アカネの里帰り
アカネの里帰り A
アカネの里帰り 1
事の始まりは、僕の父さんが。
『今度母さんが誕生日を迎えるんだ、都合が良ければ家に帰って来い』
と言ってきたのが始まりだ。
だから今、母さんの誕生日前日の今日、列車に乗って伊万里駅へと向かっているのだが、今回コータローは仕事の為時間が取れなかった為、一人で向かう事になってしまった。
…………。
佐賀県伊万里市は僕、コータロー、氷菓先輩、そしてモミジの生まれ故郷だ。
昔はこの町の味のある建物の数々と自然がある街並みに対して、何も感じることは無かったけど、一度この町を離れてから改めて戻ってみると、この町の味わいと言うモノが分かった気がしている。
そんな街の一角に僕の実家がある。
それがこの、レストラン『たぬきねこ』だ。
見た目は白を基調とした4階建てのビルで、レストランである一階はやや高級な雰囲気漂うオシャレな感じだ。
だけど……。
「お帰りなさい、お嬢ぉぉぉぉぉぉぉ!」
「変わらずお美しい事でぇぇぇぇぇぇ!」
「もう少ししたら、一端店を閉めますんで、ご要望なら食事を用意しますよぉぉぉぉぉぉぉ!」
毎回のことながら、この実家の厨房の暑苦しさはどうも慣れない。
だって、うちのレストランの従業員は、何でか筋肉モリモリばっかりだもの。
それに毎回声が大きいし……。
まぁそれはいつもの事だし、気にし出したらキリがないので置いといてっと。
「や、やぁみんな……。 元気そうで何よりだ、食事は駅弁を食べたから大丈夫だ。 ところで父さんと母さんはどこだい?」
僕は裏口の扉の上から引きつった笑顔を浮かべ、父さんの居場所を尋ねる。
いつもなら、父さんも調理場に立ち、ガンガン料理を作っているハズなんだけど見渡してもいないし。
「む? 何だ、帰って来たのか? ところで、コータロー君はどこだ?」
「仕事で忙しくて来れないってさ」
「そうか……」
おっと父さんは店のフロアにいたようだね、全くそんなに残念そうな顔をしないでくれよ……。
父さんこと佐々木
そんな父さんだけど、コータローの事をとっても気にいっていて、結婚する前から良く飲みに誘っては話をしていたそうだ。
そして、その度に。
『アカネと結婚してくれたら、俺に思い残す事はない』
『君が息子なら安心できる』
『まぁ何かあったらいつでも頼って来い』
と言っていたと、結婚前コータローに教えてもらい、僕は父の思いもよらぬ行動を取っていた事に顔を真っ赤に染めたものだ。
さて、そんな父さんは。
「アカネ、遅れても来ないのか?」
「父さん、コータローは来れないよ」
「そうか、分かった。 アカネ、上にいるといい。 よし、テメェら! あと少しで昼の営業時間は終わりだ! 気張って料理を作るぞ!」
「「「イエッサーボス!」」」
僕にそんな確認をし、そして僕は父さんの言葉に従い、レストランの階段を上がり、3階にある住居スペースへ向かうのであった。
父さん、コータローが来なくて落ち込んでいるの、分かるよ。
だって、いつもはポーカーフェイスであまり表情が変わらないのに、ちょっと寂しそうな表情を浮かべてるしさ……。
…………。
「あら? アカネお姉ちゃんじゃないですか。 お姉ちゃんもお爺ちゃんに誕生日に呼ばれたのですか?」
「おぉ、ミオちゃんじゃないか! 君がいるとすると……ど、どこだ! あのセクハラ魔は!?」
「あはは……、今日は母はお仕事が忙しくて……。 なので本日は私一人ですよ」
「な、なら良かった……。 ほっ……」
さて、3階に上がり、リビングの扉を開けた僕の目に、ソファーに座り、本を読んでいた少女の言葉に僕は出迎えられた。
この子は佐々木ミオ、僕の姉であるイツカの子、つまり僕の姪だ。
15歳にして、モデル顔負けの体で、優しさを感じさせる大きな瞳と長いポニーテールが印象的な大人顔負けの美女。
そして僕に似て、勉強もスポーツも出来る文武両道な自慢の姪……べ、べ、べ、別に身長も胸も大きいのに僕の様に文武両道ってズルいとか思ってないんだからね、僕は!
「あ、そうそうアカネお姉ちゃん。 これ、私から……」
「む? これは?」
さて、そんなミオちゃんは立ち上がると、自分の横に置いていた袋を僕に渡してきた。
「この前修学旅行で沖縄行ってきたので、ちんすこうを買って来まして」
「おぉ、すまないなミオちゃん! 君の様な出来た子が僕の姪だという事がとても嬉しいよ!」
「いえいえ、母がお姉ちゃんに色々迷惑をかけてますから、これくらいはですね……」
「い、良いんだよ僕は〜、君が悪い訳じゃないだろう〜?」
あぁ、何て良い子なんだ、ミオちゃんは……。
真面目だしさ、こうやって気を使って僕にお土産を買ってきてくれたりしてさ、いやー実に出来た子だと思うよ。
きっと他の人から見れば、仲睦ましい叔母と姪っ子……オホン! とっても素敵なアカネお姉さまと、とてもいい子な姪っ子のミオちゃんと言う構図に見えなくもないと思う!
いや、それどころか僕の外見から行けば、姉妹と言っても問題ないレベルだと言えるかもしれないなぁ〜。
そう思っていた時。
「まるで姉妹みたいじゃな?」
いつの間にかリビングの扉にうっかかり、僕の母さんが腕を組んで僕らを見ている。
母さんこと佐々木
正直小さい時から、鋭いクールな目と長い黒髪と豊満な体の三つから放たれる、女王の様な品格と色気を混ぜたような姿を、昔から一切変わることなく今に至っているのだけど、やっぱり老けないDNAでもあるのだろうか?
それはさておき、母さんも良い事を言う!
えへへ、いつも怖い母さんに褒められると僕も嬉しいなぁ……。
「えへへ……。 母さんからお姉さんらしさを評価されると、僕も嬉しいと言うかだね……」
「何を言っておるアカネ、ミオの方が姉の威厳を持っておるわ。 身長も負け、性格は子供っぽくて負け、おまけに胸も負け……。 そんな主の何処に、姉らしく思われる要素があると思ったんじゃ? 我が娘ながら愚かしい……」
「な!? そ、そこまで言わなくても良いじゃないか、母さん! 僕は母さんの娘なんだよ! 少しは愛情もって発言しても……」
「愚か者に愚かを伝えるのも愛じゃろう? それとも我は主に、愚考を知らせず、泥沼に落ちて、そのもがく様を楽しめと言うのか? まぁその姿を眺めるのも一興かのう……。 ククククク……」
「う、うわぁぁぁぁぁぁん、ミオちゃぁぁぁぁぁぁん! 母さんが僕をイジメるんだあぁぁぁぁぁ!」
僕はその言葉を聞いて、ミオちゃんの胸に飛びついて思いっきり泣いた。
ホント、ホント、自分の娘にここまで言う事無いじゃないか!?
「だ、大丈夫ですよ、アカネお姉ちゃん! き、きっと冗談ですから!」
「気を遣う事は無いぞミオ。 まさに今の姿こそ、じゃろうが……」
「はぁ……。 そこまで言わなくていいと思いますよ、おばあちゃん……」
「な、何じゃその呆れた目は!?」
僕はその会話をミオちゃんのお腹に埋めながら聞いてニヤッと笑った。
ありがとうミオちゃん、僕の代わりに遠慮なく、その不老人間を追い詰めてくれたまえ!
ふふふふふ……。
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