愛と言う名の下に…… 6
コータローへ。
その……単刀直入に言うよ。
僕は、君が若い女の子と一緒にいるのを見てしまったんだ。
最初は浮気じゃないと信じたかった。
だけど電話した時、僕が『残業かい?』って尋ねた時、君は『そんな所だ』って答えたよね。
……僕はとっても悲しかったよ。
だって幼馴染であり、夫てある君が僕に嘘をついたわけだ。
僕が未熟だから浮気したのかな?
僕が魅力的でないからダメなのかな?
僕が主婦として家事が出来ないのがいけないのかな?
色々考えたよ。
でも、それは自分の苦しみを増やすだけだったさ。
だけど、僕はそれを責めようと思わない。
それは君を愛しているからだ。
愛しているから、君を責めたくないんだ。
これ以上何か書こうとすると、長々しくなりそうだから、最後に君に礼を言いたい。
今までありがとう、君との生活はとても充実したものだったよ。
だから、新しい彼女と幸せに暮らしてくれ。
僕はそうなる様に願っているよ……。
…………。
僕は、そう書かれた手紙と離婚届を机に置くと、やや小さな旅行用のバックに、服と下着、結婚する前に貯めた自分の貯金を持って、家を後にした。
そして、フラフラ歩いて見つけたホテルにチェックインすると、部屋に荷物を置いて、そのままホテルの中にある、少しオシャレなレストランで夕ご飯を食べることにした。
レストランのテーブルには僕一人、外を見ると霧雨が薄暗い夕暮れの外を舞う。
そんな雰囲気だからか、正直あまりおいしくない、それに寂しく感じてしまう。
「やっぱり、コータローの事が忘れられないのかな……」
そして、何となくそう呟いた時だった。
「ねぇ君、ここの席良いかな~?」
店に入ってきた若い男が、迷わず僕の横に来てそう呟く。
男は痩せ型の長身で、いかにも遊び人の様なチャラい男。
まぁだけど僕は愚痴を聞いて欲しい気分でもあったから。
「勝手に座ればいいさ……」
なんて言いながら食事を続け。
「なら遠慮なく……」
そして男は、僕の目の前に座った。
「俺、キョースケって言うんだけど、君なんて名前?」
「……僕はアカネだ」
「へぇアカネちゃんね? いやね、君が何か悲しそうな顔をしていたからどうしたのかな?って思って話しかけたんだけどさ」
「へ? そ、そう見えるかい?」
「見えるさ。 だからさ、アカネちゃんが良ければだけど、俺に愚痴を吐いてみない?」
僕は、キョースケの意外な発言に驚いてしまった。
一見チャラい感じの男だけど、意外と気遣いが出来る良い男なのだと思った。
ふふ、人を見た目で判断してはいけないな……。
……ちょっと甘えてみるかな……。
「ふふ、なら遠慮なく僕の愚痴を聞いてもらうよ……」
そして僕はキョースケに、自分の思いを零し始めた。
…………。
「浮気ねぇ……。 つらいよね、それは……」
「ホントさ……、それも長い付き合いだったのにさ……」
「……でも、正直その旦那さんに嫉妬しちゃうなぁ。 だってこんな可愛くて素敵なアカネさんと結婚できたのだから……。 俺も幼馴染だったら求婚したかったなぁ、可愛いアカネちゃんに!」
「ふにゃ!?」
「ふふ、そんなとこも可愛いよ、アカネちゃん!」
「う、嬉しいなんて言わないぞ、僕は!」
「その割には嬉しそうだよね?」
「う、うるさい!」
全てを話し終えた時、僕はキョースケと楽しく会話をしていた。
少し前と違って気分は落ち着き、不思議とこの空間に心地よさを感じている。
だって、キョースケは僕の事を分かってくれている様だから。
そう思いだした僕にキョースケは。
「せっかくだし遊びに行かない? 確かここの屋上にプールがあるらしいんだけど?」
「ふにゃ!?」
なんて誘ってくれた。
正直嬉しかった、こんな楽しく思うのは始めてな様な気がして……。
でも、僕は……。
「で、でも水着とか……」
「大丈夫! レンタルがあるし、費用は俺が全部持つからさ!」
「いや、そうじゃなくてだね……」
「何? どしたのアカネちゃん?」
「……僕、泳ぐの苦手なんだ……」
その、泳ぐのが苦手なんだ……。
学校では頑張って泳いでいたのだけど、その……モミジに負けたくなくて必死に犬かきを……。
だけど、そんな僕にキョースケは。
「大丈夫! 俺が泳ぎを教えるからさ、だから安心しなって!」
なんて僕に優しく言ってくれた。
不思議だ……。
今まで、異性に頼る様な事は何度かあったけど、キョースケの言葉は、僕を包んでくれるような優しさがあった。
だから……。
「ならば、僕に手取り足取り教えてくれると……その、嬉しい……」
なんて甘えてしまった。
……これじゃあ僕も浮気をしているみたいじゃないか……。
でも……、でも、今だけは甘えていたいんだ……。
満たされない僕の心を満たすために……。
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