夫達と妻達の時間 2

 「まぁ何だ、君の様子がいつもと違うのは良く分かったのだけど……」

 「な、何ですの……」


 もしかしたら、つわりになると、気持ちが変わる部分があるのかもしれないと僕は思った。

 僕もモミジを知っている訳ではないから断言は出来ないが、今までモミジがお菓子が大好きだと言う話も聞いたことも無いし、僕を素直にほめる様な性格では無いはずだ!

 だから。


 「僕の右手を離してくれないかな!? 何で強く握っているんだい!」


 モミジが僕の腕を強く掴んでいるのは、きっとつわりのせいだと僕は思う!

 と言うか、具合が悪いなら話してくれないかな、ホント!


 「あ、あの……わ、ワタクシとお話しません事……?」

 「へ?」

 「お願いですわ……ワタクシ、寂しいのです……」


 ……ちょっと落ち着こう僕。

 えーっと今、何と言ったかな?

 そうだ! 『わ、ワタクシと一緒にお話ししません事……?』だったね。

 しかも今、顔を赤く染めて恥ずかしそうに僕を誘って……。

 ……まさか!


 「モミジ! 君は両刀バイだったのか!?」

 「はい? な、何を言っているのです、アナタは!?」

 「だって君は今、僕を誘っただろう! だけどお断りだ、僕にはコータローと言う素敵な夫がいるんだ、君に食べられてやるものか!」

 「な! 何を勘違いしているのです! 私は最近、タツヤ以外と話せてなくて正直ちょっと寂しいから、お話を……あ、吐きそうですわ……」

 「まったく……」


 僕はモミジの右手を振りほどくと、洗面器を手に取り、そしてそれをモミジに渡す。

 しかしモミジがこれほど寂しくて話したがるなんて、相当なものなのかもしれないなぁ……。


 「はぁ、少し楽になりましたわ……。 ところで、アナタは子供、欲しくありませんの?」

 「いきなりどうしたんだい? そんなこと聞いて?」

 「いえ、単純に気になっただけですわ。 アナタ、昔からコータローの事が大好きな割に、そんな話を聞かないから……」

 「……まぁ欲しいかな~」

 「なら、ワタクシみたいに誘えば良いではありませんの?」

 「ぬ〜……」


 確かにそれはモミジの言う通りだと思う。

 経済的に不安がある訳でもなく、子供が欲しくない訳でもなく、かと言って抱かれたくない訳でもなく……。

 だけど、きっとそうならないのは、僕の個人的な部分があるからだ。

 だから僕から誘うような真似はしたくない。


 だって、


 その、やっぱり生徒会長とかしてきた清純派だから、僕から夜のお誘いをしたら、そのイメージが崩れてしまう訳だ。

 だから合法的に襲わせるために、薬を盛ったり、ベタベタくっついたりしていた訳だけど、そういえば効果が無かったなぁ……。

 ……そう考えてくると、何か悔しい!

 僕の様な美少女(気持ちは16歳だからセーフ!)のお色気攻撃をしているのに、少しは反応してくれていいじゃないか!

 ちょっとムラムラして襲い掛かってきて、一夜の過ちを犯してもいいじゃないか! むにゃー!


 ……しかし、『ワタクシみたいに』という事はモミジから夜のお誘いをした訳か。

 でも、モミジはどんな風に夜のお誘いをしたのだろうか?

 ま、まぁ話し相手をして欲しいだろうし、会話する話題として聞いてやろうではないか!

 け、け、け、決してどう誘えば良いか分からないから聞くわけではない、僕はそう思っていない!


 「は、話、変わるけど、き、君は、どうやって、夜のお誘い、誘いをした、訳かな?」

 「……アナタ、壊れたロボットみたいな口調になってますわよ」

 「う、うるさい! 僕は清純派なんだ、だから僕は自分から夜のお誘いはしないんだ!」

 「その割には、この前焼き肉を一緒に食べに言った時、『獣たちの挽歌』を使ってましたわよね?」

 「ふにゃ! な、何の事だい、僕はそんな香水知らないのだけど!?」

 「何で『獣たちの挽歌』が香水だって知っているのですか? 『わたくしは使っていましたよね?』としか言ってませんわよ?」

 「う……」


 ええい、モミジの癖に生意気な!

 つわりで体調が悪いなら大人しくしていればいいものを……。

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