愛と言う名の下に…… 後編
愛と言う名の下に…… C
愛と言う名の下に…… 7
「お! アカネちゃん、ビキニとっても似合ってるよ~。 と言うか、ちょっとスタイル良すぎない?」
「そう褒めないでくれるかな? ……しかし、今日は誰もいないし僕達の貸し切りみたいだね」
「貸し切りにしてもらったからね」
「ふにゃ!? どういう事だい!?」
「なに、ここの社長と知り合いでね。 誰もいないなら貸し切りにして良いって許可を貰ったんだ」
「……は、はは……、何だかセレブになった気分だよ……」
不思議だ……。
何だか夢を見ている気分だ……。
だけどこれはとても心地が良い夢……だから冷めたくない……。
そんな事を思いつつ、街の夜景が見えるガラスを遠目に眺める僕に。
「んじゃ、早速練習しようか? よっと!」
「うわ!?」
キョースケは僕をお姫様抱っこしてプールのはしごへと歩いていく。
よく見るとキョースケの胸板は、細マッチョと言える位、綺麗に割れている。
ムダ毛も無く、美しい胸板の見本と言っても良い魅力的な胸板だ。
……触ってみたい……。
その胸板は、僕にそんな好奇心を浮かばせ、それは抑えきれない並みとなって、遂には右手の指先で、その胸板をゆっくりなぞってしまう。
「ん? くすぐったいよ~アカネちゃん」
「す、すまない……。 でもつい、その、触りたくなって……」
「ふふ、触って良いよアカネちゃん。 そんなカワイイ表情でそう言われたら断る訳にもいかないしさ」
「ふにゃ!?」
そんな僕に対し、キョースケは少年の様な笑顔で僕にそう言い放ち、僕はキョースケの言葉のせいで胸がドキドキしてしまった。
身体が、顔が、心が火照る。
あぁきっと僕の心はキョースケに奪われてしまったのかもしれないなぁ……。
「ふふ、軽いね、アカネちゃん」
「ぼ、僕が軽くて悪いかい!?」
「いや、可愛らしいと思ってさ! ……気分を悪くした?」
ええい、僕の身体を熱くしてどうするつもりだ!
だ、第一汚いと思うぞ、その子犬の様な困った顔つきは!
胸がキュンとしてしまうではないか!?
ええい、まったく……。
「ぼ、僕は気に、して、ないぞ……。 だ、だけど僕は褒めたって、何もあげないぞ!」
僕は年上として、そう言ってあげるのだが。
「もう貰ったからなぁ、その可愛い言動をね」
「ふにゃ!?」
敵もさるもの、あっという間に主導権を取られてしまった。
……でも、こんなのも悪くはないかな……。
僕はキョースケの胸板に体を預けた。
「やっぱり可愛いなぁアカネちゃん!」
「う、うるさい!」
…………。
さて、プールの中に入ったのだけど……。
「あ、足がつかない! つかないんだ!」
ちょっと淵から離れただけで、僕の足がプールの底につかなくなった。
なので、手足をバタバタさせながら、プールの淵に移動した訳だけど……。
「子供みたいで可愛い!」
「僕が小さいって言うのかい!」
僕の足がつかないだけなのに、キョースケはそんな事を言ってくる。
まったく、僕は小さくないんだ!
単純にプールが深いだけだ、四捨五入して160㎝になる僕は絶対に小さくない、ナイスバディーのモデル体型のつもりだ!
だからコータローも「小さい」なんて一言も言わなかったのに、まったくもう……。
「はははゴメンアカネちゃん! とりあえずほら、まずは泳げるだけ泳いでみようよ、好きな泳ぎ方で良いからさ。 危なくなっても助けられるよう、アカネちゃんの横にいるからさ。 大丈夫、可愛いアカネちゃんなら出来るよ!」
「むうぅぅぅぅ……。 分かったよ……」
僕はその言葉に従い、犬かきで泳ぎ始めた。
大丈夫だ、僕は生徒会長を務めたこともある天才だ。
だから泳ぎも、きっと出来るようになる。
確かに昔は出来なかった、それは当時まだ未熟だったから。
だけど今は大人になり、知的で冷静な判断も出来るようになったのだから僕は泳げるようになるはずだ。
なので、理論的に考え、両手両足を動かして前に進めば……。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ! キョースケ、僕を助けてくれ!」
「ちょっと待ってて! 今行くよ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ! 溺れる、溺れる!」
やっぱり無理だったよ、泳ぐのは……。
そう思いながら水面をバチャバチャ鳴らす僕を。
「ほら、大丈夫だから!」
プールに足が付くキョースケは両腕で抱きしめた。
密着した体、キョースケの息遣い、二人を覆うような水の感覚。
それらは僕らを包んでくれるかの様。
そんな状況の僕が思ったのは。
嬉しい
その感覚だった。
僕は単純に愛に飢えていたのかもしれない。
焼き肉屋に行った時だってそうだった。
ホントは抱きしめてほしかった。
ホントは二人でイチャイチャしたかった。
里帰りの時だって贅沢を言えば一緒に行ってべたべたする時間が欲しかった。
それに、最近は忙しいようで、あまり夫婦の時間も取れてなかった……。
勿論、コータローは大好きだった。
だけど結婚して、僕のワガママな欲は、次に愛を求めていたんだ。
求めていたんだけど……、やっぱり浮気されるくらいだから魅力が無かったのだろう……。
だからこそ、今のこの一瞬は僕に幸福を与えてくれているのだろう。
そして……。
「遅いぞ……、もっと早く僕を助けてくれ……」
僕はそう言うと、キョースケの胸板に飛び込み、キョースケの首を甘く噛んだ。
「……分かったからさ、悲しそうに言わないで……アカネちゃん……」
そんな僕をキョースケは優しく抱きしめ、僕の耳にそう優しく呟いてくれた。
あぁ……幸せだ……。
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