愛と言う名の下に…… 8
「アカネちゃん、無理に泳がせたようでゴメン」
「いいさ、僕は気にしてないよ……」
「ところで、寒くないかい? 夜だからさ、冷えるでしょ?」
「ふふ、キョースケ、大丈夫さ。 でもそんな気を遣うところ、とても素敵だと僕は思うよ……」
僕はキョースケと窓際の長椅子に並んで座り、楽しく話をしていた。
まるで青春に戻ったかのような感覚で……オホン! 青春を送っている。
それも街のネオンライトを見ながら、まるでどこかの大富豪とデートしている様な気分だ……。
「ねぇ、キョースケはどうして僕に優しくしてくれるのさ?」
「……素敵だからじゃダメ?」
「そのドヤ顔、何かムカつくんだけどさ……」
「ははは! ごめんごめんアカネちゃん! でも、素敵って言うのは嘘じゃないよ」
「ふにゃ!?」
そう言えば、こんな事無かったなぁ……。
……冷静に考えてみれば、コータローとはこんな事無かったなぁ……。
無かったけど、結婚生活はとてもいいものだった。
ふふ、そう言えば結婚してすぐの頃、間違いなく失敗している料理の味付けを「美味いな」って言って食べてくれて……。
……「美味い」って……。
……本当にコータローは浮気したのだろうか?
冷静に考えてみたら、コータローは僕を大切にしてくれていた。
僕が熱を出した時、休んでまで看病してくれた。
焼き肉屋に行く事になった時も「土日が休みになったんだが、どこか行くか?」って聞いてくれた。
もっと言えば、高校時代からコータローのそんな所は、変わらないではないか!?
焼き肉の食べ放題に付き合ってくれたり、僕とモミジの喧嘩を仲裁してくれたりと面倒見が良くて……。
いや、でも最近は仕事仕事って……それに写真を一度も取らなかったし……でも、もしかしたら、ホントに仕事が忙しくて……いや、でも……。
そう僕が悩み、苦悩を始めた時。
「アカネちゃん、ちょっといいかな?」
「ん?」
僕の隣に座るキョースケが真剣な顔で僕を見ている。
一体どうしたのだろう?
いずれにしても……。
「僕は君に話を聞いてもらって助かったんだ、君の話を聞かない訳にはいかないだろう?」
僕はキョースケに助けられた。
だから、彼のお願いはなるべく聞いてあげたい、そう思っている。
そして、優しく微笑む僕にキョースケは自分の思いを僕にぶつける。
「アカネちゃん、いやアカネ! 君と結婚を前提に付き合いたい!」
「ふにゃ!?」
それは僕の予想もしない言葉だった。
更に。
「正直、君を初めて見た時……その、とってもタイプだった、その一目ぼれだったんだ! 最初、君が結婚しているって聞いた時は、ちょっと思いをぶつけるか躊躇したけど、でも君が浮気されたって話や、旦那さんを気遣って身を引いたって話を聞いた時「君を守りたい、一生大切にしたい!」って思うようになったんだ! その、出会ったばかりなのに、こう言うのは間違いかもしれないけど、君の様な素敵な女性とは一生出会えないかもしれない! だから後悔しない様に言うよ! 俺は君を一生守りたいんだ! だから君を守らせてくれ!」
「…………」
僕の肩に腕を載せてそう訴えてきた。
正直、迷う前だったら彼の問いかけへの答えは一つだったかもしれない。
だけど今、コータローとの事を思い出し、僕は答えを出せないままでいる。
正直、キョースケに心を動かされようとしている僕もいる。
でも、今でもコータローを思う僕もいる。
きっとどっちも好きなんだ、僕はきっと……。
だけどそれは……。
「アカネ……お願いだ……、君が欲しいんだ……」
そう考えるうちに僕はキョースケに抱きしめられていた。
優しく、そしてどこか脆く壊れそうな声……、僕の事が本当に好きなのだろう。
ホント神様って残酷だ。
活発さと脆さを併せ持つキョースケって若者と、小さいころから好きだったコータローの二人と出会わせ、そしてどちらかを選ばせようとしているのだから。
……でも僕は怖い……。
コータローが浮気をしているのであれば、キョースケを選ばないと僕は後悔からこの先生きていけないかもしれない……。
でも、それは逆も同じだ。
コータローが浮気していないのに、コータローを捨てることになってしまうのであれば、僕は大バカだ!
長い間、愛していた人間を信じ切れなかったという事になるのだから。
だけど、どちらにしても僕はこのキョースケを放っておけない。
きっと、一世一代の恋をしたのだと思う。
そう考えると、簡単に……。
「アカネ……」
「ん?」
「迷っているのは分かるよ……」
「…………」
「俺の思いにこたえれば、君は長く思いを寄せていた旦那さんを信じられなかったと思う事になるって思ってるんだろう? ……迷うのは分かる、俺だってアカネに告白するか迷った。 だけど『アカネを守りたい』って意思がアカネに告白させる原動力になったんだ。 だから、だから頼む。 これから先、アカネを守って見せる! 俺は君が欲しいんだ!」
「…………」
魂の叫びだった。
そしてキョースケは。
「答え……良いかな……。 迷ってるのは分かるけどさ……、アカネ、受け入れてほしい」
僕の顎を指先でクイッと上げると、目を瞑ってその唇を近づける。
徐々に近づくキョースケの唇。
きっとコレを受け入れたら、僕はキョースケとの第二の人生を歩むことになるのだろう。
だけど、どうする……。
コータローが女と一緒にいたのは事実だ、だけど……。
キョースケ……僕は……僕は……君を……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます