アカネの里帰り B

アカネの里帰り 3

 「さて、夜の営業を始めるところだが、以前から言っていた通り、今日から明日の夜まで、お前たちに全て任せたいと思う」

 「「「イエッサーボス!」」」

 「今日と明日位家族サービスしてくだせぇ、ボス!」

 「楽しい奥様の誕生日パーティーを!」

 「今日は俺たちがこの店を守りますぜ!」


 今日は妻のみすゞの誕生日の前日なのだが、残念ながら俺はみすゞへのプレゼントを用意していない。

 それに毎年、何だかんだ仕事を優先して、今まで誕生日にみすゞを祝えていない、今回位家内を立てる必要があるだろう。

 ……流石に『わ、我を祝ってくれ〜! 今回位、祝ってくれ〜』泣きつかれると俺も弱いと言うかだな……。

 それに俺も最近、色々と思うところもあるんでな……。


 …………。


 さて、店の外に出てみたものの、どうもこの時間に私服で出歩くのは違和感を感じる。

 私服と言っても、30代の頃に買った紺色の綿パンに白のウィシャツと言うシンプルなものなのだが、冷静に考えたら今の外見に似合っているのだろうか、うーむ……。

 いや、それ以前にみすゞへのプレゼントを考えねば。

 とはいうモノの、一体何を渡せば……。

 安直に好きな食べ物と言うのも、流石にだな……。

 そんな事を考えながら夕暮れの街並みを歩いていると。


 「あ、源さん! 珍しいですね、散歩ですか?」

 「ん、モエか? 俺は買い物だ。 お前はバイトが終わって帰るところか?」

 「はい! 今日も頑張りました!」


 近所の飲食店でバイトしているモエが俺に声をかけてきた。

 モエは通信高校に通いながら、自分のやりたい事を探しながらバイトしている子で、たまに店に友達と食べに来る高校二年生だ。

 まぁ今時の子らしからぬ積極性で、初めて店に来た時も『ご飯最高でした! また食べに来たいです!』と店の厨房に押し掛ける位だ。

 少しはこの積極性をアカネ辺りは見習ってほしいものだが……。

 

 「あ、そうそう。 近いうちに源さんのお店で女子会をするつもりなのですけど、15人位来る予定でして……。 大丈夫ですかね?」


 俺はこの申し出にピンときた。

 正直、どんなプレゼントを渡すのが良いのか?全く浮かばない。

 ならば、若い子の意見を聞いて、どういうモノが良いのか考えるのも悪くは無いだろう。


 「あぁ、それなら二階の従業員用の休憩室を使うといい。 あそこならいくら騒いでも問題はないだろうしな」

 「へ? そこまでしてもらって良いんですか!?」

 「構わないぞ。 ただ一つ相談があってだな、妻へのプレゼントを考えているんだが、なかなかいい案が浮かばなくてだな? お前なら何が良いと思う?」

 「うーん……あ! チーズバーガーなんてどうです!?」

 「つまり食べ物か……ありがとう、参考になった。 もし、女子会をする時は店に連絡してくれ」

 「はーい! それではまた〜」


 そして俺はモエに手を振ると、再び街を歩きだす。

 しかし、食べ物と言うのは安直過ぎないだろうか?

 俺もほぼ毎日、みすゞに料理を作っている訳だからな。

 ……うーむ、難しい……、となると答えは一つだ!


 …………。


 「という事で、何を渡そうか迷っているんだコータロー君。 一体どうすれば良いと思う?」

 「叔父さん……。 やっぱり奥さんが好きなものが良いと思いますよ」

 「そうか、すまないな。 時間を取らせてしまって」

 「いえいえ……」


 俺は喫茶店に入ると、コータロー君に電話し、手短に事情を説明した訳だが、帰ってきたのはその様な答えだった。

 やはり、そういう答えになるか……、それはともかく。


 「コータロー君、やはり今回はこっちに来れないのかね?」

 「すみません、仕事が立て込んでまして……、社員総出で大忙しですよ」

 「そうか……。 出来れば君とまた飲みたかったが、忙しいのであれば仕方ないな。 仕事、頑張ってくれ」

 「はい、頑張ります。 仕事が落ち着いたら、そちらに遊びに行きますので、その時にでもご一緒に……」

 「あぁ、そうしようか」


 ……そう言えば、コータロー君には時間を良く作って飲んでいたな。

 そう考えれば、みすゞを蔑ろにしていた部分もあったかもしれないな。

 今度は、みすゞとアカネも一緒に4人で飲むのも良いだろ……。


 「へ? あ、お義姉さん……じゃなくて室長! あ、スマホを返して……」


 ん? 何だ、電話の向こうでガチャガチャ言っているが……?


 「パパ〜! こんな時は長女である私にお任せよ~! 何々相談事でしょ〜」


 そういえば、イツカも一緒の会社だという事を忘れていたな、俺も年だな……。

 まぁせっかくだ、コイツにも相談しておこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る