第7話 悪巧みに巻き込むなよ 【クラリス】

【クラリス】

 今日は朝からエリナの奴の妙なたくらみに巻き込まれている。


「これならどう? 開拓村、ゴブリン退治、推定規模は小集落、そこそこ遠い、依頼期限かなり余裕あり、条件全部揃ってるわよ」

「あらぁ、本当に丁度良いわねぇ。これにしましょう」


 なーに企んでるんだこいつ。

 眼鏡かけて依頼を吟味していたエリナは、意味深な視線を向けてくる。


「あなたもあの三人のパーティー結成、そろそろって考えてたでしょ?」

「それは考えてたけど、これ難易度低くない? 報酬も少ないし、その割に遠いし。期限に余裕があるのだけが利点というか」

「最初はそのくらいでいいのよぉ」


 にやにや笑いが気持ち悪い。

 こいつが基本的に善人なのは知ってる。

 だけど今に限っては、いたずらを仕掛けようとしている悪ガキにしか見えない。


「本当は手当たり次第に声かけて、もっといろいろ考えてたんだけどぉ、ロド君が止めるし、これくらいでちょっと世間を……」


 なんか、意味の分からない独り言呟いてるし。


「指名依頼料はあんたが負担でいいのよね?」

「そうね。あと私もついて行くから」

「は?」


 こいつは認めがたいが一応Aランク冒険者だ。ゴブリン退治は完全に役不足だ。


「大丈夫、私はみてるだけだから。流石に全部丸投げは安全保障上まずいかなってね」

「何意味の分かんないことを……、変な事に巻き込むなよ?」

「大丈夫大丈夫ぅ、きっとレミリアも喜ぶしぃ」


 意味わからん。あの子たちを変な事に巻き込むなよ?



 翌朝、レミリア、カレン、ノエルをギルドに呼び出す。

 ノエルは半分寝てるけど。


「はぁ、ゴブリン退治ですか」


 なんで今更そんな、って感じの反応のカレン。

 気持ちは分かる。

 レミリアはBランク目前、カレンも同じ、ノエルはとっくにBランク、さらにAランク相当のシルバが付いている。ゴブリンの小集落を殲滅するには明らかに過剰戦力だ。


「このおばさんエルフが、あなた達を指名したいんだってさ」

「誰がおばさんよ!」


 エリナが文句を言うが、年齢的にはおばあさんでもいいくらいだろう。


「もちろんただのゴブリン退治じゃないわよぉ。……ところで、この子は?」


 エルフの子供がなぜかレミリアについてきていた。服装やらからすると冒険者のようだが……。ちょっと若すぎないか?


「初めまして、シオン・ゲイルです」

「……」


 レミリアがそわそわと挙動不審だ。珍しい。内心はどうあれ、それを滅多に外に出す子ではないのに。

 それにしてもこの子、男の子だったんだ? 女の子かと思ってた。


「今後しばらくレミリアさんと、行動を共にすることになりました」

「は?」

「へ?」


 思わず変な声が出る。人見知りの激しいレミリアがパーティーを? 自分で?

 当の本人は、なんか恥ずかし気にもじもじしている。

 え、まさか。


「え、恋人とか? 年齢的にちょっと犯罪じゃない?」

「ち、違いまふ!」


 噛んでるし。


「僕としてはそれでも良いんですが、段階を経るべきかなと」


 おおう……、見た目と違ってこの子押しが強そうだな。レミリアも拒絶してないし……、出来ないだけか? でもエルフでもこの年齢差はどうなんだ? いや、数年すれば誤差か。


「反対! 反対です!」


 カレンが突然叫び出す。


「大体こんなお子様がレミリア様に色目使うとか、じゃなくて冒険者として足手纏いです!」

「僕、Bランクですよ」

「は?」

「な!?」


 カレンが絶句する。そりゃそうだ、自分より五~六歳も年下の子供が、自分より高ランクなんだから。

 レミリアも一緒に絶句してるのはご愛敬ね。


「レミリアさんにふさわしい実力を示す為、せめてBランクはと思い精進してきました。そして先日ようやく昇格出来たんです。とっくにAランクであろうレミリアさんとは、まだ釣り合わないかもしれませんが……」

「C」

「……なんですか?」


 差し挟まれたレミリアの言葉に、シオンの言葉が途切れる。


「レミリアってまだCランクよ」

「……」


 シオンが、え? って感じで首を傾げてる。

 レミリアのしょんぼりっぷりが見てられないわ。いや、平均的冒険者と比べればレミリアも十分、破格の昇格ペースなんだけどね。


「シルバさんがいるのに?」

「あー、まぁ、いろいろとね?」

「……ごめんなさい」

「あ、いえ、別に責めてるわけではないですから。実力は間違いないですし、あ、昇格もお手伝いしますよもちろん」


 しゅんとして謝るレミリアを慌てて慰めるシオン。


「いいえ! あなたは必要ありませんから!」


 カレンが声を荒げる。子供相手に大人げないなぁ。


「シオン・ゲイル……ゲイルねぇ」


 エリナがなにやら思案している。


「このくらいの歳ごろがレミリアに丁度良いかもねぇ。若干男性恐怖症気味だし。慣れさせないと……。よし、はいはい静粛に」


 エリナがパンパンと手を叩く。

 とりあえずこの場は任せるか。というか、まだ何するつもりなのかはっきりとは聞いてないのよね。


「さっきの続きだけど、今回の依頼はただのゴブリン退治じゃありません。とある貴族のボンボンの社会勉強です。……あ、レミリア、あなたの事じゃないわよ」

「あ、はい……」


 貴族のボンボンという言葉にびくりとするレミリアを見て、エリナは安心させるように否定する。

 なんだか今日のレミリアはかなりナイーブになってるわね。


「シオン、あなたも来てもらおうかしら。人数的にもう少し欲しかったところだし丁度良いわ」

「はい」


 ニコニコするシオンと、納得いかなげなカレン。

 ちなみにノエルは最初からテーブルに突っ伏して寝てる。もう誰も気にしてない。


「貴族のボンボンの社会勉強。それと、あなた達のパーティー結成テストも兼ねてるわ。そろそろいいでしょ?」


 レミリアの目に生気が戻る。ほんとに今日は分かりやすいな。


「もちろんです。ノエル! 起きなさい!」

「んあ?」


 寝てるノエルを叩き起こすカレン。


「んん~、……はふ、……パーティー結成はいいけど、貴族の社会勉強って何?」


 この子本当に寝てたのか? なんで話が繋がるのよ。

 というか、そうだ、レミリアの反応でついスルーしちゃったけど社会勉強って何さ。貴族のボンボンってのも。


「それはまず本人を紹介してからにしましょう。お願い、呼んできて」


 空中に向けて語り掛ける。精霊魔法の無駄遣いね。

 しばらくすると、会議室に赤髪の若者が入ってきた。冒険者っぽい身なりだが、装備も服装も全然似合ってない、あからさまに初心者だ。

 物凄く不本意そうな顔をしているのを、エリナが肩に手を置いてニコニコと紹介する。有無を言わせぬ圧力を感じる。


「この子はウーちゃん。ロド君の弟よ」

「ロッドさんの?」

「……」


 レミリアが首を傾げて不思議そうな顔をしている。


「あ、ウスターシュ馬鹿王子だ」

「誰が馬鹿だ!」


 ……なんて?

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