第14話 流石に駄目でしょ私

【レミリアーヌ・エリシス・グラース】

 カレンさんとウーちゃんが言葉のスパーリングを繰り返す間、ノエルさんは寝ていた。

 うん、歩きながら寝てるんだよあの人。


「ほら、こっちですよ」

「んう?」


 シオン君が袖を引っ張って誘導してあげてる。

 けどね、シオン君。それ君が世話を焼くから遠慮なく寝てるんだからね。

 ノエルさんは、自分が手を抜けるときは本当に、とことん、限界ギリギリまで手を抜いてくるので、結構油断がならないのだ。

 まぁ、私も人のこと言えないところがあるけどね。

 そんな感じで市門までの道のりを進んで行く。

 ちなみにエリナ姉様は視界範囲に居ない。どこか、こちらが見える位置にいるはずだけど。


 カレンさんとウーちゃん。


 ノエルさんとシオン君。


 ……あれ?

 私だけぼっちなのでは?


 というか道中から私あんまり喋ってないから、必然的な気もする。

 おおう、シオン君、告白しておきながらさっそく乗り換えるのかい?

 いや、冗談はさておき。

 喋るのを強制されないからって、楽な方、楽な方に流れて、世間話すらしてなかったのはちょっと問題だったのでは?

 私は会話なくても全然気にならないけど、世間的には人と一緒にいるときに黙ってるのって気まずいんだよね? 私にはその感覚がよく分からんのだけど。

 あれ? もう呆れられてる?

 せっかくパーティー組んだのに?

 『あっ(察し)。この人とはやっぱ駄目だわ』ってなってる?

 ……やばい、大いにあり得る。

 まずい……、どうしよう……、手遅れ?

 うぐぐぐ……。


「フウ……」


 シルバ呆れないで!

 ここは本当に皆に呆れられているのかどうか、ジャブを打って確かめるべきだろう。具体的な方法が全く思いつかないが。

 などと悩んでるうちに市門を通過して外に出る。


「なあ」

「なんですか?」

「レミリア……殿が、この旅の途中であまり喋らないのは、やはり俺のせいか?」

「それはそうでしょう。お金で解決したなどと思わないでください」

「まぁな。利用しようとした立場で、どうこう言う権利はないのだが」

「ですから、本当に何しようとしたんですか?」

「……それは言えん」

「はぁ」


 カレンさんとウーちゃんがひそひそ話してますが、聞こえてます。

 エルフの耳って性能良いんだよね。耳たぶが長いだけじゃない。

 うーん、それにしてもこれは『気にしてませんよぉ』って言って会話に入り込むチャンスなのでは?

 よ、よし。いっちょ気合入れて話しかけてみるか。


「……」


 いや、待て! ここで反応したら聞き耳立ててたみたいじゃないか!

 危ない危ない。

 少し時間を空けよう。

 どれくらい空けよう? 五分? 十分?

 いや、分単位では間を空ける意味がないのでは?

 かと言って一時間は長すぎる気がする。

 むむむ……

 そもそも間を空けたとして、何て言って話しかけるんだ?

 気にしてませんよが駄目なら……、こういう時は共通の話題。

 共通か。

 なんだろう? 共通項……、王族と貴族、若い、……そんだけ? だめだ思いつかん。

 うう……。


「ウーちゃん」


 やっべ、ぼそりと口に出てしまった。


「……その呼び方はやめて頂きたいのだが」


 うわぁ、聞かれてた! これは馴れ馴れしい奴だと思われてしまったのでは!?


「申し訳ありません。ついうっかりと」

「いや……、そうだな、嫌味だろうとなんだろうと甘んじて受けなければな」

「いえ、そんなつもりは」


 正直にうっかりを申告したら嫌味に受け取られたでござる。辛い。全然そんなつもりないのに……。

 よし、ここは話を逸らそう。


「ところで、ここから目的地まで歩きとなりますが、ウー……スターシュ様は大丈夫ですか? 野山は歩き慣れないのでは?」

「……もう、ウーちゃんで良いよ」


 めっちゃ深いため息つかれた。

 実際問題ウスターシュ様呼びも微妙なんだよね。正体隠してないじゃん、フルオープンじゃん。

 他のみんなは『あなた』『おい』『お兄さん』とか名前呼びを避けているので、私は何と呼ぶのが最適か参考にならなくて困る。

 あ、今思い出したけど初日に偽名はウースにするって言ってたな。誰も使ってないけど。まぁいいか、ウーちゃんで。


「一応俺も王族の男子だからな。いざという時のため、軍事教練として山野の歩き方、野宿の仕方と一通りの経験はある。俺からすればむしろ、あなたの様な令嬢が冒険者をやってる方が驚きだ」

「ふふふ、私もです」


 ほんとにねぇ。

 実家の方針とは言え、普通じゃないよね。


「ふぅん? ……軍隊といえば、行軍にあたっては先行して斥候を出すものだが、冒険者はどうするんだ?」

「脅威の存在が予想される場合は、スカウトやレンジャーの様な人が先行しますね。街道でわざわざ偵察はしないですが」


 あ、思わず語ってしまったけど、合ってるよね? 私の常識間違ってないよね。


「今回のような場合は?」


 え? 知りませんが? 伊達にソロやってませんが?

 目的地の開拓村へは徒歩半日ほど。行く道は主要街道を外れて、道というのもおこがましい地面の筋だ。

 偵察いるの? ただの草原だけど。え、わからん。

 固まっていると、助け船が入った。


「今回は田舎道とはいえ日常的に利用されている道ですし、さほど必要性があるとは思えませんね。でも、なんでしたら僕のハヤテが役に立ちますよ」


 シオン君がそう言ってハヤテ・サンシチ君を空に放つ。

 サンシチ君は数度羽ばたくと、普通の鳥では有り得ない速さと上昇力で軽やかに舞い上がっていく。風魔法の補助だろうね。


「ハヤテがワイルド・イーグルという魔獣種を、当家で独自に品種改良した種――ロイヤル・イーグルだというのは道中も説明しましたが、僕が短期間でBランクになれたのは、このハヤテのおかげでもあるんですよ」

「ほう、一見普通の鷹に見えるが」

「ロイヤル・イーグル種の最大の特徴はその眼の良さです」

「鷹というのは元々目が良いものではないのか? 鷹の目とも言うしな」

「僕はこの一年で、いわゆる黄金種を八体狩ることに成功しています」

「ほう……」


 黄金種を八体!?

 黄金種というのは金狐を代表とした、金色の体表を持った魔物・魔獣の俗称だ。

 通常種の千体に一体とも言われるレアな存在で、その毛皮や剥製の価値は通常種の百倍以上にもなる。

 ある冒険者が黄金種グリフォンの剥製で城を建てたというのは、良く語られる伝説だ。冒険者の夢の一つと言っても良い。


「ロイヤル・イーグルは魔力を見ることができます。それも相当な精度です」

「黄金種の見分けがつくと?」

「その証拠が金の角兎五体、金狐二体、金豹一体という結果です」


 すごいぃー。

 金豹って元は魔獣の黒豹だから、ランクはB~Cだ。黒豹自体がそこそこレアで、その毛皮もかなり高額で取引されている。その百倍としたら……、質にもよるが一千万ノルムもあり得るな。私の当面の貯金目標じゃないか。

 シルバよりも有能なのでは……、いや流石にそれは不敬。得意分野の違いってだけだ。

 実際、私がシルバに見捨てられたら大変なことになるよ。色々と。

 見つけたサンシチ君もすごいけど、仕留めたシオン君も何気に有能だな。そりゃそうか、Bランクとして認められてるし。私とは違うのだよ……

 などと、得意げな顔をして語るシオン君を複雑な心境で眺める私であった。

 いかん、中身はともかく、せめて外身だけは年上の威厳を保とう。


「ふふふ、凄いですね」


 あら、ちょっと褒めたらシオン君がちょっと赤くなってる。マセガキだと思ってたら意外と初心な反応。

 なかなか可愛いじゃないか。

 これで勝ったな。


「レミィは本当に分かりやすいな」

「フウ……」


 !? ノエルさんに見抜かれてる……。


「ふ、ふふ……」


 ふふふ……。ふふふふ……。

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