしろ歓迎された。値引きまでしてくれたし。
宿の食堂で皆で無言のまま黙々と夕食をとる。なんか変な雰囲気だ。主にウーちゃんが。
何この緊張感。
「……」
「……」
「あ、あの、話というのは」
「すまんがここでできる話じゃない」
「あ、はい」
うう、普段喋らないで済むところではだんまり決め込んでるくせに、何となく気になると口を出してしまう。そしてあえなく返り討ち。
結局自分の都合の良い所だけお喋りしたいんだね、私って。我ながら勝手な奴だなぁ。
実家で鍛えた優美かつ素早い食事法でさっさと食べ終えて、ぼーっと皆を眺める。
うーん、それにしても色々あったなぁ。
この後、このパーティーからウーちゃんが抜けるのは当然として、果たして私はこのまま居座って良いのだろうか。そもそも冒険者を続けて良いのだろうか。
シオン君には慰留的なことを言われたけど。若干決めかねているところがある。
この迷いを口に出してしまえば、きっとカレンさんもノエルさんも引き留めてくれるんだろう。そして私はその言葉に喜んで居残るのだろう。
でも、それで良いのか?
「ふぅ」
おっと、ため息が出ちゃった。お父様に何度もやめなさいって言われてたのに。
無意識だからなぁ。難しいよ。
ここ最近は冒険者生活が楽しくて、ため息なんて出てなかったのになぁ。
「部屋は片づけなくて良いのか?」
「あ、そうですね。ではお先に失礼して」
「はい」
「いてら」
宿に入って荷物置いただけだから、別に散らかしてるわけじゃないけどね。まぁ一応、女の子なので。
シルバには隅っこに行ってもらって、備え付けの椅子をそれっぽく配置する。ベッドに二~三人座れるけど、椅子が足りないかな。どうしよう。
隣の部屋から持ってきてもらおうか。
とか思ってると扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼する」
ウーちゃんだ。椅子を二脚持ってきてる。
そう言えばこの人も謎だよね。立場的には普段こんな雑用は人がやってしまうので、それに慣れ過ぎて自分でやろうとすら思えないはずなのに。
一時期、軍で鍛えられてって言ってたからそのせいかな?
ウーちゃんに続いて、シオン君とカレンさんとノエルさん、あとついでにエリザさんが入ってくる。
六人と一頭が入ると、広めの部屋と言っても少々窮屈だ。
「まずは以前の事を改めて謝罪させてほしい」
「以前?」
以前とは? なんかあったっけ?
「……婚約破棄騒動の件だ」
ああー! あれね! 忘れてた! ここ二日いろんなことがありすぎて、どうでも良いことは脳みそのメモリから消去されてたよ。
「その件は示談で解決済みなのでは?」
お金貰ってるしね。
というか、道中カレンさんが散々ツッコミまくってたのをはぐらかし続けてたのに、なんで今更?
「そうなのだが、……正直に言おう。今日のマルサン男爵の件で、気づいてしまったことがある」
「?」
何に?
「多分、おそらく……だが、そもそもあの騒動を起こした俺の動機が……、勘違いだったようなのだ」
なんか、どよーんとした顔をしている。気づきたくなかったって顔。
それにしても勘違い? お母さんと一緒だね。
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