夫達と妻達の時間
夫達と妻達の時間 A
夫達と妻達の時間 1
八月の終わりに差し掛かった頃。
僕は今、モミジのマンションの寝室のイスにやってきて、モミジの看病をしている。
「何で僕が君の面倒なんかを見なければいけないんだ……」
「ふ、ふんですわ……」
まったく、こんな状況で無ければ、ベッドに寝転がるモミジの面倒なんて見る気にはならなかったものを……。
…………。
事の始まりは、色々なタイミングが重なったため。
モミジのつわりが酷くなったころ、急にコータローとタツヤ達は一週間程出張に行かなければいけなくなり、氷菓先輩夫婦は実家に戻っていてしばらく帰ってこれないらしく、他も色々用事があったらしく、面倒を見れるのが僕しかいない状況になったらしい。
しかしだ。
「モミジ、君の事は嫌いだけど、一つ心配して言うよ。 君はお菓子ばかり食べ過ぎなのではないかな?」
ベッドの下に置かれたポテトチップスや、チョコレート等のお菓子を見ていると、ホントにモミジはお菓子を食べ過ぎだと思う。
その、やっぱり子供を産むために栄養は大切だろうけど、栄養の偏りはあまり良くないのではないかな? っと僕は思う訳だが……。
「そうかしら? あ、でもワタクシ、脂っこいお菓子を食べたいって気分なのですわ。 今までそんな事は無かったのですけど……」
「む? だけど、お腹の赤ちゃんには影響はないのかい? ちょっと僕は心配なんだけど……」
「さぁ、ワタクシそこまで聞いてませんでしたわね……。 ちょっと調べてみますわ」
まったく、子供を産むと言うのに呑気な事だな……。
ただ、お菓子が健康にいいとも思えないし……これは止めるべきだな。
「ってモミジ、君はそんな大切な事をスマートフォンで調べるのかい!? 僕は医者に直接聞いた方が良いと思うのだけど!?」
「まぁ言われれば……っと、やっぱりお菓子ばっかり食べるのは良くないらしいですわね。 これから少し控えなければ……」
「ま、まぁインターネットでも悪いと言っているのなら、医者に聞くまでもないのだろうかな?」
う、うーん……まぁモミジがお菓子を控えてくれるのであれば、まぁ良いか……。
そう思った時だった。
「あ……そこの洗面器、取ってくれません!」
「わ、分かった!」
モミジが身体を起こして急にそう頼むものだから、僕は急いでベットの横の床にある三つの洗面器から一つ取ると、それを急いでモミジに渡す。
するとモミジは、その洗面器に向けて吐き出した。
「う、う、おえ〜……」
「まったく、大丈夫かい? 水か何か持ってこようか?」
「お、お願いしますわ……」
「分かった」
そして僕はそう言うと、モミジの吐き終わった洗面器を回収し、新しい洗面器をモミジに渡すと僕は部屋を後にした。
…………。
僕はまずトイレに向かい、モミジの吐いたものをトイレに流す。
何度も言うが、僕はモミジが嫌いだ。
外見も、そして高飛車な性格も嫌いだ。
だけど、何だかんだここまで関係があるのは、ある意味腐れ縁の様なモノがあるのだと思う、不本意だけど……。
まぁそんな腐れ縁の様な関係だからこそ、遠慮なく話せるし、悪口も堂々と言えるのかもしれないけど。
しかし、そんな腐れ縁がつわりで苦しんでいて、尚且つ助けられるのが僕しかいないんだ。
ならば、これくらいしてあげるのは、仕方ない事だと僕は思う。
……っと、とりあえず風呂場で洗面器を洗い終わったし、後は水と……いや、どうせなら口をゆすぐ水と、栄養を取る為にヨーグルトの飲み物を持って行ってあげべきかな?
しかし、まったくモミジの奴、早く元気にならないかな……?
罵倒で言い返してこないから、遠慮なく罵倒がしにくいではないか……。
…………。
「ほら、口をすすぐ水とヨーグルトの飲み物だ。 洗面器はまた取りに行ってくる」
「か、感謝しますわよ……」
「まったく……」
僕は寝室に戻ると、モミジの横に立ってそう口にする。
ホント、つわりってキツイんだな……、あのモミジが素直に感謝をするのだから……。
「……ント……から………ませんわね……」
「ん?」
「ホント、昔から変わりませんわね、アナタは……」
「な、何だって!? ぼ、僕だってね、昔に比べたらナイスバディになったんだから、昔と比べて成長を……」
「成長の事ではありませんわよ……。 その、性格の事ですわ……」
「へ?」
せ、性格が!?
……うーん……。
は、つまり僕が子供っぽいって言いたいのか!? モミジの奴!
「フーフー!」
「……アナタ、威嚇している様子か察するに、何か大きな勘違いしてますわね……。 わたくしは素直にアナタの性格を褒めているのですわよ、珍しく……」
「ふにゃ?」
「だってアナタは何だかんだ昔から、困っている相手を放っておかないじゃない」
な、何だろう……。
モミジに褒められてばかりだと、僕はどうも寒気を感じると言うか……。
も、もしや……。
「も、モミジ……。 君、変な薬を飲んだんじゃないかい!? 流石に僕も心配だよ!」
「な、何を言うのです! わたくしだってたまには褒めますとも!」
僕がそう尋ねると、上半身を起こしてモミジはそう僕に訴えかける。
でも、やっぱり僕は凄い違和感を感じて仕方ないのだけどさ……。
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