アカネの里帰り 2

 「お二人とも! 親子なのだから少しは仲良くできないのですか!?」

 「「…………」」


 僕らは今、二人並んでミオちゃんの説教を受けている。

 僕としたことがうかつだった。

 あまりの嬉しさに「ぐふふ……」と声を漏らしてしまったのだから……。

 おかげで僕らは二人仲良く正座して、ご立腹のミオちゃんのお説教を受けているのだ。

 しかし。


 「ええい、僕は母さんが怒られて良い気味だと思って笑っただけなのに、何で母さんは、僕がミオちゃんに怒られる様に仕向けたんだい!? 『ミオ! こ奴は今、人が叱られる姿を喜んでおるぞ! これは説教事案じゃ』って!」

 「ええい、愚か者め! 元を辿れば、貴様が自惚れ屋で理解力に乏しいから、この様な事態になったのじゃぞ、どうしてくれる!? って我の頬を引っ張るにゃ! 大バカモにょ!」

 「そ、そう言いながら僕の膝を抓らないで欲しいんだけど!?」


 まったく、母親なのに暴力を行使するとは実に最低だと思う!

 第一、僕の場合、暴力ではなく、たまたま母さんの頬の弾力が気になって触った結果、たまたま引っ張ってしまった事故なのだ、たまたまだから故意ではないのさ!

 だから……。


 「お二人とも!? いい加減にしてください!」

 「「ぎゃん!」」

 「私は悲しいです! 何でお二人はそこまで喧嘩するのですか!? 何で、一番年下の私が年上を説教しなければいけないんですか! うわぁぁぁぁぁん!」


 ミオちゃんが泣いたのは私悪くないもん!

 事故だって事が察せない程、理解力に乏しい母さんが悪いんだもの!


 「…………」


 ん? 父さんいつの間に!?

 そう思った時、ミオちゃんの横に立っていた父さんは、静かに、そして優しくミオちゃんの頭を撫でる。

 そんな父さんに対して。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁん、おじいちゃあぁぁぁぁぁん! 私は、私は悲しいです! 何で二人を思って説教しているのに、二人はそれを受け入れようとしないのです! 私は、私は……うわぁぁぁぁぁん! ……ククク……」


 ミオちゃんは父さんの胸に顔を埋めながら……ん? 今ミオちゃん、小さく『ククク』って悪い笑い声をあげたよね?


 「の、のうミオ……。 お主、今『ククク』と邪悪そうな笑い声を……!」

 「上げてません」

 「じゃ、じゃがさっきは確かに……!」

 「上げてません! 絶対上げてません!」

 「で、でも……」

 「だ〜か〜ら〜、あたいはんな笑い声上げてねぇって言ってンだろうがゴラ! ……じゃなくて上げてないですから!」


 んんん?

 何か泣いていたって様子は無いよね、と言うか逆切れしてる感じだよね、それ以前に猫を被っているって感じがするよね!

 そして、そんな様子の僕達を見ていた父さんは『はぁ』っとため息をつき。


 「全くお前たちは何で、揃いも揃って腹黒い一面を持っているんだ……」


 と、呆れた顔で僕らを見つめるのであった。


 「……でも、お主はそんな女子おなごに惚れたんじゃろう?」

 「……あの時は俺も若かった……」


 …………。


 「僕は残念だよ、ミオちゃんが猫を被っていたなんてさ……」

 「あたいがアカねーちゃんに言われる筋合いはないね。 それ以前に猫かぶりはばあちゃんからの血筋だろ!」

 「我のせいではないわ、愚か者め! 第一人間なんて皆、猫を被っているようなモノじゃろうが!」

 「何が皆、猫を被っているだい! 猫かぶりの血筋筆頭である母さんが言えた義理ではないじゃないか! あとミオちゃん、アカねーちゃんって略するの止めて!」

 「んな事を年上なのに言うから、心も体もコンパクトなんだろうが。 つーかその猫かぶりの血筋を引き継いでいるアカねーちゃんも言えないじゃないかっての!」

 「ミオ、そういうお主もその血筋を引いていたのじゃから言えぬじゃろうが!」

 「「「…………」」」


 さて、父さんが早めの夕ご飯を置いてキッチンに戻っている間、僕らはテーブルの上に並んだ豪華な食事を食べながら、猫を被らず互いに罵倒する。

 しかしまさか、ミオちゃんが猫かぶりだとは思わなかった。

 まったく、人の容姿を罵倒したり、悪だくみを考えるような性格、一体誰に似たんだか……。


 「ホント、誰かさんは誰かさんに似て、容姿を罵倒したり、悪だくみを考えたり、最低だよな! まったく、あたいとはえらい違いだぜ」

 「ミオ、それは我に対して言っているのか!? 年上に対して失礼じゃぞ!」

 「ミオちゃん良く言った! 僕はその行動を応援するよ!」

 「いや、アカ姉ちゃんにも言ってるんだけど、アタシは」

 「まったく、これだから自惚れ屋で理解力に乏しいと言われるのじゃ、お主は」

 「そうやって相手を罵倒する母さんに言われたくないね! 第一……」


 そして、互いへの不満が爆発した僕らは、三つ巴の言い争いを始めるのだった。

 ホント、失礼しちゃうなこの二人は!

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