第12話 祝パーティー結成! 【カレン】

【カレン】

 この良く分らない依頼自体はともかく、レミリア様とのパーティー結成は、私にとって全くもって歓迎すべき事でした。

 余分なおまけがついてきたのは、まぁ良しとしましょう。所詮まだ子供です。Bランクってのに納得いかないですけど。

 冒険者ギルドは一種の社会保障を兼ねており、経済的に自活が必要な子供にも仕事を斡旋します。そのため登録には年齢制限がありません。流石に赤ん坊とか常識的にありえないのは断るようですが。

 なので稀に、シオンの様な高ランクの子供が出現します。大体は魔術師か、魔獣使いですけど。


 マルサンへの道中、レミリア様はいつにもまして言葉数が少なくなっていました。

 やはり馬鹿王子に怒っているのかと思っていたのですが、それとなく聞いた感じではそうでもないようです。

 レミリア様は男の人が苦手なので、男が二人も混ざってるせいかと思ったのですが、それも違うようです。

 そもそもシオンは見た目はほとんど女の子なので、レミリア様も身構えずに済んでるようですしね。

 ひょっとして、私たちとパーティーを組んでること自体に緊張している?

 困ったことに、レミリア様の性格上、これは大いにあり得ます。この場合、徐々に慣れてもらうしかないですね。

 そうではなく意識的なものかもと、思い切って聞いてみましたが、ふふふと笑うだけで教えてくれません。ですが、はぐらかすということは、やはりなんらか理由があるのでしょうか?


 ところで最近気づいたのですが、レミリア様が無言でニッコリ笑ったり、ふふふと軽く笑ったりするのは、どうも困っている時の様なのです。

 例えば、答えにくい事を聞かれたり、見られたくないところを見られたり、そんな感じです。

 過去の会話を思い返してみても、良く状況に符合します。もしかして今回も?

 そのことを道中の宿でノエルに言うと、


「え、今頃気付いたの?」

「だって……」


 レミリア様が笑うとこちらも嬉しいので、その場で思考停止していたことは否めません。

 ちなみにこの部屋にはノエルと二人だけで、レミリア様はいません。

 シルバちゃんが厩舎に入れられそうになって、『なら私も厩舎で寝ますね』と躊躇なく向かうのを慌てて止めて、宿の人を説得して、割増料金を払って、ひと騒動の末なんとか別の二人部屋を用意してもらって、シルバちゃんと一緒に入ってもらったのです。

 もちろん男組のシオンと王子はまた別の部屋です。いくら女の子っぽいと言っても、シオンを襲うほど王子も飢えてはいないでしょう。

 ……あ、逆にそういう性癖もあり得るのかな? でもそういう性癖の人って女の子に見える男の子ってどうなんでしょう? ……よく分りませんね。

 閑話休題。


「レミィは考えてることが素直だから、分かりやすいよ?」

「う……」


 そうですね。

 貴族としての生まれから身に着けた、様々な仮面、鎧で身を守っていますが、中身は傷つき易い気弱な女の子です。戦闘力はともかくとして。

 付き合いの浅い人々は外面だけを見て、その美貌に見とれたり、あるいは逆に畏怖したりします。実に勝手なものです。

 親友である私こそが、レミリア様の心情をちゃんと理解していなければいけないのに、どうもこの方面ではノエルに一歩劣ってしまっています。いけませんね、これは。

 今後パーティーとして同一行動をとる事で、理解が深まればよいのですが……。

 それは追々として、もう一つの懸念事項ですね。


「ノエルはあの王子のことどう思う?」

「んあ?」


 既に寝ようとしていたノエルに王子の印象を尋ねる。

 この子は人を見る目はピカイチだ。


「真面目、素直、正義感強い、自ら型に嵌るタイプ、悩みあり、思考が極端に走りがち」

「えぇ……」


 真面目で素直とか、何の冗談ですか。


「人を第一印象で判断するのは良くない。見た目で判断するのと同じ」

「その通りかもしれないけど……」


 どうにも納得いきません。第一印象が酷すぎましたから。

 あれ? この場合、問題点は本人に会う前、新聞記事とレミリア様からの伝聞なので、第一印象とは言わないのかも? まぁそれは置いといて。


「なんだったら、この旅の間に色々話してみたら?」


 レミリア様への脅威度を測るために接触を持つつもりではいました。ですが、


「私が話しかけると、どう考えても攻撃的になっちゃうのよね」

「いいんじゃない?」

「え、いいの?」


 一応は仮にも王子様なので、余り無礼なことを言いすぎると後が怖いのですけど。


「それが本当に他者の人格を貶めるようなことでもない限り、怒らないよあの人」

「……ほんとに?」


 にわかに信じられません。


「育ちが良いんだろね。あと教育も」


 まぁ育ちはこれ以上ないと言っていいほど良いですが。家柄と人格は必ずしも比例しないと思うのですけど。


「まぁ話してみればわかるよ。んじゃ、おやすみ」


 ノエルはそう言うとさっさと寝てしまいます。

 育ちと言えば、孤児院で苦労したらしいノエルが、ひねくれたところが一切ないのも謎ですね。

 冒険の途中で偶然行き会った怪我人を治療して、「んじゃ」と言って礼も求めず去っていく姿は美化され、一部では聖女などと呼ぶ者もいます。

 お金持ちからは遠慮なくとるので、銭ゲバ聖女と嫌ってる人もいますが、これは他人が無料で治療してもらってるのに、自分はお金を取られるということへの苛立ちでしょう。現にそう呼ぶ人は他の人からは相手にされていません。


「人柄ねぇ」


 これでちゃらんぽらんじゃなければ、本当に聖女みたいで近づき難かったでしょうから、今くらいが丁度良いのかも?

 不思議な子です。

 ふう……、私も寝ますか。



 翌日、早速仕掛けてみようと王子に近づきましたが、初日の気まずさなどなかったかのように、気さくに話しかけてきました。


「乗合馬車というものには初めて乗ったが、狭くてかなわんな」

「当たり前でしょう。むしろあれが普通です」

「天井の上に載せた荷物は走ってる間に落ちたりしないのか?」

「時々落ちますね。当然その場で気づけないことが多いので、良くトラブルになります」

「対策しないのか? 側版をもうちょっと上に伸ばすだけでも大分違うと思うが」

「そんなものすぐ壊れます。頑丈にしたらコストもかかりますし、乗合馬車を運営する側にメリットがないじゃないですか」

「それくらいはやってほしいものだが。困る人が多いだろう」

「他人に期待する方が間違ってます。自衛が基本です。これだから育ちの良い人は……」


 なんというか、わざとツッコまれるような話題の振り方です。被虐趣味者なんでしょうか? 流石に口には出しませんが。

 ですが確かに、多少の事では怒ったりしない雰囲気ではありますね。

 常識はともかく、普通の青年という感じです。少なくとも妄想と現実を混同する輩には見えません。

 例の婚約破棄騒動は何だったのでしょうか?

 道中、それとなく探ってみますか。そう簡単には言わない気がしますけど。

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