愛と言う名の下に…… B

愛と言う名の下に…… 4

 たまには、コータローを迎えに行って驚かすのも良いと思い、僕は車で街まで来て、駐車場からコータローの会社まで歩いて向かっていたのだけど……。


 「コーさん良かったっしょ! 唐辛子!」

 「俺、胃が良くないって……」


 僕は中華屋らしき店からコータローと共に出てきた女に、殺意と怒りを混ぜた目線をビルの陰から鋭く送る。

 何だい、あの女……僕のコータローに何『コーさん』って馴れ馴れしく言ってさ~……。

 僕の、僕の、僕のコータローに対してさ……。

 そう、僕の! コータロー! なんだよ!


 「ねーねー、そこのかわい子ちゃん! 俺とデートしな……」

 「あ゛!?」

 「ご、ごめんなさーい!」


 まったく何だい! 僕が忙しい中、わざわざ振り向いてあげたと言うのに、逃げ出して……って、あ! コータローたちが見えなくなる! 急いで追わないと……。


 …………。


 「こ、ここは……」


 二人を追ってやって来たのは大きなデパート、ええいあの女狐め、僕に気づいてこのデパートで僕を巻くつもりだな!?


 「さぁコーさん! この雰囲気を味わうんだ!」

 「落ち着け、まったくお前は……」


 何だいあの女狐は……、デパートの前でコータローに向かってそう叫んで……。

 は、つまりコータローにと言っている訳なのだな!

 ……と言うか、コータローは浮気したって事なのか? 僕と言うモノがありながら……。


 いや待つんだ僕! あのコータローが浮気するとは考えられない、だって!

 ……冷静に考えたら、僕はコータローの事を理解しているのだろうか?

 僕は確かにコータローとの長い付き合いがある。

 だが、僕はコータローの恋愛面に関して理解していると言えない。

 だって彼の口から今まで恋愛の話を聞いたことが無かったから……。


 僕はコータローを見つめながら心で叫ぶ。


 『コータロー、僕の事をどう思っているんだい!?』

 『コータロー、君にとって僕ってどんな存在なんだい!?』

 『なぁコータロー、僕は、僕は……』

 

 そして、その叫びは僕の不安を呼び起こし、胸を締め付け、形の無い重い鎖を僕の体に絡みつく。

 その時の僕が出来たのは、ただ見つめる事だけ。

 そう、見つめるしかできなかった。


 …………。


 僕は家に帰り、暗い寝室のベットの上で丸まりながら、不安を奏でる胸の鼓動を不規則に鳴らし、コータローが早く帰ってくることを願っている。

 両手に握りしめたスマートフォンが鳴らない事を願って……。


 ……そう言えば、僕は妻失格かもしれないな……。

 僕は専業主婦なのに、あまり料理を作れず、家事もコータローにまかせっきりだ。

 そんな不安が。


 


 なんて不安を呼び起こす。

 そんな時だった。


 ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ……。


 スマホが暗い部屋を照らし、そして音が鳴る。

 電話相手はコータロー。

 僕はその電話にゆっくりと出る。


 


 そう言われない事を願って。

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